万博会場に立つ、真っ黒なパビリオン。プロデューサーを務めたのは、“異端”の教授です。
■ロボット工学の世界的権威が描く人間とアンドロイドの共存社会
大阪大学の石黒浩教授。人間そっくりのアンドロイドを開発する、ロボット工学の世界的権威です。
【大阪大学 石黒浩教授】「人間は他の動物と違って、科学技術で能力を拡張・進化する。命の可能性を広げていく。そういった未来を、たくさんのロボットやアンドロイドと一緒に展示していきます」
大阪・関西万博のパビリオンをプロデュースし、これまで開発に携わってきたアンドロイドやロボットを展示。パビリオンの名前として掲げたのは、「いのちの未来」です。
【訪れた人】「なんかすごかったです。アンドロイドに手を振っていました。区別ついてないのかもしれない」
【訪れた人】「全く想像していなかった世界なので。石黒先生の頭の中を見てみたいですね」
■7歳の記憶が研究の原点か 「みどり館」が残した深い印象
このパビリオンで、一体何を見せようとしているのでしょうか?
石黒教授が7歳の時に訪れた70年大阪万博の記憶が今も残っています。
【大阪大学 石黒浩教授】「とにかく暑くて、暑くて。だた『みどり館』だけ覚えているんです。360度見られるディスプレイを展示していたんです。偶然なのかもしれないですけど、博士で研究したテーマが割とそれに近くて。もしかしたら‘70年万博で見た、『みどり館』の影響が、どこか頭の片隅に残っていたのかもしれない」
あの時の光景が、その後の研究生活につながったのかもしれない…。
大学生の頃から、ロボット工学の分野で様々な研究を続け、人間そっくりのアンドロイドを作る研究者として、世界で名を広めました。
【学生】「先生は未来の人間が、どんなふうになると思いますか?」
【石黒イド】「未来の人間は技術の力で更に進化し、多様な姿を持つようになるでしょう。身体の制約を超えて、アバターやロボットを通じて、異なる環境や状況でも活動が可能になる」
【大阪大学 石黒浩教授】「言っている内容は、ほとんど本に書いたことなので、そんなに間違ってないと思いますし、僕よりも丁寧にしゃべってくれると思います」
2006年から改良を続けている自らをモデルにしたアンドロイドは、石黒教授の代わりに大学で講義をすることも。
■アンドロイドは単なる機械ではなく、社会参加の担い手に
アンドロイドをできる限り「人間らしく」する。ここまでこだわる理由は、その先に描いている未来があるからだといいます。
【大阪大学 石黒浩教授】「人間って、人間と関わる脳の機能をたくさん持っている。かばんやカメラにしゃべってみろと言われたって戸惑いますよね。この人(アンドロイド)だと戸惑わないですよね。これから日本の人口って、どんどん減っていくんですよね。減っていく分を、こういうAIとかロボットで埋めていかなといけない。労働者不足をテクノロジーの力で解決していくことが、これからの日本には、非常に求められていることだと思います」
社会に参加し“支える”ためのアンドロイド。
その思いで開発を進めている技術は、他にもあります。
■600キロ離れた長崎から遠隔操作 「社会参加こそが生きる意味」石黒教授が語る技術の本質
開幕のおよそ2週間前、パビリオンの入り口に運び込まれたモニター。
【アバター】「いらっしゃいませ、『いのちの未来』へようこそ」
映し出されるのはアバターです。
パビリオンの入り口では、遠隔で操作されるこのアバターが受付役を担います。
そして開幕した万博。
【アバター】「おはようございます!もうしばらくお待ちください。…どうぞツアー楽しんでください!」
この日アバターを担当したのは、およそ600キロ離れた長崎市の病院で精神科に通う患者です。
アバターを通して万博会場にいる人と話すことで、コミュニケーション能力のステップアップにつなげようとしています。
【アバターを操作する患者】「長崎から案内してます」
【来場者】「長崎やったら、ちゃんぽんやね!おいしいね」
【アバターを操作する患者】「ちゃんぽんおいしいですよ。カステラもおいしい」
【アバターを操作する患者】「元々人付き合いが好きで、マイクを使って向こうと会話ができるようになって、余計楽しくなりました。現地に行ってみたいけど、無理なので、アバターで楽しませてもらっています」
【大阪大学 石黒浩教授】「社会参加って、すごく大事なんですね。我々何のために生きているかって、人とつながるために生きているわけで。色んなテクノロジーの力を借りながら、多くの人が社会参加して、社会の中で人とつながることができれば、我々の理想とする社会に向かっていけるのではないかと思います」
■石黒教授が描く”いのちの未来”、そこに暮らすアンドロイドたち
【アバター】「お待たせしました、どうぞ奥へ進んでください!」
受付を通り、パビリオンの中へ。そこに広がっているのは、石黒教授が考える“未来”。
アンドロイドたちが“生活“しています。
さらに来場者への問いかけも…。
映し出されるのは、50年後の家族のストーリー。死を迎えようとしている人が、“ある選択肢”を与えられます。
【おばあちゃん】「この世界に、私の愛情を残すようなものよね?」
【男性】「とても近いと思います」
自然に命を失うのか、それとも心をアンドロイドに託して“生き続ける”のか。
人間とアンドロイドが共存する姿を見せ、未来の社会について問いかけます。
【訪れた人】「こういう将来があるのかなって、ちょっとイメージできた。子どもがいると、現実的な将来どうやって過ごしていくのかなって考える」
【訪れた人】「深い、とても深かった。人間の心を持ったロボットたちが出てくる世界に本当になるのかなって。良いのか、悪いのかだけど、でもそうなるならいいよね」
【大阪大学 石黒浩教授】「ものすごくたくさんのテクノロジーを既に手にしています。これから重要なのは、そのテクノロジーを使って、どんな未来を作るかというのを、自分たちが責任をもって考えていく。自分たちが責任を持って、進化していくということが大事だと思う」
万博で考える、いのちの未来。
50年後、1000年後…私たちはどんな未来を生きているのでしょうか?
(関西テレビ「newsランナー」2025年6月11日放送)