2025年3月末に閉店した長野県松本市の井上百貨店には、店内放送やコマーシャルなどで長年、愛されてきたテーマソングがありました。曲を聞けば、聞き覚えのある長野県民も多いとみられます。いつ作られたのか、誰が歌っているのか、今後はどうなるのか?取材しました。
■閉店する百貨店に流れるなじみの曲
長野県松本市の井上百貨店。3月末の閉店が迫り、連日、別れを惜しむ客が訪れています。
客:
「悲しいね。(井上は)品物が買っても安心。いい品物」
「ちょっとショックだったんです。ずっとあるものだと思っていたので」
正午、寂しい気持ちを和らげるようなメロディーが流れて来ました。
井上のテーマソング「メロディーフェアへようこそ」です。
客:
「もう井上に来れば『ああ、あの曲、あの曲だ』って感じですね」
井上と言えばこの曲。いつ作られたのか?誰が歌っているのか?そして、今後、この曲はどうなるのでしょうか?
■呉服店として140年前に創業
明治18年・1885年に呉服店として創業した井上。昭和に入り松本市大手に「六九店」を構え、昭和31年・1956年に増築した店舗には県内初のエスカレーターが設置されました。
1970年代後半、変化の時を迎えます。駅前に総合スーパーのイトーヨーカドーがオープン。(※現在はアルピコプラザに)
駅ビル「セルヴァン」も完成します。(※現在はMIDORIに)
そして、その翌年、井上も駅前の今の場所に移転しました。
こちらは開店時の映像。多くの人で埋め尽くされ、にぎわう様子が分かります。
この5年後には、先日閉店したパルコも進出しました。1970年代後半から90年代にかけ松本は駅前に多くの人が集まるようになりました。
井上駅前本店・上嶋保店長:
「駅前にうちが移ってくる5年間というのは、すごかったですね」
■創業100年テーマソングを変更
1976年に入社した上嶋保店長(72)。駅前への移転当時を知る数少ない社員です。
1985年、創業100周年セールの写真には、当時の上嶋店長の姿が。
井上駅前本店・上嶋保店長:
「(100周年は)私たちも節目ということで新たなスタート、そういう感じですね」
それまでもテーマソングはありましたが、この時に「メロディーフェアへようこそ」に変更したということです。
上嶋保店長:
「一番は、あれが流れたら『井上だ』って思ってもらえたらいいなと」
■県民「おなじみの曲」に
記録が残っていないため誰が作詞・作曲したかなど詳しい経緯は分からないということですが、長年1日4回店内で流れ続けています。
客:
「特別意識するわけじゃないけどこれがあると『井上だ』、っていう」
「品がいい歌だなっていう感じ、印象はありました」
さらに、テレビコマーシャルでも使われてきました。
松本地域以外の人に聞いてもらっても。
飯山市・40代・20代:
「あああ~~!!あ、いのうえ~ってやつだ!(行ったことは?)ないです、松本にはあまり行かないので(でもこの曲は?)聞いたことあります!」
長野市・60代:
「サビは分かります、ばっちり。いい歌ですよね」
千曲市男性・40代:
「あ~!はいはい、わかります。井上だ!そうですよ。はいはい。わかります。小さい頃、結構流れていた気がします」
行ったことがない人も口ずさめる県民「おなじみの曲」となっています。
■「サーカス」が歌を担当
歌を担当したのは。
叶正子さん:
「『メロディーフェアへようこそ』を歌っているのは、『サーカス』です」
1978年にデビューした4人組コーラスグループ「サーカス」です。
「Mr.サマータイム」などのヒット曲で知られ、紅白歌合戦にも出場。結成当時からのメンバー叶正子さん、高さんきょうだいに、現在は、高さんの娘・ありささんと吉村勇一さんが加わり、精力的に活動しています。
「メロディーフェアへようこそ」の印象や思い出は?
叶高さん:
「本当にキャッチーというか、今聞いても、正子さんがさわやかな声を出していますね」
叶正子さん:
「そうそう、すごくさわやかな曲だったなというのは思い出しました」
叶高さん:
「僕たち、いろいろな曲を歌ってきているんですけど、そういういい曲は覚えている」
叶正子さん:
「ずっと流れていたっていうのが、本当に感激するぐらいうれしい」
■松本でのコンサートで歌うと
CD発売もしていないため長年歌うことはありませんでした。しかし、2024年10月、松本で開いたコンサートで。
叶高さん:
「松本に行くんだったら、この曲を歌いたいと一致しました。その曲を聴いてもらいたいんです。それでは特別バージョン、他では歌いません」
♪「街はメロディーフェア~」
美しいハーモニーを響かせます。
叶ありささん:
「歌い始めたときの、お客さまのザワっとした感じ、すごく忘れられない」
吉村勇一さん:
「聞こえた瞬間にああ!っていう。すごくうれしかったです」
叶高さん:
「他じゃやらないですからね、特別感ですよね、本当にね」
■系列店に「歌いに行きたい!」
井上によりますと、統合する系列店・山形村のアイシティ21では、今後も店内で流す予定。そのことを伝えると。
叶ありささん:
「行きたい!聞きに行きたい!」
叶高さん:
「いや、歌いに行きたい」
叶ありささん:
「いいね!急に歌って回る」
吉村勇一さん:
「1日4回のタイミングのどこかで」
叶正子さん:
「この歌を通じてつながってるというか、それはとてもうれしく思います」
叶ありささん:
「この曲とともに、そうやってふわっとこの曲を聴いて、その時の家族の楽しい思い出とか、そういうものがよみがえったらすごくいいな」
店はなくなっても、思い出は曲と共に。
■従業員にも忘れられない曲に
従業員にとっても忘れられない曲になりそうです。婦人服売り場に20年以上勤めてきた中村弘子さんはもともとサーカスのファン。
井上の婦人服売り場に勤務・中村弘子さん:
「最初に開店の時にこの曲聞くと、なんかきょうも1日頑張ろうっていう気持ちにさせられますね」
曲に励まされながら、心を尽くして接客してきました。その日々ももうすぐ終わりです。
中村弘子さん:
「自分の生きがいだったかなっていう感じはしますね。心を込めて接客するとお客さまもそれに応えてくださるので、本当に人対人のお仕事なので、とってもやりがいがあるお仕事じゃなかったかなという気がします」
長年愛されてきた「メロディーフェアへようこそ」。
井上百貨店で聞けるのは閉店日の3月末までです。ただ、統合する「アイシティ21」と、井上に親しんできた客の心の中では生き続けます。