「まさに攻める気持ちで“伸びしろ”に攻めていくような感じですね」。ネット通販や電子書籍の普及など急速なデジタル化の荒波に飲まれ、街の書店が次々と姿を消している。「このままでは…」という危機感から「街の本屋さん」が打って出た起死回生の一手は、なんと「24時間営業」だった。話題のCreepy Nutsのヒット曲『のびしろ』さながら、この挑戦は果たして“伸びしろ”となるのか。取材班は深夜も休まず無人で営業する店舗に向かった。

夜間や定休日は無人営業に
夜間や定休日は無人営業に
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「このままでは沈むだけ」老舗が決断した“賭け”

明治10年から続く福岡・飯塚市の元野木書店。店内には参考書やマンガ、地元・福岡の本など約1万冊が並ぶ。創業148年の老舗はかつて街の「知の拠点」としてにぎわったが、時代の変化は容赦ない。

元野木書店(福岡・飯塚市)
元野木書店(福岡・飯塚市)

「10年くらい前はこの近くにも4~5店舗あった書店が、1年に1店舗ずつぐらい減っていって…」と顔を曇らせるのは7代目の元野木正比古社長。「業界自体が元気ない。何かしら手を打たないと」。

元野木正比古社長
元野木正比古社長

そこで白羽の矢が立ったのが最近、餃子やスイーツ販売などで注目されている無人営業スタイル。スタッフが不在となる夜間や定休日も店を開け、24時間の営業に踏み切った。LINEの専用アカウントで友だち登録し、QRコードをかざせば入店できる仕組みだ。

果たして、深夜の書店に客は来るのか? そして、何を買っていくのか?取材班が密着取材を始めると…。

起死回生の「24時間営業」
起死回生の「24時間営業」

深夜の書店に現れた若者たちの“リアル”

無人になってから3時間が経過、時計の針は午後8時半を回った。

店に現れたのは社会人1年目だという公務員の織田さん(18)。手に取ったのは、分厚い『判例六法』だ。「市民の方から質問があったのでちょっと調べてからお答えしようかな」。店に足を運んだ理由をたずねると「ネットは便利だけど、情報の真偽が分かりづらい。本のほうが信用できる」。彼は社会保険や労働保険の手続きに関する書籍を購入し、帰っていった。

店を訪れた織田さん
店を訪れた織田さん

午後9時15分。次にやって来たのは大学受験を控える男性。いわゆる“浪人中”で英検の問題集を探しに訪れたという。「なるべく高得点で受かりたいんで」と意気込むも、お目当ての本は見つからず。「なさげですね」と肩を落として店を後にした。

“浪人中”の男性
“浪人中”の男性

続いてすぐに現れたのは、市内の高校でラグビー部主将を務める松岡さん(17歳)。

続いて現れたのは高校生
続いて現れたのは高校生

「将来は麻薬取締官になりたい」と国立大学の薬学部を目指す文武両道の受験生だ。彼が足を止めたのも学習参考書のコーナー。有名予備校講師、村瀬哲史氏の地理の教材を探していたが見当たらず。すぐに購入して勉強したいところだったが「欲しい教材がなかったです」と残念そうな表情を浮かべた。

受験生の松岡さん
受験生の松岡さん

客は3人、購入1人…それでも社長が見据える“未来”

翌朝まで取材を続けたが、結局夜間の来店客は3人。購入に至ったのは最初の織田さん1人だけだった。この結果だけを見れば、前途多難と言わざるを得ない。しかし、元野木社長は前を向く。

購入したのはわずか1人だが…
購入したのはわずか1人だが…

「(客の)欲しいものがなければ、好みを用意する。そういうキャッチボールを無人の間でもできるように、意見交換できるQRコードを準備中です。夜中でも学びたいというエネルギーというか原動力を止めないよう、その“伸びしろ”をしっかり埋められる書店になっていきたい」。

深夜の老舗書店で垣間見えた、若者たちの真摯な学びへの意欲。そして、新たな活路を見出そうとする老舗の挑戦。元野木書店の「24時間営業」という“伸びしろ”への賭けは、まだ始まったばかりだ。

(テレビ西日本)

元野木正比古社長
元野木正比古社長
テレビ西日本
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