664グラムで生まれた男の子、約2年間、病院で過ごしてきましたが、先日、退院の日を迎えました。両親が実践してきたのは病院任せでなく家族も積極的にケアに参加し、成長や発達を促す「ファミリーセンタードケア」。ようやく自宅で共に過ごせる喜びをかみしめています。


■自宅で初めて祝う2歳の誕生日

♪「ハッピーバースデートゥーユー」

2歳の誕生日を迎えた長野県伊那市の高橋吟糸(ういと)ちゃん。

母・高橋由里絵さん:
「ういちゃん、はくしゅ~」

ずっと病院で過ごしてきた吟糸ちゃんは1週間前に退院したばかりです。

「自宅で家族と一緒に過ごす」

それが吟糸ちゃんにとっても家族にとっても何よりの「お祝い」です。

母・高橋由里絵さん:
「日々、寝不足なんですけど、やっぱり一緒にいるのがうれしいから」

父・高橋竜也さん:
「少しずつでも成長していくというのが自分たちの喜びなのかな」


■妊娠24週、664gで誕生

2023年4月に長野県立こども病院で生まれた吟糸ちゃん。

出生時の体重はわずか664g。

羊水が少なく、妊娠24週の緊急帝王切開でした。

■「家族中心のケア」で発達を促す

呼吸器などの装置を取り付けたわが子。

両親も最初は戸惑いがありました。

母・由里絵さん:
「(医師に)どれだけ家族が赤ちゃんに関わるかで、成長発達が変わりますと言われたんです。それがずっと残っていて」

手で優しく包みこむ「ホールディング」に、お腹に抱いて過ごす「カンガルーケア」。

両親は病院に通い、積極的に触れ合う時間をつくりました。


こども病院がフィンランドの事例から学び取り入れた「ファミリーセンタードケア」。医療の進歩で「早産児」の救命率が上がる中、「家族中心のケア」でより良い成長や発達を促そうという取り組みです。

県立こども病院 新生児科・小田新医師:
「助かることはできているけど、その先、いかによく助けるかということを、今みんなで頑張っているところです」


■1歳で2人の兄と初対面

2024年5月―。

1歳の誕生日会。病室ではありましたが、2人の兄と初めて対面しました。

母・由里絵さん:
「やっと会えたね」


1歳7カ月になると体重は9キロ余りに。

母・由里絵さん:
「何秒くらいとかあります?」

看護師:
「あまり長くやると苦しくなっちゃう」

この日は由里絵さんが痰の吸引に初めて挑戦しました。

母・由里絵さん:
「だんだんです、教えてもらいながら」

■外出で初めて「風」を感じる

2024年12月、集中治療室から一般の小児科病棟へ。

移動用の呼吸器に切り替え、院内の「お散歩」や、初めての「外出」を経験しました。

初めて「風」を受け、びっくりした様子も。

退院後の生活を見据え、両親は課題を一つ一つクリアしていきました。

県立こども病院 総合小児科・樋口司医師:
「環境の変化で体調を崩すお子さんも多いんですけど、吟糸くんは全然平気で。そういう意味で、すごく彼自身の力があったんだと思います」

年が明けてからは自宅で過ごす時間も設け、ベッドや呼吸器の位置、ケアの手順などを確認しました。

■「やっと迎えに来た」退院の日

そして、4月12日。

母・由里絵さん:
「やっと迎えに来たって感じです」

退院の日を迎えました。

吟糸ちゃん:
「ぶぶー」

父・竜也さん:
「おうち帰るって、きょう」

母・由里絵さん:
「うれしいね」


「ファミリーセンタードケア」で両親が積極的にケアに関わってきた成果でもあります。

県立こども病院 総合小児科・樋口司医師:
「すごくスムーズにいったと思います。やっぱり一番はお父さんお母さんの意欲。吟糸くんのケアの中心にいるという自覚を持たれているということ」

