店頭での備蓄米販売価格について「5キロあたり2000円」を掲げた小泉農水大臣。
26日にはコメの平均販売価格が「5キロ4285円」と過去最高を記録する中、『進次郎流コメ政策』で価格高騰に歯止めはかかるのでしょうか。
価格を左右するスーパーや街の米店、そしてコメの供給を担う農家の本音に迫りました。
■1日およそ100合を炊く飲食店の店主は「利益なんかない」
京都市伏見区の大学近くにある飲食店。定食は学生なら700円。看板メニューの特大オムライスや肉たっぷりのスタミナ丼は、破格の500円でおかわりもOKです。
【大学生】「学食以上に学食っぽいというか、お金ない時でも来れる場所ですね」
【大学生】「大満足。この値段にしてはほんまないんじゃないですか」
学生向けの飲食店ですが多くのサラリーマンも…
【会社員】「給料前はありがたいです」
【会社員】「どないなってんねやろうな、この店」
1日に炊くコメはなんと、およそ100合。利益はあるのでしょうか。
【店主・松吉晃美さん】「利益なんかないっすよ!早急に早く(対策)してください。ほんとにもうそれだけです、小泉さんお願いします!」
■コメの平均販売価格は過去最高値を更新
26日に発表されたコメの平均販売価格は5キロ4285円。過去最高値を更新しまし
た。
3度に渡って「備蓄米」を放出するも価格高騰に歯止めがかかりません。
そんな中、小泉農林水産大臣は26日、「これまでと同じやり方をしていては、国民の皆様の期待に応えられないと考えました。これは政治決断で『随意契約』で売り渡すことに決めました。一般的マージンふまえて試算すれば小売価格では5キロあたり2000円となる水準であります」と述べました。
■これまでの「競争入札」から「随意契約に」
備蓄米の放出はこれまでJAなどの集荷業者の中で最も高い価格を提示したところに売り渡す「競争入札」が行われ、小売店などで販売されていました。
しかし、価格がなかなか下がらないことなどから今後は『随意契約』に。
年間1万トンのコメの取り扱いがある「大手小売業者」に「政府が直接売り渡す」という方法に踏み切ったのです。
今回行われる「随意契約」では、2022年産が20万トン、2021年産が10万トン、合わせて30万トンの備蓄米が売り渡され、需要があれば、さらに無制限で放出します。
■専門家は「次の打ち手を考えていかないと今回だけ安くなって終わってしまう」
来月上旬にも店頭での「備蓄米販売価格を2000円にしたい」と掲げる小泉大臣。進次郎流“コメ政策”を専門家はどう見ているのでしょうか。
【流通経済研究所 折笠俊輔主席研究員】「政権として本気で米価対策に取り組んでいる姿勢を見せた感じ。店頭到達までのスピードをあげていく施策と理解できるんですが、6月上旬から早く扱えるところでは扱いが始まって、徐々に広がっていく形になるのでは」
一方で、「今後の次の打ち手を考えていかないと、今回の備蓄米が放出されてその時だけ安くなって終わってしまう可能性もある」と指摘しました。
■消費者からは期待も、大手ではないスーパーからは懸念の声
コメを求める消費者は備蓄米について…
(Q:小泉大臣に期待する?)
