石川県輪島市で水産加工と販売を行う南谷良枝さん、美有さん親子。全国各地で行われている出張輪島朝市の顔としても活躍している2人の「節目の一日」を稲垣真一アナウンサーが追った。

南谷良枝商店の今

2024年12月、久しぶりに南谷さん親子を訪ねた。被害のあった店舗兼加工場は今…。

南谷良枝さん:ここも全然、いま公費解体待ちなんですけど。こんなんなってきてかわいそうで見とられん
稲垣アナ:うわー
良枝さん:ちょっと酷くなっているでしょ。地割れの幅が酷くなっているかな。倉庫の床がもう抜けてないので、倉庫が半分に割れている状況ですね。輪島に帰ってここを見る度に私の父が一生かかって頑張って、命を削って守ってきた家と店を潰さなくちゃいけないと思うと、複雑な気持ちですよね。見るたびに、悪いなと思って

稲垣真一アナウンサー(左)南谷美有さん(中)南谷良枝さん(右)
稲垣真一アナウンサー(左)南谷美有さん(中)南谷良枝さん(右)
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落胆する母の代わりに立ち上がったのは、娘の美有さんだった。壊れた加工場などを立て直すためのクラウドファンディングをスタートしたのだ。

美有さん:いしるとかぬか漬け、朝市でも売っているんですけどそれって食文化だと思うので。自分が守っていかないとダメだなというのを感じて

ただ当時、母・良枝さんは次のように話していた。

良枝さん:自分が汗水たらして働いていないお金を人さまから頂くのが、そういうのは許されないというかできないと思っていて。美有の方から、『そんなこと言っとったらお店ももうダメになるし、先祖様から受け継いだいしるの発酵菌とかもここで途絶えてしまうよ』と言われて『じゃあお願いします』ということで 彼女が一所懸命いろんな所に行って、いろんな人にお会いしてお願いして歩いています

美有さんの苦労が実り、集まった資金で輪島市内に加工場を作ることができた。

美有さん:たくさんの方が協力してくれてこのプレハブを作ることができた。でも自分が恩返しできることってないので。今できることは元気に魚を加工して皆においしい魚を届けることだと思っているので、そうやってちょっとずつ応援している皆さんに恩返ししていきたいと思っています
良枝さん:その時美有が頑張ってくれたからこういう形のあるものが作れたっていう意味でも、本当にあの時の美有の決断は正しかったなと思います

出張朝市と息子の晴れ舞台

2025年1月、2人の姿は富山県砺波市にあった。地震後、良枝さんの輪島の幼なじみが経営している加工場を借り、出張輪島朝市などで販売する商品の加工を行ってきたのだ。2人は富山県の冬の風物詩「日本海高岡なべ祭り」に出店予定で、この日はその仕込み作業だった。今回販売するのは「輪島フグ鍋」。輪島で獲れた天然フグを白だしと昆布だしを合わせた特製のだしで煮込み、美有さんの好きな春雨を添えた一品だ。

美有さん:うん、美味しいです。フグに味が染みてておいしいです
稲垣アナ:良枝さん、うまくできましたね
良枝さん:できましたね、皆さんのおかげで

実は鍋祭りの期間中、良枝さんにはもう一つやるべきことがあった。

良枝さん:息子の成人式が輪島でありまして、息子も小さいころから母ちゃんは仕事に出ていて家にいない母ちゃんだったので、『成人式も来んだっていいわいね』と言ってくれたんですけども、美有が『それはダメや』と。『息子の成人式ぐらい一緒におらんなダメや』と言われまして。1日目の鍋祭りが終わり次第、輪島に向かって成人式の準備をしたいと思います
稲垣アナ:どういうふうに美有さんはお母さんに言ったんですか?
美有さん:自分の成人式の時に、母がみんなのお母さんたちより早く帰ったんですよ、仕事があって。もう少し長くいてほしかったな、という思いがあったので、弟の時は最初からいないというのはかわいそうやなと思って、言いました
良枝さん:おらんなダメやって!って怒られました
稲垣アナ:その分、お店は…
美有さん:ちょっと心配だけど、大丈夫だと思います。1年間、2人分かれて出店という機会も多かったので。慣れてきたのでいけると思います

心強い娘の成長

1月12日、輪島市で二十歳の集いが行われた。そこには長男の将伍さん、そして良枝さんの姿があった。

将伍さん:母の出席は予想していなかったですね。母もすごく忙しいので、こういう時間を作ってくれたことに感謝しています
良枝さん:来てよかったです、とても嬉しいです

長男・将伍さん(右)
長男・将伍さん(右)

そんな中、高岡鍋祭り会場の美有さんにあるものが届いた。

美有さん:母から写真が送られてきました。ネクタイは私が選びました。スーツも一緒に選びました

稲垣アナ:今日はどんなふうにお店を守っていきますか?
美有さん:母はいないんですけど、皆で一緒に協力して完売させたいと思います

高岡鍋祭りは、高岡市内4カ所で17種類の鍋が味わえる冬の一大イベント。行列が絶えない大盛況の中、良枝さんの分までお店を切り盛りする。そんな美有さんについて、良枝さんは次のように話していた。

良枝さん:ここ最近は私を引っ張っていくぐらいの勢いで『こうした方がいいんじゃないか、 ああした方がいいんじゃないか』とか。体調の悪い時、無理に出張朝市に行こうとすると1人で行ってくれたりすることもあるので、本当に心強い存在です。前を向いて頑張ろうとしているので、わが子ながらすごいなと思います

鍋は完売。親子ともに良い節目の一日となった。

稲垣アナ:ずっと一年間、工事の音が聞こえていますけど、どうなっていくんでしょうね
良枝さん:昔みたいに、昭和の頃みたいに活気のある朝市に戻ってほしいなと思っていますね
稲垣アナ:でもやっぱり輪島は離れられませんか?
良枝さん:輪島はやっぱり好きですからね。震災前も、どうにか輪島にたくさんの方に来てもらいたいと思ってずっと発信をしてきたので、パワーアップして皆さんに来ていただきたいと思っているから、これからも輪島の良いところを紹介していきたいなと思っています
美有さん:出張輪島朝市とかで県外に行くことが多くなったんですけど、それでより輪島はご飯もおいしいし、空気もキレイやし、人も温かいし良いところやなって余計に思うようになったので、地震の前よりも好きになりました
稲垣アナ:これから支えていくのは若い世代ですからね
良枝さん:はい、もう頑張ってください!

この1年、南谷さん親子の姿を見てきて、特に美有さんの成長ぶりを強く感じる。母を支え、さらに伝統の輪島の食文化を守りたいという強い思いを、今後も応援していきたい。

(石川テレビ)

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