■病棟スタッフのお祝いを受け、自宅へ

病室を後にすると―

スタッフ:
「すごいじゃーん。がんばったね~パチパチ」

医師:
「これ、病棟から、どうぞ。おめでと~」

病棟から退院を祝う「寄せ書き」のプレゼント。

県立こども病院 総合小児科・樋口司医師:
「ういちゃん頑張れよ、お兄ちゃんたち待ってるでね」

外に出ると桜満開のポカポカ陽気。

母・由里絵さん:
「ちょうどいいね、気持ちいいじゃない、ういちゃん」

2年間過ごしたこども病院からいよいよ伊那市の自宅へ。

自宅に到着。

母・由里絵さん:
「はい抱っこ。まぶしいね。お疲れさま」

この日が来ることを家族全員が待ち望んでいました。

次男・樂ちゃん(4):
「がおー」

元気いっぱいの2人の兄・輝(こう)さん(小1)、樂(らく)ちゃん(4)。

にぎやかな様子に吟糸ちゃんもご機嫌です。


■痰を吸引、食事は「胃ろう」から

母・由里絵さん:
「いくよ、ういさん」

様子を見て痰の吸引。

吟糸ちゃんの食事も、シリンジを使って「胃ろう」から注入します。

輝さんが手伝います。


長男・輝さん:
「(ういちゃん、どんなことしたら喜ぶ?)こちょこちょです!『一本橋こちょこちょ』とか?」

母・由里絵さん:
「本当にやっと家族そろえたというところでは、きょうは本当に大きな日」

■家族や友達が集まり自宅で誕生日会

1週間後―。

長男・輝さん:
「ういとは、2歳の誕生日ということです!」

吟糸ちゃんの誕生日。
祖父母や輝さんの友達家族も集まりました。


由里絵さんは食事作り。家族と同じおかずや、作り置きしたおかゆをミキサーで混ぜます。

母・由里絵さん:
「作ったものを食べてもらえるっていうのは、うれしいですね」

ういちゃんもみんなと食事。


■痰の吸引などケアはほぼ家族が担う

大きな節目を迎えた家族。「ケア」はこれからが本番です。

生活は大きく変わりました。

竜也さんが出勤する平日はほぼ毎日、「訪問ヘルパー」の看護師が訪れます。

発達を支援する居宅訪問型児童発達支援のスタッフや、訪問看護・リハビリなどさまざまな事業所の連携に支えられています。

家族が目を離すことができるのは、訪問ヘルパーと発達支援のスタッフがいるオレンジ色の部分のみ。平日1日1時間半から4時間ほどです。

1日3回の食事と2回の栄養剤の注入にはそれぞれ1時間半ほどかかかり、夜間を含め大部分のケアは、やはり家族が担わなければなりません。


父・竜也さん:
「調子いい時はいいんですけど(ある夜は)1時間おきとか、痰の吸引が必要だったので、その時はへとへとになりました」

母・由里絵さん:
「お互いの体調に気を付けながらやっていかないと家庭が回っていかないので、サポートしてもらいながら」


■少しずつ成長 自分で座るように

家族が中心ではありますが、地域の医療・福祉のサポートも受けながら吟糸ちゃんは少しずつ成長しています。

撮影中にも―

母・由里絵さん:
「あれ、座った?自分で?自分で座ってました?」

カメラマン:
「座ってましたよ」

母・由里絵さん:
「すごいじゃん。びっくりだよ、ういちゃん」


■新たな環境も「マイペースで」

新たな環境で挑戦を続ける高橋さん家族と吟糸ちゃん。これからも一歩一歩、進んでいきます。

父・竜也さん:
「マイペースだけど、いろいろ乗り越えてきてる強さ、すごいなって思います」

母・由里絵さん:
「今まで家で見てこられなかった分、0歳の感じから子育てできたらいいかな。マイペースでね」

長野放送
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