岩手県紫波町の造り酒屋・吾妻嶺酒造店と県立農業大学校(金ヶ崎町)が連携し、日本酒の製造過程で出る酒かすを牛のエサとして再利用する循環型農業の取り組みが始まりました。
紫波町にある吾妻嶺酒造店は、1670年代の造り酒屋を起源にした県内最古の蔵で、日本三大杜氏の一つ「南部杜氏」が誕生するきっかけとなった蔵とされています。
吾妻嶺酒造店では純米酒と純米吟醸酒のみに絞って、年間3万本製造しています。
この清酒を搾り取ったあとに副産物として残るのが酒かすです。
第十三代蔵元の佐藤元さんは酒かすが栄養豊富な食材と説明します。
吾妻嶺酒造店 第十三代蔵元 佐藤元さん
「非常にクリーミーでおいしい。日本酒飲む以上にこの酒かすの中に人間に有効な成分がいっぱい含まれている」
酒かすは3000リットルのタンク1基から約350kgとれます。
以前は、全て販売できていましたが、近年は買う人が減っていました。
吾妻嶺酒造店 第十三代蔵元 佐藤元さん
「どうやって食べたらいいか分からない、初めて見たなんて言われたりして、これを捨てるとなると産業廃棄物扱いでお金を払って処分しなきゃいけない。これも非常にもったいない話。なんとかこれを有効利用したいなといつも頭を悩ませていた」
無料で配るなど消費を促すこともしましたが、毎年数トン単位で残ってしまう状況となっていました。
そこで今回佐藤さんが思いついたのが、酒かすを牛のエサとして与えることでした。
佐藤さんは県立農業大学校と連携することで循環型の農畜産業を目指しています。
仕組みは次の通りです。
酒かすを牛のエサとして与え、牛が排出したフンでたい肥を作ります。
そして、そのたい肥を酒作り用の稲に与え、その酒米で作った日本酒の酒かすをまたエサとして与えるというサイクルです。
4月2日は県立農業大学校に酒かす約300キロが届けられました。
牧草やトウモロコシなどを発酵させた濃厚飼料に酒かすを混ぜます。
牛の飼育を担当している畜産学科の2年生の及川侑大さんは、1日2回エサを与えています。
吾妻嶺酒造店の佐藤さんも、酒かすを食べる牛の姿を見学しました。
ーーよく食べてくれますか?
県立農業大学校 畜産学科 及川侑大さん
「濃厚飼料と一緒に混ぜると、このようにすごく食べてくれる。匂いがちょっと苦手だったのかもしれないが、濃厚飼料と混ぜるとやっぱりちゃんときれいに全部食べてくれる」
及川さんは飼育をしながら酒かすのエサとしての有効性をテーマに卒業用の研究をしています。
県立農業大学校 畜産学科 及川侑大さん
「最終的に肉にした時に酒かすの与える影響とか、濃厚飼料の価格が高騰してきているのでそれの代替飼料として扱えるかどうか研究している」
吾妻嶺酒造店 第十三代蔵元 佐藤元さん
「このことによって農大の学生と交流ができると思う。その中で農業の問題や造り酒屋が抱える原料米供給の問題など、いろんな部分を掘り下げることができたらなと」
こちらでは酒かすを食べた牛のフンとおがくずを混ぜて堆肥が作られています。
重機でかき混ぜると湯気が立ち上ります。堆肥が発酵し温度が60度くらいまで上がるためです。
この堆肥は春から田植えが始まる酒作り用の稲の栽培に使われます。
県立農業大学校 畜産学科 多田和幸教授
「資源循環をこの取り組みで実現できれば、皆さんウィンウィンの関係になってよろしいのかなと考えている」
吾妻嶺酒造店 第十三代蔵元 佐藤元さん
「同業他社にも似たような取り組みをしていただいて、岩手の農家さんにも導入していただいて、広くこれが実績のある岩手県になってくれればと思う」
造り酒屋と農業大学校による資源を無駄にしない環境に配慮した取り組み。
岩手から新たな循環型農畜産業のあり方を発信します。