2024年12月、広島市内で“ファッションショー”が開催された。出演者の半数以上は、広島をはじめ地方に住むモデルだという。地方を“アツく”するモデルの卵たちに密着した。

地元のモデルが立てるステージを

ショーを主催したのは、名古屋市在住で、パリでモデルとして活躍する渡辺由梨佳さん。地方都市でショーを企画したのには、ある「理由」があった。

パリで活躍する日本人モデル 渡辺由梨佳さん
パリで活躍する日本人モデル 渡辺由梨佳さん
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由梨佳さんは「モデルを目指すときに、そこに行かないとモデルになれないというシステムを壊したかった。何でモデルだけが都市部に行ったり、人が集まるところに行かないと職を得られないのかということにすごく憤りを感じていて、47都道府県、各地を回って各地の地元のモデルたちが立てるステージを作ろうという想いが、ツアーをやろうと決めた理由」と力強く語った。

「目指すのは、世界レベルのステージ」

本番の1か月前に行われた、オーディションとレッスン。広島在住のモデルたちが集まる。中にはこんな参加者も。

広島県内在住 ショー初参加の大田龍さん
広島県内在住 ショー初参加の大田龍さん

ーーモデルをやっているんですか?
初めてです。オーディションに出るのも初めてです。

初めてモデルを経験し、初めてオーディションに参加するという大田さん。彼にとって大きな挑戦であるが、生き生きとした表情で答えた。

今すぐはかなわなくても、目指すのは、“世界レベル”のステージ。それゆえ、厳しい言葉が飛び出す。

渡辺さんにウォーキングを指導してもらうモデル
渡辺さんにウォーキングを指導してもらうモデル

渡辺由梨佳さんはモデルのウォーキングを見て「ウォーキングをする上で絶対しちゃいけないことを全部しちゃったんです」と厳しく指摘。

モデルに指導する渡辺由梨佳さん
モデルに指導する渡辺由梨佳さん

また、別のモデルの歩きを見て「自分が広島の舞台に立って、その先どんな未来が待っているのかを今、頭に思い描けていると思う。その先まで自分もそうだし、デザイナーさんも連れて行ってあげるの。周りの人もあなたの姿を見て、その未来に連れて行ってあげられるの」と熱く語りかけた。

「地方だからこそ」働きながら夢を追う人

廿日市市に住む藤崎真夕さん。

藤崎真夕さん
藤崎真夕さん

地元の大学を卒業して、働きながらモデルの仕事をしている。

藤崎さんもまた、由梨佳さんにウォーキングの指導を受ける。

藤崎さんのウォーキングに対して、由梨佳さんは「ウォーキングの時にやったじゃないですか、その動きいらないというのを全部やっている。それをもう一回抜いてみて」と指摘。
藤崎さんの“ランウェイを歩きたい思い”が空回りしてしまったのか…。それでも必死に、レッスンに取り組んでいた。

藤崎さんは普段、小学校の放課後支援員として勤務している。

子どもたちと触れ合う藤崎真夕さん
子どもたちと触れ合う藤崎真夕さん

藤崎真夕さん:
週に6日ここにいます。月曜日から土曜日まで、もともと中学校くらいの頃から保育士を目指したくて。子供が好きでその道を選んで大学もそういう所に行ったのですが…。

そんな藤崎さんがモデルを目指したのは、大学3年生のときに出場したミスコンテストがきっかけだった。大学卒業と同時に、モデルの勉強のために都市部に行く選択肢もあったが、藤崎さんは故郷に留まった。

インタビューを受ける藤崎真夕さん
インタビューを受ける藤崎真夕さん

藤崎さんはその理由について「一番は広島が好きだったということに尽きるんですが、先生という職業は全然人が足りていない状態。だったら、そういう働き方をしながら夢を追いかけられる環境を地方だから作りたかった」と話した。

全国には、「自分と同じ思いを持ったモデルたちがたくさんいる」と、藤崎さんは感じている。

ーー地方に同じ思いを持っている人はいる?
いると思います。むしろ地方でモデルをしている人たちの方が、思いが強いのではないかと思っています。そういう人たちがいることを分かってくれて、ショーを持ってこようとしてくれる由梨佳さんのような存在は、地方で頑張るモデルとしてはめちゃくちゃありがたいと思います。

