神戸市北区で2010年、高校生だった堤将太さん(当時16歳)が殺害された事件。事件から11年後に逮捕された、事件当時17歳だった元少年は、おととし6月、1審の神戸地方裁判所で、少年法が適用された事件では異例の懲役18年の判決を言い渡された。(求刑は懲役20年)
この判決を不服とした元少年側の控訴を受け、きょう25日から大阪高等裁判所で控訴審が始まる。

■被告側「精神障害あった」「有期刑選択で『懲役18年』法令適用に誤り」など刑軽くするよう主張か
関係者によると、控訴審で被告側は1審では否定された、「事件当時には精神障害で刑事責任能力が十分ではなかった=心神耗弱の状態だった」と刑を軽くするよう求めるとみられている。
また1審では事件当時の少年法の規定で、「無期懲役を課す罪の場合、最長でも『懲役15年』」と刑を緩和する規定があったのに、この事件が、「無期懲役を課すべきもの」ではなく、「有期の懲役刑の上限ないし、それに近い刑を課すべき」と判断され、「懲役15年」よりも重い「懲役18年」が言い渡されたことについて、法令の適用に誤りがありったなどと主張し、刑を軽くするよう求めるとみられる。
※当時の少年法では、「成人で死刑を課すべき罪は無期懲役」、「成人で無期懲役を課すべき罪でも、少年の場合、有期の刑を言い渡すことができ、有期の刑の上限は15年」という規定があった。しかし成人を迎えている元少年については、有期の懲役刑を緩和する規定がなく、刑法が定める懲役刑の上限・懲役20年を課すことができると判断されたとみられ、懲役18年が言い渡された。

■被害者の父が意見陳述へ 取材に思い明かす「もっと生きたかったやろうから…」 「10年10カ月逃げていた その1日1日も犯罪」とも
きょう25日の法廷では、将太さんの父・堤敏さん(66)が法廷に立ち、意見陳述する予定だ。
被告側は1審の法廷で謝罪の言葉を口にしたものの、その後、裁判で命じられた賠償金の支払いも拒んで民事裁判が続き、直接の謝罪や賠償の申し出もない。
このように敏さんたち遺族にとっては、もどかしい日々が続いている中で、意見陳述で訴えたいことについて、取材に対し、次のように述べている。
将太さんの父・堤敏さん:相手に伝えるってことはもう考えてないしね。裁判所に、将太の気持ちを一番にわかって欲しい。僕らが代弁してやらんとあかんことやから。やっぱりもっと生きたかったんやろうから。なんの身に覚えもないで殺された。死ぬっていうことも受け入れられへんかったと思う。そこの気持ちをわかってもらう。
(事件からの約15年)もう悲しいし、悔しいし、そういう気持ちしかなかった。それが今でもずっとそのまま。うちの家族にとっては遠い昔の話じゃない。いまだにずっとそのまま続いている。『将太が殺された』その事件が毎日続いている。(被告が)逃げている間が事件。逮捕されるまで犯罪を、1日1日犯していた。この10年10カ月逃げていたのも犯罪でしょう。
(控訴や賠償金支払い命令への不服申し立ては)被告の権利言うけど、おかしいでしょう。将太の権利はどこ行った?殺されない権利、ね。権利どころか尊厳すら踏みにじっている。

■事件の経緯は 2010年に発生も「事件当時17歳・元少年」は2021年に逮捕
2010年10月、堤将太さんは神戸市北区の自宅近くの路上で何度もナイフで刺されて殺害された。
捜査は難航し、なかなか犯人逮捕に至らない中、将太さんの父・敏さんたち家族は、自作のビラを近所の家に直接配り、街頭に立って、犯人につながる情報提供を呼び掛けた。
そして事件からおよそ11年がたった2021年8月に逮捕されたのは、事件当時17歳の元少年(当時28・現在32)。
犯行当時の年齢から少年法が適用され、元少年の氏名などは公表されないまま、殺人罪で起訴された元少年の刑事裁判の第1審は神戸地方裁判所でおととし6月に開かれた。

■1審では「殺意を否認」「精神障害で心神耗弱」など主張
裁判で元少年は、「殺すつもりはありませんでした」と、殺意について否認。
弁護側は男に精神障害があって十分に刑事責任を問うことができない「心神耗弱」の状態で、刑を軽くすべきだと主張した。
裁判の中で元少年は、事件当時のことを、「幻聴や妄想があった」「『どうして人を殺してはいけないのかわからない』と(かかった精神科の医師に)言った」と口にしていった。

■被告人質問で元少年に被害者の父が問いかけ「(刺されて)痛いと言ったとき、何か思いませんでしたか」に「何も思いませんでした」
そして被告人質問では、被害者参加制度を利用した将太さんの父・敏さんが元少年に問いかけた。
将太さんの父・敏さん:なぜ将太があなたに殺されないといけなかったんですか?
元少年:17歳の時の私は、被害者が家の近くまでやってきた、(自分を攻撃する)不良グループの1人だと思ったからです」
将太さんの父・敏さん:刺したときの将太の表情や反応はどうでしたか。
元少年:表情はわかりませんが、痛いと言っていました。
将太さんの父・敏さん:痛いと言ったとき、何か思いませんでしたか?
元少年:何も思いませんでした。
将太さんの父・敏さん:やめようとは思いませんでしたか?
元少年:やめようとは考えも及びませんでした。
将太さんの父・敏さん:死んでもいいと思ったんですか?
元少年:死ぬとは思ってなかったです。
将太さんの父・敏さん:被害者が何か危害を加えましたか?
元少年:被害者から危害を加えられていません。
将太さんの父・敏さん:将太がどれだけ辛かったか、苦しかったかわかりますか?
元少年:わからないですね。
また当時「なぜ人を殺してはいけないのかわからなかった」と発言した元少年に、こう問いかけた。
将太さんの父・敏さん:今は分かりますか。何歳から分かるようになったんですか?
元少年:27歳です。

■神戸地裁は精神鑑定した医師の証言などから「精神障害なかった」傷の状態などから「殺意あった」認定 「懲役18年」判決を言い渡す
果たして、元少年は本当に精神障害があったのか、殺意はなかったのか。
さらに裁判では、精神鑑定で男の精神状態を調べた医師が、証人尋問で、「幻聴や妄想は統合失調症の可能性を検討する必要があるが、、病的な特徴をとらえていない」、「うその病気の可能性が高く、精神障害はなかった」と証言した。
こうした審理などを踏まえて、検察側は、男に責任能力が十分にあり、将太さんにあった複数の深い刺し傷などから殺意があったと指摘し、懲役20年を求刑した。
そして判決で神戸地裁(丸田顕裁判長)は、裁判でも証言した医師の精神鑑定は信頼でき、「精神障害はなかった」と判断し、責任能力は完全だったと認定。さらに、「将太さんの傷が首や頭など重要な部位に多数できている」ことなどから殺意があったとも認め、懲役18年を言い渡していた。
(関西テレビ 2025年4月25日)