【買い物客】若いだけあってやることが早い。今まで買ってる米であれば買います」
【買い物客】「3、4年前の米を使ってると聞いているとにかくたべてみてからやね」
ただ、大手ではないスーパーからは懸念の声も…
【フレッシュマーケットアオイ内田寿仁社長】「大手ばっかりにいって私どもに全くこないという状況があるようなら、ちょっと寂しいなと思う。私たちのような小売業者にもしっかりした品質でおいしいお米が安く納品されるような環境を作っていただければうれしい」
大手以外には届かない可能性もある随意契約の備蓄米。地域の米店で話を聞くと…
【西川米穀店店主 西川信一さん】「コメが思うように入ってこないので、種類的にも減ってしまった。今は通常の半分くらい、これの2倍くらいはあるがこの状態だときついですね。しんどいですね」
大阪市平野区の米店は仕入れが難しくなり先月ごろから新規の客への販売を断っていてシャッターを半分閉めての営業が続いています。
【西川米穀店店主 西川信一さん】「(備蓄米が)消費者にまんべんなく行き届くのであればそれはそれでいいのかなと思うんですけどそれが(大手など)偏ったところに固まってしまうのはよくないことかなと」
■JA関係者は「石破さんも小泉さんも消費者価格しか頭にない」
これまでの備蓄米放出は、集荷業者であるJA全農がほぼ落札。今回の随意契約についてJA関係者は次のような考えを明かしました。
【JA関係者】「小泉さんはコメの消費者価格が下がらないから、JAを挟まないで直接売ると言っている。政府が全部の小売店をカバーできるわけがないから、デカくて力を持っているところだけが備蓄米を入手出来て売れればそれでいいの?という話。大衆は喜ぶかもしれないけど、困る人もいるでしょ。石破さんも小泉さんも消費者価格しか頭にないと思う。JAが守りたいのはあくまで生産者だから」
■コメ農家は「なんとか価格だけは今後も維持してほしい」
そして生産者である農家に本音を聞いてみました。
京都府京丹後市にあるコメ農家。今年度産のコメ作りに向け田植えの真っ最中です。
コメ不足の影響でことしは収入アップが見込めるといいます。
【安達操生さん(68)】「(JAから)もうすでに最低保証という形で買取価格が提示されているので、安心してこれからの作業に臨める。(買取価格が)6年産よりも30パーセント上がってますので、それなりの利益は当然上がってきて普通だと考えています」
しかし、突如として出てきた備蓄米店頭価格「2000円」という言葉に不安を募らせています。
【安達操生さん(68)】「(備蓄米の店頭価格が)2000円台になると生産者の買取価格、ちょっと不安ですね。(新しいコメが)敬遠されて残ってしまうとなると、(令和)7年産は安定なんですけど、今度(令和)8年産がどうなるかなという」
(Q:これまでの収入は少なすぎた?)
【京丹後市のコメ農家安達操生さん(68)】「少なすぎますよ。消費者さんには申し訳ないですけども、なんとかこの価格だけは今後も維持してほしいなと」
■別の農家は「生産者の方も向いてほしい」
京田辺市にある別のコメ農家からは、価格が下がることにより、生産者不足が深刻化するのではないかという声もあがっています。
【松井雅彦さん(67)】「(買取価格が)高いから嬉しいなと思ってるはずですねん、農家としたら。値段が下がったら出鼻をくじかれたような感じ。今、コメの価格ばっかり言ってますね、コメの価格ばっかり言わないで、生産者の方も向いてほしい。コメの価格がまた下がってくると、コメを作る人がいなくなってくる」
価格高騰が止まらないコメ。安定的な流通、さらには持続可能なコメ作りへの対策が求められています。
■備蓄米「随意契約」でコメ価格は落ち着くか
備蓄米の随意契約によって、消費者にとっては価格が落ち着く期待感もあります。
備蓄米以外のこれからのコメの価格はどうなるのか、流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員に聞きました。
【流通経済研究所 折笠俊輔主席研究員】「今回の備蓄米放出で、十分に『満たされた感』が広がれば、来月の下旬から7月の初旬ごろに、一般米の店頭平均販売価格が3000円台後半になる可能性もある」
価格が落ち着くのではないかという見方です。
■「今後のコメ政策」巡り自民党内でバトルか
一方、政治ジャーナリストの青山和弘氏は、価格を左右する今後のコメ政策を巡って「自民党内でバトルが繰り広げられる可能性がある」と指摘します。
【政治ジャーナリスト 青山和弘氏】「緊急的に備蓄米を『随意契約で出す』っていうのは、今の値段をまず下げると。去年の倍になってますから、下げるということ。
ただこれはやっぱり『古々米』とか『古々々米』なんで、ブランド米がどうしても欲しいっていう人はそんなに価格が下がっていないコメを買うという選択肢もできるってことなんですね。
ただそれは緊急処置であって、来年以降、どういう農政に変えていくかっていうのは、新たにハードルがあるわけですね。
『増産して値段が下がったら、農家の人に直接補償する』っていう石破さん、小泉さんが目指している制度は、なかなか設計が難しいところがあるんです。そこまでやり切れるのかどうか。
それともやはり増産をやらないのか。この辺りは自民党内でもいろんなバトルが繰り広げられる可能性もあると思います」
(関西テレビ「newsランナー」 2025年5月26日放送)