特集は信州に根付く外国人です。9年前に長野県伊那市高遠に移住した西アフリカ・ベナン共和国出身のモーリスさん。消防団にも所属しすっかり溶け込んでいます。今は地域で子どもを育てるベナンの文化を伊那でも広めたいと奮闘しています。


■西アフリカのベナンから日本へ

子どもたちとサッカーを楽しんでいるのはイェリマ・モーリスさん(37)。

イェリマ・モーリスさん:
「下からじゃないよ、もうちょうい上」

ここは伊那市高遠町です。モーリスさんは日本から1万3000キロ以上離れた西アフリカのベナン共和国出身。9年前に移住しました。

昼食:
「いただきまーす」

妻・自由理(しゅり)さん:
「きのう参観日でさ、小学校の」

妻の自由理(しゅり)さん(45)。3人の子ども、長女・母菜花(ぼなか)さん(7)、長男・埜里空(やりくぅ)くん(4)、次男・侑雨蓮(ゆぅれ)くん(3)と5人で暮らしています。


イェリマ・モーリスさん:
「お疲れさまです」

モーリスさんは市内の製材所で働き、地元の消防団にも所属。すっかり地域に溶け込んでいます。

イェリマ・モーリスさん:
「(移住したばかりは)不安ですね。どうしても友達いないもので、知らない人の所に行くから。でも日本に来て(問題は)全然何もなかった。いい人ばっかり」


■警備の仕事中に運命の出会いが

ベナン内陸部の都市パラクーで生まれ育ったモーリスさん。両親の畑仕事を手伝いながら学校に通い、卒業後は農業や建築、警備員の仕事に就きました。

そして2013年、運命的な出会いが。モーリスさんが警備の仕事をしていた家に自由理さんが住んでいたのです。

自由理さんは当時、青年海外協力隊としてベナンに派遣され母子保健分野で活動していました。

モーリスさんはベナンの文化を知ろうとしてくれる自由理さんを、自由理さんは優しくて頼りがいのあるモーリスさんを。互いにひかれ合い交際に発展します。

■結婚し日本へ 3人の子にも恵まれる

自由理さんの任期が終わった翌年の2016年に2人は結婚。山口県出身の自由理さんですが、家族が住んでいて自分も暮らしていた伊那市へ移住することを決めました。

妻・自由理さん:
「自分のコミュニティーなり、友人たちがいるここに彼と来ることで、彼もきっと人とつながりやすいだろうなという確信があったので」

伊那市に移住後、3人の子どもにも恵まれました。今は広い庭がある築150年の古民家を改装し生活しています。

ベナンでの生活に近づけようと休日は畑仕事に精を出し、子どもと遊ぶ時間を大切にしています。

ブランコやうんてい、ハンモック。すべてモーリスさんの手作りです。

長女・母菜花ちゃん:
「うれしいし、楽しい。自由に遊んだり、いろんなことができる」


■材木加工の職場では「いいやつ」

一方、モーリスさんはこの9年間、地域に溶け込もうと努力してきました。

モーリスさんが今、勤めているのが、市内の「有賀製材所」。主に住宅用の材木加工の仕事を行っています。

イェリマ・モーリスさん:
「例えば虫食ってる部分はダメです、それが一番。たまに見えないもので、それお客さんに出すと怒られちゃう」

ベナンでも建築系の仕事に就いていたこともあり、4年前、就職しました。木材運搬などの力仕事なども率先して行っています。


モーリスさんの仕事ぶりは社長も評価しています。

有賀製材所・有賀真人社長:
「力もあって何でもできるので、製材所としては助かってます。人柄が穏やかでいいやつです。みんなに愛されてます」

有賀製材所も抱える人手不足。現在の従業員は10人で、37歳のモーリスさんが最年少です。

有賀製材所・有賀真人社長:
「日本が、これからは外国の人たちの助けがないと厳しい時代になってくると思うので、責任ある立場になってほしい思いもありますし」


■「期待の星」消防団にも所属

午後6時、仕事から帰りましたが、まだ1日は終わりません。消防団にも所属していて、この日は夜警に当たります。

長女・母菜花ちゃん:
「消防に行く感じがするな、かっこいい」
「いってらっしゃーい、頑張ってー」

2017年から消防団員を務めるモーリスさん。自分を迎え入れてくれた地域への恩返しです。

イェリマ・モーリスさん:
「ちょうど人がいないもので、みんな年寄りだから、分団はだんだん人が足りない。消防団に入らないと火事になっても消すことはできないから、手伝うこともできないし。だけど知り合いだもん、みんな。それだけ困ってるなら、村の仕事ならやります、と心に決まって」


消防団も人手不足。モーリスさんが大きな力に。

伊那市消防団東部方面隊第一分団・矢澤伸保部長:
「本当にムードメーカーみたいな方なので非常に助かってます。なり手不足もあるので、モーリスさんとか若い世代の方が入ってもらえると活気も出てくるし、今後の期待の星かなって思います」

■移住9年 日本とベナンとの架け橋に

移住して9年。すっかり地域になじんだモーリスさん。今度はベナンの良さや文化を地域に伝え、根付かせたいと思うようになりました。ベナンは他の家の子どもも区別せずに村や地域ぐるみで育てます。

モーリスさん夫婦は今、長期休みなどに地域の子どもたちに家や庭を開放し、誰でも遊べるようにしています。

妻・自由理さん:
「このユニークな、唯一無二のこの場所なり、夫たちなりを伝えていくことで、きっと気分が軽くなる人もいるだろうなって。ここに来て、『あー楽になった』とか、『パワーもらっていくか』、という感じになってくれれば」


イェリマ・モーリスさん:
「一緒に畑をやろうかなと思ってる、それを教えたい。うちの子どもだけじゃない、隣の子どもたちも来たら一緒に植えたり、いろいろ教えたり。自分の場所だけじゃない、みんなの場所なんです」

日本とベナンの架け橋に。

モーリスさん家族はこれからも伊那谷で暮らしていきます。

長野放送
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