岩手県盛岡市に本社を置くアートライフスタイルブランド・ヘラルボニーが、2025年3月、市内の百貨店「カワトク」に旗艦店をオープンした。
世界へ進出する企業が、なぜ盛岡に拠点を作ったのか、その理由を取材した。
2025年3月、盛岡市菜園のカワトク1階にヘラルボニーの最も重要な店舗、旗艦店となる「ヘラルボニーISAI PARK」がオープンし、連日多くの客でにぎわっている。
ガラス張りで広々とした「ISAI PARK」は、ショップだけでなくギャラリーやカフェ、DJブースも設けられ、アート・食・多彩なイベントを通じて盛岡の新たな玄関口になろうとしている。
ヘラルボニーは金ケ崎町出身の双子の兄弟・松田崇弥さん、文登さんが代表を務めていて、障害のある作家の作品を洋服や様々なグッズのデザインに落とし込み、今、世界的に注目されている。
ヘラルボニー 松田崇弥Co-CEO
「LVMHのイノベーションアワードで世界で6社という実績を持って商談ができている」
2024年5月、ルイ・ヴィトンなどの有名ブランドを傘下に持つ世界最大のファッション複合企業が主催するイノベーションアワードで、ヘラルボニーが日本の企業では初めてカテゴリ賞を受賞し、2024年7月にフランスのパリに子会社を設立した。
ヘラルボニー 松田崇弥Co-CEO
「(フランスでは)アートを生活に取り入れる感覚が、日本よりも当たり前のことなので。ただ日本より重要なのは、意味よりも美しさとか美術的に評価されているかどうか、そこを見られているという感覚が強い」
世界に羽ばたく一方で、地方都市の盛岡に、なぜブランドの旗艦店をつくったのか。
ヘラルボニー 松田文登Co-CEO
「岩手で大型の店舗に投資するとなった時に、少なからず反対があった。ここがヘラルボニーの本拠地であり、思想の源泉であり、一番ヘラルボニーが目指す世界を圧倒的に体感できる場所を放つことで、いろいろな人たちの集いの場になる」
「ISAI PARK」のロゴの文字は、松田兄弟の兄で知的障害を伴う自閉症の翔太さんが書いている。
翔太さんが幸せでいられる場所、障害がある・ないに関わらず、あらゆる人が集える広場をつくりたい。ヘラルボニーが目指す理想の公園が「ISAI PARK」だ。
オープン3日前に開かれたレセプションには、放送作家の小山薫堂さんが駆け付けた。
小山さんは崇弥さんの大学時代の指導教員で、崇弥さんは卒業後、小山さんの企画会社に5年ほど勤めていた。
放送作家 小山薫堂さん
「どうしても自分で福祉をテーマにした事業を立ち上げたい、創業したいと辞めていった。今、逆に僕がヘラルボニーの顧問としてお手伝いをしている。(崇弥さんが)いろいろ始めた頃から見ていて、彼の元にいろいろな才能が集まってくる。アーティストもそうだが、それ以上に彼を支える社員のみなさん、2人がやろうとしていることに共感した若い力が、その磁石に吸い寄せられてくる感じがすごく頼もしくもあり、うらやましいとさえ思った」
「ISAI PARK」には、ヘラルボニー初の飲食店となるカフェが設けられている。慣れない仕事でもスタッフたちは研修を重ねオープンに間に合わせた。
ヘラルボニー 松田崇弥Co-CEO
「本当にスタッフのメンバーが優秀で、素晴らしいメンバーが働いてくれてて、作家もすごい作品だなと、そういう自分たちがもっているのは気持ちだけ」
「ISAI PARK」のオープンは、カワトクにとっても大きな挑戦だ。
川徳 斎藤英樹取締役計画本部長
「1階の正面はどの百貨店でもルイ・ヴィトンが入っていたり、お店の代表になるショップが入っている場所だが、我々は地元から世界に向けて発信しているヘラルボニーと一緒に協業して、そこを全国に向けて聖地となるショップを作ろう」
経営再建中のカワトクは、ヘラルボニーと共にクラウドファンディングを実施して、「ISAI PARK」の建設資金を募り、最終的に約2360万円の支援を集めた。
計画本部長の斎藤英樹さんは、百貨店がこれからも新たな文化を発信する場所でありたいと「ISAI PARK」の工事に心血を注いできた。
川徳 斎藤英樹取締役計画本部長
「本当にいろいろな方が集まる場所にしたいと松田社長と話をしたので、それは本当に具現化されるのではないか」
オープニングセレモニーには、松田翔太さんも出席し挨拶することになった。
翔太さんがノート書き記した謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、2018年に創業した会社は2025年3月、盛岡に「ISAI PARK」を、東京にラボラトリーギンザをオープンさせ、パリを含め世界3都市を拠点にグローバル企業への道を歩み始めた。
しかし、原点である岩手への思いは強くなるばかりだ。
ヘラルボニー 松田文登Co-CEO
「ここに根付いていくことによって、新たな文化が芽吹いていく瞬間を、この地から歩みを進めたい」
ヘラルボニー 松田崇弥Co-CEO
「岩手の学生からは『俺もできるかもしれない』と。ビジネスの観点から、野球以外の観点で、それが出来るのではないかと思っているので、若い人にこそ『ISAI PARK』に来てほしい」
「ISAI PARK」では障害のある作家たちのライブペインティングなど様々なイベントが頻繁に行われていて、これから世界に向けて新しい社会の在り方を発信していく。