オウム解体を恐れたか
拘置所の端本のところには女性信者が本をはじめとする様々な差し入れを持って定期的に訪れていた。孤独な獄中生活はそうした信者に支えられていたのだろう。

端本は差し入れを持ってくる女性信者について思うところがあった。この子たちを守るためにもオウムが消滅するような事態だけは避けねばならないという趣旨の話を獄中でしていたという。特捜本部には拘置所にいる端本らの日常の言動についても情報が入っていた。

長官銃撃事件は明らかに公共の安全やそれを維持しようとする国家への挑戦である。宗教法人法による解散命令だけでは、任意団体による宗教活動は制限できない。長官銃撃事件がオウムの仕業であると立証されれば、国は破壊活動防止法を適用し、跡形もなくオウムを解体するだろう。端本や早川らはそれを一番恐れていたのではないか。
端本はある意味必死だったのかもしれない。2002年の暮れに特捜本部の捜査員と拘置所で面会した際に、上半身裸で現れたというのだ。捜査員は呆気にとられてしまい、なぜ裸なのか理由を問うこともなかったという。
長官事件の犯人が細身の男だと報道されていたのを知って、自分は細身ではなく筋肉質でがっちりした男だとアピールしたかったのではないか。この時も事件への関与について「俺は関与していない」と頑として否認した。
どんなに否認しても追及してくる捜査員とのやりとりに辟易した端本は、この時から捜査員の事情聴取を嫌がるようになる。仕舞には面会を申し込んでも拘置所の房から出ることさえなくなっていった。
【秘録】警察庁長官銃撃事件38に続く
【執筆:フジテレビ解説委員 上法玄】
1995年3月一連のオウム事件の渦中で起きた警察庁長官銃撃事件は、実行犯が分からないまま2010年に時効を迎えた。
警視庁はその際異例の記者会見を行い「犯行はオウム真理教の信者による組織的なテロリズムである」との所見を示し、これに対しオウムの後継団体は名誉毀損で訴訟を起こした。
東京地裁は警視庁の発表について「無罪推定の原則に反し、我が国の刑事司法制度の信頼を根底から揺るがす」として原告勝訴の判決を下した。
最終的に2014年最高裁で東京都から団体への100万円の支払いを命じる判決が確定している。