視覚障害者の意見を取り入れたインクルーシブファッションが新宿高島屋で展示されている。香りや点字で色を感じられる工夫や、触覚でわかる機能的なデザインの服が特徴。

誰もが楽しめる、五感を使ったファッションに迫った。

視覚障害者と共同でアパレル開発

栁原弥玖記者:
一見すると普通のTシャツなんですが、紫外線を当ててみると、色の変化を楽しむことができるということです。

紫外線で色が変化するデザインのTシャツ
紫外線で色が変化するデザインのTシャツ
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新宿高島屋が、9日から15日までの期間限定でオープンしたポップアップストア「Fashion for ALL your SENSES」。

並ぶのは、すべて視覚障害者の意見を反映したインクルーシブファッション。

チュールを重ね着したカットソーは、「ひもがほどけても気づけない」という視覚障害者の意見を反映し、あえてチュールを固定。(※チュールドッキングカットソー 1万2100円)

常に携帯しておきたい障害者手帳や、スマホがすっぽりと入るサイズのポケット付きのカットソーもあった。異素材を使い、ポケットが分かりやすくなっている。(※ポケット付きカットソー 9900円)

試着室には色が調節できる照明を設置するなど、売り場にもひと工夫。

商品の脇には点字で「ベージュ、柔らかな日が差す穏やかな砂浜」。詩的な一文の謎を解くカギは、商品につけられた「タグ」にあった。

商品の横に色を表現する詩的な一文が点字で書かれている
商品の横に色を表現する詩的な一文が点字で書かれている

栁原弥玖記者:
すっきりさわやかな朝の空…さわやかな香りがします。このようにタグについている香りをかいで、匂いのイメージでカラーリングを想像できるということです。

色を感じられる「言葉と香り」で仕掛け。

見える人だけでなく、見えない人もしっかりと楽しめるファッションを届けるのが狙いだ。

視覚障害者と共に取り組みを開始したのは去年1月。

視覚障害者・末棟武虎さん:
どうしても利き手に白杖を持つので、持ち替えたときにすぐに(ポケットから)出せるようになると安心する点ではある。

試作品について意見をもらったり、どうやって商品を手に取るのかといった空間把握についても、売り場の状況を再現してヒアリング。

嗅覚・触覚にもアプローチした買い物体験など、視覚障害者と幅広くディスカッションを重ねてきた。

視覚障害者・工藤星奈さん:
視覚障害当事者が「こういうふうに服を選んでいるんだな」ということに、興味を持ってくれるのはありがたいことだし、すごく貴重な機会だなと思います。

実際に商品を見た人は次のように話す。

来店客(50代):
フリルの感じとか、たっぷりしたシルエットとか、すごくファッションとしても素敵だなと思ったので、一般の方も着たいなと思うかなと。

来店客(30代):
大きい百貨店がやることで、いろんな人の目につくのは、すごい良いことなのかなと。

高島屋 MD本部 マーチャンダイザー・竹村健太さん:
LGBTQであったり、いろんな趣味嗜好の方がたくさんいらっしゃる中で、それぞれがそれぞれの考えに寄せるんではなく、それぞれの感覚自体で、楽しめていくような世の中になっていきたいなと思っているので、そういったところを支えるような百貨店でありたいなとに思っています。

“感じる”ファッションが心の豊かさを育む

「Live News α」では、日本総合研究所チーフスペシャリストの村上芽(めぐむ)さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
五感を使ったファッション、どうご覧になりますか?

日本総合研究所 チーフスペシャリスト・村上芽さん:
これまで視覚に障害のある方が、触る感覚や味覚などを活かして、触り心地のいいタオルや、くちどけのよいアイスクリームなどの開発に参加することがありました。

それらと比べて今回の取り組みは、ファッションそのものを見えなくても楽しもう、という点で、珍しいのではないかと思います。

堤キャスター:
ファッションの楽しみを、どうやって広げればいいのか、これは大事なポイントですよね?

日本総合研究所 チーフスペシャリスト・村上芽さん:
私たちはどうしても、自分の体の特徴や育ってきた環境から、「自分はこうだ」とか「他人はこうだろう」と決めてかかりがちです。

先入観を持たずに「どう楽しみたいか」という点が追求されていることは、物質的な豊かさだけではなく、精神的・気持ちの上での豊かさにつながっていきます。

発想と対話が多様性・満足を生むプロセスに

堤キャスター:
今回のような試みが増えていくといいですね?

日本総合研究所 チーフスペシャリスト・村上芽さん:
はい、視覚に障害がある人は全国に30万人程度います。さらに、日常生活でメガネを使っても視覚に苦労している・まったくできないという人は約4%という調査もあります。

見えない・見えにくいを超えて、誰もがファッションを楽しめることへのニーズは高まっていくと考えられます。もう一つ、「楽しめる」ということがキーワードになっていますが、これは、商品を作り出すプロセスにも当てはまります。

堤キャスター:
それは、どういうことでしょうか。

日本総合研究所 チーフスペシャリスト・村上芽さん:
いま、働く人のウェルビーイングが注目されています。特徴の違う人が、お互いの得意・不得意を認め合い、本音でぶつけ合っていくことはウェルビーイングにもつながりますし、何かが生まれるための必要な要素であるとされます。

今回の商品開発のプロセスも、簡単なことばかりではなかったと思いますが、様々な立場の人が関わっていて、満足度の高い仕事になったと想像できます。

これまでの常識にとらわれない発想は、ファッション以外の分野でもSDGsに貢献したいと考える人や、自由や平等に関心のある人にも参考になります。

堤キャスター:
デザインは視覚から得る情報が多くなりがちですが、五感で楽しめるファッションならば、どんな人の日常にも寄り添ってくれるように思います。様々なファッションの幅が広がっていくことを期待したいです。
(「Live News α」4月9日放送分より)