ペットの平均寿命が飛躍的に伸びている
この記事の画像(6枚)ペットを取り巻く環境はこの20年で激変している。
犬猫ともに20年前、平均寿命が10歳だったのが、いまは15歳と高齢化。ペット愛好家にとっては朗報だが、一方で深刻なのは「生活習慣病」のペットが増えていることだ。こうした状況をうけ最近ではペットの病気を未然に防ぐ「予防医療」市場も拡大している。
「団塊の世代が後期高齢者になるのを『2025年問題』と言いますが、ペットの世界ではすでに現実に起こっています。15歳以上のペットはいまや3割を超えています」
こう語るのは日本獣医生命科学大学の新井敏郎教授だ。
犬や猫の平均寿命はかつて約10歳(7歳からがシニア期)と言われていた。しかし日本社会が豊かになるにつれて犬猫が巻き込まれる事故や栄養不良が減り、ワクチンの普及や獣医学の進歩で感染症のリスクも激減した。さらにペットフードの普及で、いまや平均寿命は飛躍的にのびている。
もちろんペットの飼い主にとって、愛犬・愛猫が長生きするのはありがたいことだ。
糖尿病になる犬猫が年々増加
しかし、ペットの寿命がのびることで、いま新たな問題が起こっている。
「いま、猫の3~4割は肥満だと言われています。もともと肉食で太りやすい体質ですが、ペットフードの普及によるオーバーカロリーや、家から外に出さないことによる運動不足が原因です」(新井教授)
20年前犬の数は1600万匹、対して猫の数は800万匹だったのが、2018年では犬が890万、猫が960万と逆転している(一般社団法人ペットフード協会調べ)。しかし新井教授によると、肥満は犬でも増えており、糖尿病になる犬猫は年々増加して、飼い主の治療費負担も重くなる一方だと言う。
深刻な「老老介護」問題
また、さらに深刻なのが、「老老介護」問題だ。
飼い主が高齢化することで、高齢化したペットを散歩に連れ出せなくなるなど「介護」が難しくなるケースもある。
2月18日には岡山県高梁市で、自動車に乗りながら犬をリードで引っ張る動画に批判が殺到し問題となった。車を運転していた88歳の飼い主は「自分の足で歩けない。家の中でも杖をついて移動しないといけないけど、一日に1回くらいは犬を外で走らせてあげたりしたい」と話している。この動画をよく見ると、車は歩道を走っていた。
このような現実をふまえ、ここ数年で急成長しているのが、ペットの「予防医療」市場だ。ペットの肥満は欧米でも問題となっており(アメリカの猫の肥満率は6割と言われている)、世界的にペット用サプリメントの開発競争が進んでいる。
日本でのペット用サプリメント市場は、100億円(ペットフードは5~6千億円)規模と言われていて、医薬品メーカーも人の医薬品開発のノウハウを使い、ペット用サプリメントの製造に乗り出している。
ペットたちの健康のために
犬用のサプリメント「ワンサポート」を開発しているのは、医薬品メーカー「湧永製薬」だ。湧永製薬は長年、熟成ニンニク抽出液を配合した滋養強壮剤「キヨーレオピン」を販売してきた。「愛犬といつまでも元気で一緒にいたいというオーナー様の願いに応えるため、『キヨーレオピン』シリーズで培ってきた経験を、犬用サプリメントの開発に活かしました」(湧永製薬開発担当者)
一方、市場で出回っている製品の中には、効用のはっきりしないものも含まれており、人の機能性食品表示のような制度の導入が求められている。現在、獣医師会、ペットフード業界、獣医系大学、ペットオーナーなどの代表者が集まって、研究会を立ち上げたところだが、正式に制度化するにはまだ2,3年はかかりそうだ。
さらにペットの「健康診断」市場も注目されている。いま犬に関しては狂犬病の予防注射が年に1回義務付けられているが、猫には「健康診断」の義務がない。このため病院などが「ドッグドック」「キャットドック」を行い(有料)、CTスキャンなども行われている。まさに「人間ドック」並みだ。
とはいえ、まずは家庭でのペットの健康管理、「未病」が大切だ。
「ペットが『太ってきたな』と思ったら、おやつを少なくするなどして摂取カロリーを落としたり、散歩ができない猫であれば、部屋の中の高いところに餌を置いたりするなど運動させる工夫が必要です」(新井教授)
ペットが長生きするだけでなく健康であり続けるために、生活習慣病にかからないよう心掛けることが飼い主の愛情だ。