自然環境が変化する中、“希少な動物の命を守る”『種の保存』の取り組みは現在世界中で行われています。
鹿児島市の平川動物公園の取り組みも何度か取り上げていますが、実はかごしま水族館でも同様の取り組みが進んでいます。
一体この『種の保存』は誰のために行われるのか?
そして動物園・水族館の存在意義について井上キャスターが取材しました。
鹿児島市の平川動物公園です。
病気や高齢で死ぬ動物が相次ぐ中、種を保存するために他の動物園と動物の貸し借りを行う「ブリーディングローン」が進められています。
ボルネオオランウータンやカリフォルニアアシカなど、迎え入れる動物がいる一方で去る動物たちもー。
「ライト!ありがとう」
2年前に和歌山からやってきたオスのホッキョクグマ・ライト。
繁殖を目指して北海道の動物園に引っ越しました。
平川動物公園・福守朗園長
「2年前、3年前の状況と比べると、高齢の個体が死んだり、ライトの一番良い選択を皆さんが考えた結果」
こちらはコアラ館です。
2024年も複数の赤ちゃんコアラが誕生し、現在、国内最多の20匹がいます。
順調に繁殖が進み、県外の動物園にここ5年間で6匹が貸し出されています。
2018年に名古屋の動物園に貸し出されたオスのイシンは、5匹の仔を残しています。
命がつながっていました。
こうした動物の貸し借りが進められる場所がもう一つ。
かごしま水族館です。
来館者
「でっか!ジンベエザメ」
「エイちゃんがかわいいな~」
春休みとあってか、この日も多くの人が海の世界に夢中になっていました。
一方バックヤードでは…
井上彩香キャスター
「イルカの姿が見えました。失礼します」
「今どんなことをしているんですか?」
かごしま水族館 海獣展示係・大瀬智尋さん
「朝一番のエサを使いながら体温測定をしたり、夜の間に新しい傷がなかったか、そういうのをチェックする」
水族館の人気者“バンドウイルカ”も、実は『種の保存』の対象動物です。
今から10年前の2015年、日本動物園水族館協会が野生のイルカの捕獲を禁止、加盟する水族館は「繁殖で増やす」しか選択肢がなくなりました。
実際に国内のイルカは2015年には約280頭いましたが、捕獲が禁止され200頭にまで減ってきています。
そんな中、かごしま水族館では2022年に初めてイルカのブリーディングローンが行われました。
それがここで生まれたメスのイブ。
大瀬さん
「血がやっぱり濃くなってしまうので、イブと当館にいるオスのイルカたちで交尾できない状況」
5歳になった年にイブは、福岡県の水族館に移されました。
そこでイルカの飼育を担当する田中夏澄さんは、当時のイブの様子をよく覚えています。
マリンワールド海の中道 イルカ飼育担当・田中夏澄さん
「すぐに他のイルカたちちも打ち解けて、仲良く寄り添って泳いでいる姿が印象的。今はショーに出ているメンバーの中では一番高いジャンプを飛んでくれてます!」
環境にも慣れ、これからイブには新たな命を宿すことが期待されています。
田中さん
「先輩のイルカみたいにもう少し大きな体になって、繁殖に参加してもらえたら、イブの子孫を残してもらえたら」
全国各地で進む種の保存。
日本動物園水族館協会で種の保存の取り組みに関わっている岩田知彦さんに、こんな疑問をぶつけてみました。
井上キャスター
「“種の保存”は私たちが『見たい』というエゴの中にあるような気もしていて、誰のために、何のために続けていくのかなと」
日本動物水族館協会 種保存事業部・岩田知彦部長
「正直にいうと、動物園・水族館はまさに“人間のエゴ”でできている。いろんな生き物が見たいという欲求から生まれてきている施設。今なかなか自然環境に直に触れる機会が少なくなってきている人達もいる。そういった人達に『こういう動物もいるんだ』『こういう環境もあるんだ』というのを知ってもらうことに非常に意義がある。生き物たちの保護につながっていく」
『皆さんにとって、動物園・水族館はどんな場所ですか?』
井上キャスター
「動物園にきたらどんな気持ちになる?」
女の子
「うれしい気持ちになる。何回でも行きたいなって思う」
親子3世代で来園
「多分本人(娘)が物心付く前から頻繁にきてました。“みんなが繋がれるところ”」
女子高生
「日常の悩みとか忘れられて、すごく癒やしとかを与えてくれる場所」
『動物園と水族館の存在意義は?』
かごしま水族館・佐々木章館長
「鹿児島は南北600キロという広い海を持っている。そこにはたくさんの生き物がいる。それを伝えるのがかごしま水族館として大切。“鹿児島の海を伝える”“鹿児島の今を伝える”」
平川動物公園・福守朗園長
「シンプルに楽しく家族でくつろぐ場。それでいて何かひとつでもふたつでも動物の真の姿を知るきっかけになる」
2025年2月、かごしま水族館ではイルカの赤ちゃんが誕生しました。
一方、平川動物公園では3月、メスのシロサイが死にました。
日々、繰り返される動物の生と死。
10年後、20年後、当たり前に見ていた動物が見られなくなる日が来るかもしれません。
動物園や水族館は“種の保存”という大きな課題と常に向き合いながら、私たちに癒しと学びを届けています。