岩手県雫石町は、岩手山をはじめとする山々と高原が町の約8割を占めているという自然豊かな町だ。「雫石」と町内にある「網張温泉」の由来を探る。
この「雫石」の地名の由来になっている伝説がある雫石神社を訪ねた。
雫石神社の管理者である松本光正さんに、境内にある大きな杉の木を案内してもらった。杉の木の根元には小さな洞窟のような穴がある。
松本光正さん
「穴の中に銚子の口先のような石があって、そこから雫が落ちていた。それが“雫石たんたん”ということで、雫石町の地名の由来になっている」
諸説ある由来の一つは平安時代の言い伝えで、この辺りに響いていた「たーんたーん」という不思議な音。
音を辿っていくと洞窟があり、洞窟の中では水の雫が滴り落ちて石に当たり「たーんたーん」という音が響いていたという。
地名の由来について、長年にわたり県内各地の地名について調査している奥州市出身の宍戸敦さんは次のように説明する。
宍戸敦さん
「雫が石のところに『たーんたーん』と音を立てて滴り落ちる。その音が地名になったという説は可能性としては高いと考えている。県内にも水の音が由来となる地名は多くある。特に川については『ざーざー』と流れる音や『どーどー』と水が流れ落ちる音とか注目を浴びやすい。そういう場所は地名になりやすい」
雫石神社にある洞窟は現在、水量が多く石に雫が滴り落ちる音は聞くことができない。そこで「平安時代の言い伝え」を実感できるよう、境内に「水琴窟(すいきんくつ)」が作られた。
「水琴窟」とは、地中に埋められた甕(かめ)に水が滴り落ちる音で庭園などを演出する仕掛け。
雫石の地名の由来を知って「水琴窟」の音を聞くと、風情があっていい。
さらに、雫石町が誇る観光地の一つとして人気を誇る「網張温泉」。この「網張」という地名について宍戸敦さんは「諸説いろいろあるが、網張の湯は昔、マタギがよく入ったと言われている」と話す。
宍戸敦さん
「マタギが入浴する際、山から発生する悪い“気”を避けるため、湯の周りに網を張ったことから『網張の湯』となったと言われている」
網を張って温泉を守ったという伝説が残る網張温泉。硫黄が香る名湯は古くから訪れる人たちを癒してきた。
休暇村 岩手網張温泉 中村龍太郎さん
「『網張温泉』は1300年ほど前からある岩手県内では最も古い温泉とも言われている。硫黄の風呂はホテルに2カ所、山の中にある仙女の湯1カ所、また足湯、温泉館1カ所、「ありね山荘」に1カ所、計6カ所温泉施設がある。『網張』は、網を張って温泉を守ったとか色々説はあるが、そういう土地だと聞いている」
国立公園の中にある「網張温泉」。これからの季節はキャンプを楽しむ人も多いという。
中村さんは「地元の人には『網張』と言えば分かってもらえるが、これからもっと県外の人を含め多くの人に知ってもらい、網張温泉に来て楽しんでもらえたらと考えている」と話していた。