鬼が大暴れして人を棒で容赦なくたたき、けがをする人も!見ていた子どもは恐怖のあまり泣きわめく。まるで地獄絵図だが、祭りの話なのでご安心を。鹿児島・曽於市で正月に行われる奇習「鬼追い」は、鬼が暴れるほどご利益があるとされ、けがを覚悟で鬼に近づくという少し変わった祭りだ。

奇習「鬼追い」が途絶えている間は悪疫が流行

大隅半島の北部に位置し、宮崎県と接する人口3万2000人余りの曽於市。市内末吉町の深川熊野神社で毎年1月7日に行われる「鬼追い」は、もともと、寺主催の仏教行事だった。

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一度途絶えたが、その間に悪疫がはやったことなどから復活した過去がある。1994年に県の無形民俗文化財に指定された。

暴れるほど無病息災や五穀豊穣をもたらす善鬼

「自己責任のもとで祭りを楽しんでいただきますようにお願いします」と、会場にアナウンスが流れた。さすがに大げさでは?と思って見物客に聞いてみたら、なんと「人がたたかれる、鬼に。ものすごく危険」というではないか!別の見物客も「救急車が来るくらい危険」と話す。アナウンスは、決してオーバーではないようだ。

鬼が山から下りてきた。「静まれ~静まれ~」という掛け声と、鳴り渡るほら貝の音を合図に、3匹の鬼が勢いよく飛び出してきた。
見た目は、一般的な「鬼」そのもの。鼻の長い真っ赤な顔。ボサボサの頭とギョロっとした目つきがなんとも恐ろしい。

だが、この鬼は、暴れるほど無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)をもたらす「善鬼」とされている。また、鬼がまとっている「御幣」をちぎり取れば、1年間健康でいられるといわれている。そこで、見物客は「御幣」を手に入れようと、必死に鬼を追いかける。

一方、鬼はそれぞれ仲間2人とともに、「鬼の手」と呼ばれる硬い棒を振り回しながら大暴れするのだ。けが人が続出するのもうなずける。

大暴れする鬼の様子に、恐怖のあまり涙を流す女の子の姿も
大暴れする鬼の様子に、恐怖のあまり涙を流す女の子の姿も

見物に来た子どもは恐怖のあまり、おびえた様子で大粒の涙を流していた。

鬼に扮(ふん)しているのは、25歳の厄年の男性。しかし、見物客に恨まれることがないよう、鬼になったことは、生涯内緒なのだそうだ。

「鬼が恐ろしすぎて」ベテランカメラマン痛恨のミス

「打て、打て、打て、打て、打て、打て!」と熱い実況とともに、祭りはますます熱気を帯びてくる。祭りの様子を撮影したカメラマンは、この道30年のベテラン。この地域を担当する支局に赴任して6年目。

ところが…撮った映像をチェックすると、映っていたのは地面ばかり!鬼にカメラを向けたときには録画ボタンがオフになっていたのだ。痛恨のミス!
確かに、事前に常連の見物客から「カメラマンも危ない。カメラだけは守ったほうがいい」と、アドバイスをもらっていた。しかし、鬼は想像以上に恐ろしすぎた。

「こんな危険な祭りだとは思わなかった。どこから来るか分からないし、機材を守ることで精一杯」とベテランカメラマンは頭をかいた。

鬼たちのおかげで無病息災、五穀豊穣の良い1年に

想像を絶する鬼と人との激しい闘いは1時間近く繰り広げられた。

そして、鬼は静かに、山へと帰っていった。
鬼にたたかれた跡が服に残る見物客も「めっちゃ痛い。よかった、たたかれて。また来年も闘いに来る」と笑顔だ。

鬼追い祭実行委員長の迫杉雄さんは「今年1年頑張ろうという意気込み。だから、この日は方々から来ている」と、祭りの魅力を語った。
強烈なパワーで、悪疫を退散させるといわれる、深川熊野神社の「鬼追い」。大暴れした鬼たちのおかげで、2025年は無病息災、五穀豊穣の良い年になることは、間違いないだろう。

(鹿児島テレビ)

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