TSKさんいん中央テレビと山陰中央新報社のコラボ企画「カケル×サンイン」。共通のテーマをテレビと新聞、それぞれの視点で取材しニュースの核心に迫ります。今回は、価格高騰が続く「米」の問題です。

田中祐一朗記者:
これは農林水産省が毎週発表している全国のスーパーでの米の平均価格です。
5月18日までの1週間では、5キロ当たり4285円と前の週から17円値上がりました。
備蓄米の放出が始まった3月以降も高止まりしたままで、半年近く値上がりが続き、ここ2週は続けて最高値を更新しました。米の価格をめぐる現状、山陰の現場を取材しました。

まるごう川津店・八幡浩店長:
こちらがおコメ売り場になっております。去年と同じ時期に比べて2倍くらいの値段になっておりますので、非常に高くなったなという感じはしている。

松江市内のスーパー。
売り場にある島根県産の「こしひかり」の価格は、5キロで4731円です。
この店では、島根県産を主に取り扱っていますが、新米が出回り始めた2024年9月に比べ、約4割値上がりしました。
以前は「特売」の目玉にもなったコメですが、最近は入荷が少なく、「特売」にまで品が回らないといいます。

まるごう川津店・八幡浩店長:
今は米が特売を打つほど量がそろわないので、本音はもう少し安く売りたいですね。

売る側も困惑する米の価格高騰は、家計も直撃しています。

来店客:
高いと思う。3000(円になる)まで待とうかな、まだあるから。

来店客:
ちょっと高級品みたいな。日常的に麺とかパンをたくさん取り入れないと、なかなか頻繁に買うものではなくなってきてるんだなって。

5月22日、出雲市斐川町の簸川平野では、田植えの最盛期を迎えていました。

アグリードいずも・黒田幸司代表理事:
生産者としても、そんな極端に高ければいいっていう話じゃない。買っていただけるからこそ、我々も作ることができるので。

こう話すのは、農事組合法人の代表を務める黒田幸司さん。
20年ほど前にこの法人を立ち上げ、現在は97ヘクタールの水田を持つ、大規模経営の農家です。
主にブランド米の「つや姫」などを作っています。

アグリードいずも・黒田幸司代表理事:
農家からしてみれば、「それでなにか農家が高く売っていいんじゃないか」みたいな話が出ているので、それは違うよと。農家からしてみれば「何やってくれてんの?」っていう話ですよ。

黒田さんの法人では2024年に85ヘクタールに作付けし、約12トンを収獲しました。
「令和の米騒動」と言われる米不足のなか、買い取り額は60キロあたり約4000円上がりましたが、法人としての収支はわずかな黒字、価格高騰は農家にとって恩恵は大きくはなかったといいます。
ただ黒田さんは2025年、一部で作付けしていた飼料用米をすべて食用米に切り替えました。
食用米の買取価格が、飼料用などに転作した農家に支給される政府の補助金を超える水準になったことから、2025年は全国でも多くの道県で食用米が増産に転じる見込みです。
島根県内でも県の聞き取り調査の結果、食用米の作付け面積は2025年、約300ヘクタール増加する見通しが出ています。
これで米不足はいったん和らぎそうですが、黒田さんは農家の現状を見ると再び米不足に陥る恐れがあるとみています。

アグリードいずも・黒田幸司代表理事:
すぐ生産体制が確保できるように、農地の保全とかやってきただろうと思うんですけど、人間の保全ができてないんですよ。農家の保全ができていない。

少子高齢化が進み、農業の担い手も少なくなるなか、2018年に廃止されるまで約50年続いた減反政策の影響もあり、需要に応じて柔軟に米を生産できる体制は失われたと指摘します。

アグリードいずも・黒田幸司代表理事:
「何が問題なの?」というところに本当の意味で、消費者の皆さんも実態に目を向けていただきたいなと思っています。

「令和の米騒動」が浮き彫りにしたのは、価格高騰だけではなく私たちの「食」の根幹に関わる問題なのかもしれません。

田中祐一朗記者:
一方で、米不足の一因として、夏場の異常高温など気候変動による作柄の悪化、収穫量の減少も指摘されています。長期的な視点で米不足を避けるための取り組みも始まっています。

松江市の島根大学。

島根大学生物資源科学部・赤間一仁教授:
これは稲を使って環境ストレスの実験を行っています。

生物資源科学部の赤間一仁教授は、ゲノム編集、DNAが持つ遺伝情報を作り変える技術を使って、暑さに強い「コシヒカリ」に改良できないか研究しています。

島根大学生物資源科学部・赤間一仁教授:
これから「耐暑性」という環境ストレスの中でも最も難しい、解決しなきゃいけないストレスに対して、本当にスーパーな稲を作ることを考えて実験を進めています。

研究グループでは今後、実用化に向けて県や農家などとも協力、栽培実験などを進めることにしています。

島根大学生物資源科学部・赤間一仁教授:
利用価値の高い稲・米が実用化されて、多くの農家に利用していただいて、消費者にも利用していただければ。

田中祐一朗記者:
研究面だけでなく、コストの面でも今後、解決しなければならないハードルがいくつもありますが、新たな技術を使って日本の農業が進化していくのではという希望を感じました。
今回一緒に取材した山陰中央新報の多賀記者は、「現場の声からも価格高騰は需要と供給のバランスが崩れたことが原因。長期的な安定供給には、国内生産態勢の維持が不可欠で、価格の安定と米不足解消へ抜本的な対策が求められる」としています。

「令和の米騒動」では供給量の不足、価格の高止まりに視線が集まりますが、主食である米を将来にわたって安定して食卓に届けられるか、より根本的な問題に目を向けることが必要といえます。

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