卒業式で昔の定番だった「仰げば尊し」が歌われなくなっている。
専門家によると、先生を奉るような歌詞の表現が、昔とは違って対等になりつつある先生と生徒との関係性にそぐわなくなってきているという。
文科省によると決まった曲はなく、生徒が自由に曲を選ぶ学校も増加している。

消えゆく卒業式の定番曲「仰げば尊し」

今まで卒業式でよく歌われてきた「仰げば尊し」が、卒業式から消える可能性がある。
実は、この曲が歌われなくなってきたある背景があった。

11日、東京・品川区の青稜高校の卒業式を取材した。

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卒業生:
今日の別れの寂しさと、未来への晴れやかな希望を胸に、新しい人生へと踏み出します。

先生や仲間たちと別れの時の、思い出の1つといえば合唱だ。

青稜高校では「蛍の光」を合唱していたが、約30年前までは別の定番曲も歌っていた。
その曲が「仰げば尊し」だ。

遠藤玲子キャスター:
ーー宮司さんは、卒業式で歌っていましたか?

宮司愛海キャスター:
私は「旅立ちの日に」という曲で、当時は新しい曲だったと記憶しています。

遠藤キャスター:
世代によって、卒業式の「定番」に違いがあるようです。

10代(先週高校を卒業):
小学校から「旅立ちの日に」がメインソング、あと「栄光の架橋」。みんなに寄り添ってる歌詞がたぶん多いから、刺さってる人が多いのかな。

20代:
「栄光の架け橋」と、「手紙~拝啓十五の君へ~」。私は高3の時にクラスの皆で歌ってた。

20代:
私は中学3年生の時に歌った。「栄光の架橋」はスポーツやってたクラスなので、皆で歌いました。

一方で、40代以上の皆さんから、定番として出てきたのはこの曲だ。

50代:
「仰げば尊し」ですかね。

50代:
「仰げば尊し」、歌った記憶があります。

そして、学校の先生にも聞いた。

青稜​中学校・高等学校・教頭(60代):
国歌、校歌、「仰げば尊し」、「蛍の光」の4曲ですね。

青稜​中学校・高等学校・教師(50代):
おそらく「仰げば尊し」。

「3月9日」や「YELL」など最近の曲が人気

楽天ブックスが2025年1月に行った「思い出の卒業ソング」の調査によると、20代は1位が「旅立ちの日」、2位が「3月9日」、3位が「YELL」、30代は1位が「旅立ちの日」、2位が「3月9日」、3位が「さくら」、40代は1位が「仰げば尊し」、2位が「贈る言葉」、3位が「蛍の光」、50代は1位が「贈る言葉」、2位が「仰げば尊し」、3位が「卒業」という結果になった。

遠藤キャスター:
ーー木村さんも「旅立ちの日に」歌いましたか?

木村:
30代なので、「旅立ちの日に」でした。

遠藤キャスター:
各世代の思い出の卒業ソングの最新ランキングを見てみると、30代と40代で大きな境界線がありますね。「3月9日」や「YELL」など、最近の曲な気がしますね。

そして、この40代以上でランクインしている「仰げば尊し」が、なぜ最近歌われなくなったのか、専門家に聞いた。

同志社女子大学・吉海直人名誉教授: 
歌詞の一番最初が「仰げば尊し 我が師の恩」という形で始まってますよね。最近の若い人は、和菓子屋さんの“和菓子”と間違う人もいる。昔は「師」というのが、「先生」の意味で言われてた。「先生から受けた恩は、海よりも深く山よりも高い」という意味。

歌い出しの「仰げば尊し 我が師の恩」は、「先生への恩は見上げるほど尊いもの」という意味で、ここに歌われなくなった一因があると指摘した。

同志社女子大学・吉海直人名誉教授: 
「先生が偉い」、「先生がすごい」そういう意識で作られているので、先生と生徒の位置関係が、昔とは違って対等になりつつあると、こういう歌は卒業式にそぐわないようになってくる。

つまり、今の時代では「恩着せがましい」としてとらえられてしまったようだが、この変化にどう思っているのかについて、先生や街の皆さんに聞いた。

青稜​中学校・高等学校・教師(40代):
それはもう事実として受け止めるしかない。われわれがもっと頑張らなきゃいけない。

青稜​中学校・高等学校・教頭(60代):
やはり教員を奉るみたいな感じ、それは時代錯誤でしょうという話なのでは。

記者:
先生としては、複雑ではないですか?

青稜​中学校・高等学校・教頭(60代):
全然複雑ではない。まったくその通りだと思うので。

青稜​中学校・高等学校・青田泰明校長(40代):
今そういうふうに言われてるのであれば、違う選択肢というものを考えても、それは僕は全然構わないと思う。

30代:
「教えてきてあげたぞ」という感じがあるかもしれない。

20代:
先生には恩あるし、恩着せがましいとは思わないけど、なんか歌えって言われて歌う曲ではない。

遠藤キャスター:
青井さん、そういう背景があるということです。

青井キャスター:
時代なのかもしれないですね。

遠藤キャスター:
この年齢になると、先生のありがたみとか恩というのをあらためて感じますね。ちなみに、文科省に聞いたところ、卒業式に歌う曲に決まりはないということで、担当者によると「最近は生徒が自由に選べる学校が増えているため、古い言葉が多い曲は歌わなくなったのでは」ということです。そしてパックン、「仰げば尊し」の原曲はアメリカなんですね。

スペシャルキャスター パトリック・ハーランさん(パックン):
僕は、原曲もこの曲も知りませんでした。

遠藤キャスター:
そんな、ちょっとしたうんちくもありました。
(「イット!」3月12日放送より)

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