超高齢化社会の課題解決に取り組む会社が、福岡・春日市にユニークな飲食店をオープンさせた。地域に住む75歳以上の高齢者たちが、週替わりで“店長”を担当し、自慢の手料理を提供する、その名も「ばあちゃん喫茶」。素朴で懐かしい家庭料理が世代を超えてお客に愛されている。
週替わり店長制で高齢者が"中心"に
この日のランチメニューは、出汁の効いた味噌味の「にゅう麺」に、具沢山の「かしわご飯」。それに「はんぺんのふわふわ焼き」。

調理するのは、71歳の“店長”、日田美智子さん。「ばあちゃん喫茶」は、週に1度、土曜日のみの営業で、2人のおばあちゃんが、週替わりで店長を担当している。

「干しシイタケも炊き込みご飯の方に刻んで入れて、だし汁を使った後、昆布も少し柔らかくなったら刻んで、かしわご飯に一緒に炊き込む」と調理法を説明する店長の日田さんは、自分の母親から教わった昔ながらの作り方を受け継いでいて、「自分自身が食べたい母の味を思い出しながら、作ろうと思っている」と話す。

自分でメニューを決め、買い出しから調理まで、そのほとんどを店長1人で賄う。1日15食限定。ランチは880円(税込み950円)とリーズナブル。昔ながらの手作りの家庭料理が、好評だ。

この日は、週替わりで担当するもう1人の店長、高久保瑞子さん(85)も手伝いに来てくれた。「毎週、店長やるのは、体力的にもきついし、もたない。メニューも考えないといけないから。ステーキとか、バーッと豪華版にできればいいけど、お金とも相談しないといけないから、そうはいかん」と高久保さんは、笑顔で語る。

物価高の中、限られた予算内で2人の店長が、それぞれの“ばあちゃんの味”を工夫しながら提供しているのだ。

“ばあちゃん喫茶”は生き甲斐作り
喫茶店をオープンさせたのは、福岡・うきは市に本社を置く『うきはの宝株式会社』。2019年に高齢者の「生きがい」や「収入」を創出しようと設立。

従業員のほとんどが、75歳以上のおばあちゃんだ。「おばあちゃんとお客さん達が触れ合う 場、接点を持つ場が重要だということを開業当初から掲げていたので、こういった開かれた場で、他人と出会っておばあちゃん達もイキイキとしているし、お客さん達にも喜んで貰っているので、今後も広げていきたい」と、うきはの宝の大熊充社長は語る。

「働く」ことは恩返しと“恩送り”
なぜ、食堂で働くのか?日田さんは、「自分が周りの人に助けてもらったので、“恩送り”みたいな形で、次は自分が何かのお役に立てるんだったらと思った。自分自身も楽しいし、生き甲斐にもなるし」と働く理由を語る。

午前11時30分、開店。この日、一番で来店した20代の女性客は、「私の祖母が、割と早く認知症になってしまって、特別養護老人ホームに入ってしまっているので、こういう場でおばあちゃんの味が食べられるのが本当に嬉しい。心がウルウルしている感じ、温かい感じがします」と「ばあちゃん喫茶」の魅力を語る。

また、60代の女性客が求めるのは“お袋の味”。

「おばあちゃん(高久保さん)と同じ年齢の私の母が施設に入っているから、なので…。本当に美味しいんですよ、お世辞とかじゃなく、優しい味。懐かしくて優しい味」と今は離れて暮らす母親の味に思いを馳せる。

「美味しかった」と褒められると、嬉しいし、やる気になると話す高久保さん。日田さんも「お昼どきは、めっちゃ賑やか。そんな感じで、ずっと続いていくといいなと思っている」と仕事に手応えを感じている。

そして、「『こんなご飯があったよ』と近所で話したり、家族を連れて、また店に来てくれたりすると有難い」と2人のおばあちゃんは、笑顔で語った。
大切なのは“今日行く場”と“用事”
高齢者が元気に過ごす秘訣として「きょういく」と「きょうよう」が大切と言われている。意味は、「今」日「行く」場所。「今日」やる「用」事のことだ。「うきはの宝」の大熊社長は、「この喫茶が、そうした場所になり、高齢者の生きがいに繋がれば」と話す。

5月1日には、福岡市城南区に、5月9日には、福岡市早良区にも同じ「ばあちゃん喫茶」がオープンする予定。新店舗では、認知症の人達もサポートを受けながら、調理できる体制を整えているという。
(テレビ西日本)