資源回復のため、国際的な漁獲制限が設けられているクロマグロ。日本も漁業者に厳格な数量管理を求め、都道府県ごとに漁獲枠を設けて運用している。一方で、海水温の上昇により日本近海の環境が変わり、これまで漁師の生活を支えていた魚がとれなくなり、狙っていなかったマグロが網にかかってしまう状況があるという。海の異変に左右される漁師の生活。生きていくためにと自分を納得させ、違法な漁業に手を染める漁師も出てきている。

クロマグロ9.5トンを「報告せず」
「簡単に言えばご飯を食べるため。マグロでもうけようとしてやったのではない」
2024年9月、気仙沼海上保安署に書類送検された宮城県気仙沼市の男性漁師(75)は自宅で取材に応じ、事件の動機を語った。
起訴状などによると、男性漁師は2023年8月から24年5月までの間、北海道や青森県、宮城県の沖合で漁獲したクロマグロの量を国に報告しなかった漁業法違反の罪に問われていた。計17回の漁でクロマグロ約9.5トンの漁獲量を国に報告しなかったとされる。

漁獲量に厳しい制限 しかし…
クロマグロは資源保護のため国ごとに漁獲枠が定められ、漁業者は国などに漁獲量を報告する義務がある。
男性漁師は未報告分のクロマグロを気仙沼市内の水産会社に販売し、利益を得ていたという。

ベテラン漁師が感じた「海の異変」
「マグロをとらなかったら生活ができないくらい、ここ数年で海がどんどん変わってきている」
15歳から漁に出ていたという男性漁師。今回の事件の背景に「海の環境の変化」があったと明かした。
「北の方に行っていた魚が水温の低下とともに南下していく。温かい水を追いかけて。それが今、全然とれない」

もともと男性はマグロ専門の漁師ではなく「流し網漁」と呼ばれる漁法で、網に絡みついた不特定多数の魚をとってきた。ところが近年、これまで通り魚がとれなくなり、代わりに大量のマグロが網にかかるようになったという。
「海一面マグロだらけだ。海一面マグロだらけなことによって、今までとれていたものが変わった。要するに海が変わってきている。この土地にこの年まで暮らしていると、海の変化って分かる」
漁獲制限に対する「憤り」
男性漁師は、さらに続けてこう語る。
「国は『マグロが網にかかったら移動しなさい』『また移動して網にかかったらやめなさい』と言う。月に数回しか漁に出られないような時、そんなこと言ったら漁師は何で食っていく?国はもっともっと力を入れてやってもらわないと、沿岸の漁師の人、みんな死ぬぞ。海、まるっきり変わっているんだから」

「判決は受ける。ただし…」
男性漁師は人目につきにくい夜や早朝に水揚げし、市場を介さず業者と直接取り引きして、未報告分のクロマグロを流通させ利益を得ていたという。国に報告が必要だと分かっていたものの「生活のために仕方なかった」と、取材に繰り返し答えた。
「悪いことしたんだから、判決は甘んじて受けないといけない。判決は受けるよ、当然」
「ただし…」男性漁師は少し沈黙した後、語気を強めてこう訴えた。
「金もうけするために、今まで商売でやっていて、金もうけをさらに上積みするためにマグロをとったわけではない。とれるものがない。とれないんだわ」

仙台地裁「厳しい非難が妥当」
2025年4月11日、仙台地裁で開かれた判決公判。
小林礼子裁判官は「クロマグロを闇売りしなければ生活が立ちいかなかったという被告人の供述をふまえても、自らの利益のために繰り返し犯行に及んだ被告人には、厳しい非難が妥当する」と指摘した。一方で、本人が反省の意を示していることなどを踏まえて、懲役3カ月、執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。
男性漁師の弁護側は「控訴しない」としている。

クロマグロ「ヤミ漁獲」は全国でも
クロマグロ漁獲量を報告をしない、いわゆる「ヤミ漁獲」は全国で起きている。
気仙沼海上保安署によると、「ヤミ漁獲」の立件は2023年の青森・大間産クロマグロをめぐる事件に続き、今回の宮城の事件で全国2例目だという。
