「保護司」と呼ばれる人たちがどのような活動をしているかご存じでしょうか。
罪を犯した人が更生して社会復帰できるよう支援する民間のボランティアです。
その保護司がいま、なり手不足に直面しています。
保護司は、法律に基づき、委嘱される非常勤の国家公務員です。
給与は支給されません。
現在、全国では4万6000人あまりが活動しています。
県内では、2016年時点で保護司は567人いましたが、徐々に減少し、この10年でおよそ20人減っています。
一見、あまり減っていないようにみえますが、問題は「なり手」がいないことです。
再任の年齢の上限が75歳から77歳に引き上げられた2021年以降は、一度は、回復の兆しを見せましたが、県内の605人の定数に対し、57人足りないのが現状です。
黒部市の稱名寺。
およそ600年の歴史がある寺の住職、國香正了さん(72)は、30年以上、保護司として活動しています。
國香さんは、保護司だった祖父の影響で保護司になりました。
今月から、県保護司会連合会の会長を務めています。
*県保護司会連合会 國香正了会長
「この場所だと、外の景色が見えて、心が和らぐかなと思ってここで(面接を)やっている」
保護司の主な活動が、罪を犯した人との面接です。
非行少年や、仮釈放で保護観察処分になった人と月に2、3回面接し、再犯しないよう健全な生活を送っているか、約束事を守っているかなどを確認し、指導します。
國香さんはこれまで薬物や窃盗などで検挙された少年少女などおよそ15人と向き合ってきました。
*県保護司会連合会 國香正了会長
「立ち直った子からもらった手紙がある。『立ち直って結婚して、子どもが産まれた
よ』と。ずっと保護司を続けられた要因になっている。うれしかった。更生して立派にやっているのが励みになる」
罪を犯した人が更生するために欠かせない保護司の存在。
しかし、制度はいま、転換期を迎えています。
去年5月、滋賀県大津市で保護司の男性(当時60)が殺害されました。
殺害した男は、コンビニ強盗事件で保護観察付きの執行猶予判決を受け、殺された男性が、担当保護司として支援していました。
犯行現場は、保護司の自宅でした。
男は、面接中に保護司を刃物で複数回、刺したとみられています。
保護司はボランティアであるという特性から、面接はほとんどが自宅か対象者宅で行われます。
國香さんは事件の後、面接で2人きりの時に相手が逆上して襲ってこないか、不安を感じていました。
*県保護司会連合会 國香正了さん
「最悪の場合を考えて、後ろ姿を見せないとか、正面だったら(凶器を)出したらわかるけれど、後ろを向いている時に出されたらだめだとか、そういうところに気を付ける」
事件を機に、全国で保護司の安全対策を見直す動きが出ています。
県は、先月、面接場所に公民館などの公共施設を使えるよう、市町村に協力を求める方針を決め、呼びかけを始めました。
もともと、自宅以外にも、保護司会が管理する「更生保護サポートセンター」で、面接はできましたが、県内に11か所しかなく、國香さんは、更生しようとしている人と向き合える場所の必要性を訴えています。
*県保護司会連合会 國香正了会長
「理解がある自治体もある。逆に反対する自治体もある。公民館に来られるのはいやだと実際にブロックされている地区もあると聞いている」
制度に詳しい専門家は保護司の活動は危険というイメージが、なり手不足にもつながっていると指摘します。
*龍谷大学矯正・矯正・保護センター浜井浩一センター長
「保護司自身はやってもいいと思っていても、家族が不安がる。自宅に罪を犯した人が来るとか、外で面接するにしても、自分の家族が単独で犯罪者に会う。そこにリスクを感じる人がいるので、リクルート(なり手確保)が難しくなっている」
一方、徹底的な安全対策を取ることは、保護司本来の意義、目的になじまず、保護司をサポートする制度の拡充が現実的だとします。
*龍谷大学矯正・保護センター浜井浩一センター長
「例えば監視カメラを設置した場所でしか対象者と会わないという形にしてしまったら、『保護司は自分のことを信用していない』ときっと思う。保護司の本来の意味が
損なわれてしまう。(保護司)本人が希望する場合は、スーパーバイザー的な保護司をつける。保護司のやり方を見て学んでもらうというのが大事」
浜井センター長はとにかく、「一番大切なのは保護司と対象者の信頼関係」と強調しています。
安全確保が支援対象者との信頼関係構築の障害になる、この矛盾をどう克服するのかが今後、保護司制度の鍵となるといえます。