「一寸千貫」という作品の中で、まっすぐ生きることの大切さを唱えた書家で詩人の相田みつを。長男の相田一人さんは、数ある父の作品から常に姿勢を正していた父の思いをくみ取ります。

テレビ静岡で4月13日に放送されたテレビ寺子屋では、相田みつを美術館元館長の相田一人さんが、父の言葉を直接聞いて育った、息子ならではの解釈を語りました。

◆まっすぐならば苦難に耐えられる

相田みつを美術館元館長・相田一人さん:
父・相田みつをの「一寸千貫」という詩があります。

「むかし、大工さんから聞いたことばです。
一寸とは約3.3センチのことです。
一寸角の細い柱でも
千貫の重みに耐えるということです。
但し、まっすぐならば…
(中略)
生きる姿勢が正しければ
どんな重みにも耐えるはず
一寸千貫だから
苦しい時こそ背筋をのばせ!!
『一寸千貫、一寸千貫』
苦しいことにぶつかるたびに
私の誦えた呪文です。」

一寸=3cm角ほどの柱でも、「まっすぐ」ならば千貫=約3.75トンもの重みに耐えるというのです。

この詩は、父にとって非常に大事な詩だったと思っています。父は常に自分に引き寄せて言葉を紡いでいましたから、「生きる姿勢がまっすぐであれば、人間どんなに苦しいときでも、どんな重みにも耐えられるはずだ」と考えたんですね。

では、どうしたら生きる姿勢をまっすぐにすることができるかということについて、父の作品の中からヒントになるものを紹介します。

◆余分なものを捨てて軽やかに

「捨てる どうでもいいものから 捨ててゆくんだね」

父は生前、人から非常に姿勢がいいと言われていました。私がいま、父の年齢を超えたからこそ思うのですが、相当意識して姿勢を正していたのではないかと思います。

生きる姿勢をまっすぐにするためには、余分なものを捨てないといけない。

例えば「見栄」や「人からどう思われるか」など、人間がもついろんな思いが肩に乗っていると姿勢が歪んじゃいますよね。まずそういうものを捨てないと姿勢がまっすぐにならないんじゃないかと言うのです。

私が30歳を過ぎた頃、故郷に帰って父に会うと、「一人、おまえ猫背になってるぞ」と言われました。

いまになって思うと、私の背中が実際に曲がっていたわけではなく、親の直感で私の内面を見て「何か悩んでいるんじゃないか、生きる姿勢が曲がっているんじゃないか」と分かり、言ってくれていたように思います。

◆低い姿勢でいれば折れにくい

「雑草のように 苔のように」

イメージ画像 木の根元に生える苔
きれいな花や木は、風に吹かれてボキっと折れちゃうことが結構ある。

でも、雑草や苔というのは最初から倒れるだけの高さがない。だからどんなに強い風が吹こうが雨が降ろうがなんとか生き延びるんだと父はよく言っていました。

◆他人にも自分にも正直でありたい

「にんげん一番いやなことは じぶんがじぶんにうそをいうときだ」

うそをついて、他人をだませることはあると思いますが、でも人をだましたことは自分が意識していますから、自分自身は絶対にだませないですよね。

うそを言っている限りは、姿勢はまっすぐにならないんだろうと思います。

父は、結論的な作品を残しています。

「ほんとうのことがいちばんいい」

やっぱり、自分に対しても人に対しても、「本当」のことが最後は一番強い。本当のことというのは「まっすぐ」ですよね。

ですから、余分なものを捨て、雑草のように苔のように姿勢を低くして、うそをつかないで、最終的に「本当のことが一番いい」となったときに、生きる姿勢というのはまっすぐになっていくと父は考えていたんじゃないかなと、息子の私は考えています。

相田一人:1955年栃木県生まれ。相田みつをの長男。1996年から相田みつを美術館の館長を務めた。全国各地での講演活動や執筆活動などを行う。2024年、相田みつを生誕100年を迎えた。

※この記事は4月13日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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