親が育てられない赤ちゃんを匿名でも預かる『こうのとりのゆりかご』。昨年度の預け入れは14人で、前の年度を5人上回りました。そして開設から18年間の総数は
193人となったことが28日発表されました。
【熊本市こども家庭福祉課 船津 真理亜課長】
「令和6年4月1日から令和7年3月31日までにゆりかごには14件の預け入れがありました」
熊本市の発表によりますと昨年度の預け入れは14人。
これは過去5番目に多い数で、10人以上となったのは2019年度以来5年ぶりです。
開設から18年間の累計は193人となりました。
ゆりかごに預け入れた人の居住地は、『熊本県』と『熊本県以外の九州』が1人ずつとなっています。
また『居住地不明』が12人で、これは過去最多。
そして昨年度、熊本市が戸籍を作成した件数は13件でこれも過去最多となりました。
ゆりかごを設置している慈恵病院の蓮田理事長は28日預け入れた人の居住地について西日本が9人、東日本が3人、全くの不明が2人と明らかにしました。
そして戸籍作成が最多となったことについて次のように述べました。
【ゆりかごを設置している慈恵病院 蓮田健理事長】
「お母さんは厳しい生育環境の中で育っている。虐待、(親からの)過干渉、学校ではいじめられ、職場ではパワハラを受け、男性に逃げられたり。負の連鎖を断ち切るには、言葉が適切ではないかもしれないが〈リセット〉しないといけない。
その意味では、戸籍が新しくなり血のつながった母の戸籍から離れることを、私は前向きに捉えている」
出産の場所は『医療機関』は0で『自宅』が最も多く9人。2人が『車の中』で出産していました。
ゆりかごまでの移動手段は『新幹線など鉄道』が7人、『車』が6人、『不明』が1人でした。
預け入れられた14人はいずれも生後7日未満の『早期新生児』でした。
母親の年齢は『20代』が8人、『10代』『30代』がそれぞれ1人、『不明』が4人。
婚姻状況は『未婚』が最も多く11人で『既婚で婚姻中』が1人、『不明』2人でした。
預け入れた理由は、複数回答で『生活困窮』『世間体・戸籍』『パートナーの問題』が
いずれも5人などとなっています。
子どもの父親については『不明』が9人、『その他 恋人等』が2人、『婚姻中の夫』が1人などとしています。
そして熊本市の大西市長も28日コメントを発表。
「預け入れられた子どもたちが自らのルーツを求めてくることも増えてくることが考えられ、子どもの出自を知る権利をどのように保障するかは喫緊の課題である。慈恵病院と連携しながら子どもたちの思いに寄り添った対応を進めたい」としました。
【尾谷いずみリポート】
「一方、慈恵病院はきょうゆりかごなどを必要とする女性への対応などについてまとめた指針を発表しました。これは、この先、同様の取り組みを進める病院などに向けたものでもあるとしています」
『対応指針』、いわゆるマニュアルは今年3月に熊本市と慈恵病院共同の検討会がまとめた『子どもの出自を知る権利に関する報告書』の中で慈恵病院に対し作成を求めていました。
病院はこれまで担当者で会議を重ね最終的に蓮田理事長が21に上る項目にわたり執筆しました。
『対応指針』は新生児の遺棄・殺人の現状についての記述から始まり、『ゆりかご』『内密出産』に取り組み試行錯誤してきた慈恵病院の18年間の経験がまとめられています。
【慈恵病院 蓮田健 理事長】
「見方によっては(ゆりかごを利用する女性は)非常識で責められる非難されるような行動かもしれない。しかし『信じられない』と一言で片づけるのではなく、理解してほしいと思う。(理解への)距離を縮めるためにこうしたものを作り例示もした。
立法化も含め、女性たちや赤ちゃんの助けにつながればいいと思っている」
蓮田理事長は対応指針の中で、新生児遺棄・殺人事件の裁判に参加した経験などを基に「ゆりかごや内密出産を必要とするなど緊急下にある妊産婦は推定で年間100人ほど存在する」と指摘。
「これらの女性の中には発達症などの特性があり物事を論理的に考えたり次の行動を決めることを苦手とすることがある」として対応する際には十分な配慮が必要としています。
【慈恵病院 蓮田健理事長】
「がんばってもできない人がいる。能力や環境の影響があることを十分理解した上でまずはねぎらう。彼女たちはたくさん苦労してきた人生なのでねぎらって、説教や説得はしない。『手伝う』という姿勢(が必要)」
慈恵病院の『緊急下の妊産婦と子どもへの対応指針』は、7月をめどに病院のホームページで公開するということです。
対応指針には、自分の生い立ちを知りたいと病院を訪れる子どもへの対応についても記されています。ゆりかご開設から18年、子どもたちの成長に伴いこれまでになかった動きが見られています。