地方を愛しながらも、モデルという夢は諦めない。藤崎さんの話は、そんな強い思いを持っている人が各地に多くいるのだと感じさせてくれるものだった。

いよいよ本番当日!“世界レベル”のショーに

本番当日を迎えた会場。控室では準備に追われていた。

ショーの準備を進める渡辺由梨佳さん
ショーの準備を進める渡辺由梨佳さん

ショーに着る服も、当日決められる。デザイナーが作った服がショーの主役。
どんなウォーキングで引き立てていくのか?考えるのは、この瞬間からだ。

広島のオーディションに見事合格した、モデル未経験の大田さん。この日がデビュー戦となる。

インタビューに答える大田龍さん
インタビューに答える大田龍さん

ーーどうですか?
むちゃくちゃ緊張しています…。

ランウェイの道順や動きも当日に決まる。由梨佳さんが実際に歩いて、モデルたちに道順を教える。

モデルたちにウォーキングの道順を教える渡辺由梨佳さん
モデルたちにウォーキングの道順を教える渡辺由梨佳さん

渡辺由梨佳さん:
ここに入る。トップに向かっていく。振り返る。入る。振り返る。このまま帰っていく。

かなり複雑な動きにも見えるが…。モデルたちは大丈夫だろうか。

「道順を覚えた」という大田龍さん
「道順を覚えた」という大田龍さん

ーー覚えた?
大田龍さん:覚えました何とか。ちょっと怪しいけど。

少し不安そう…?

道順を覚えたと元気に答える藤崎真夕さん
道順を覚えたと元気に答える藤崎真夕さん

藤崎真夕さん:覚えました。きっと!

藤崎さんは自信満々に答えた。

本番まで1時間となった。リハーサルが始まる。

ショーに携わるのは、モデルだけではない。音響を演出するのは、広島在住の音楽プロデューサー、野村彰浩さん。

本番に使用する音響機器を調整する野村彰浩さん
本番に使用する音響機器を調整する野村彰浩さん

野村さんは「頑張っています。これ大変なので、生だから合わせやすいこともありますが、本番が長くなったり短くなったり」と、ファッションショーならではの苦労とやりがいを話してくれた。

バックヤードで待機するモデルたち
バックヤードで待機するモデルたち

いよいよショーが始まる。バックヤードのモデルたちからは緊張が伝わる。
彼らの歩くランウェイは、それぞれの未来に続く大切な道だ。会場が熱気にあふれた場所に変わっていく。

華やかな舞台の裏で、地元のモデルたちが立てるステージを作るための由梨香さんの戦いが始まっていた。

メイクをする渡辺由梨佳さん
メイクをする渡辺由梨佳さん

由梨佳さんは「モデルとしてステージに立つ価値がある人間だということを自分自身が自覚して、約束していくというメンタルが最も大事。価値を与えていくということが出来る人でないとステージに立っていくのに耐えられない」という。

ショーがスタート!初舞台の大田さんとともに歩く由梨佳さん
ショーがスタート!初舞台の大田さんとともに歩く由梨佳さん

このショーが、初舞台となる大田さん。ペアになるのは、由梨佳さんだ。

そして、藤崎さんの出番がきた。バックヤードから、ランウェイに…。

堂々とパフォーマンスをする藤崎真夕さん
堂々とパフォーマンスをする藤崎真夕さん

藤崎さんはこの時の思いについて「夢をチャレンジする人たちが増えれば、そこで成功する人が増える。そしたら広島が盛り上がる。私は広島が大好き。うれしい。そこの一番最初の“私は広島が好きだから”ここでやっていきたいという、そこに繋がるんじゃないかなと思う」と話した。

そして、ショーはエンディングを迎えた。

ショーを観覧した客
ショーを観覧した客

ショーを観覧したお客さんの一人は「すごく素敵だったので、もっと見られる機会が増えたらとすごく思いました」と、感動した様子だった。

ショー終了後にインタビューに答える大田龍さん
ショー終了後にインタビューに答える大田龍さん

ショー初参加の大田龍さんは「めっちゃ楽しかったです。あっという間でした」と、最後はリラックスして楽しむことができた様子だ。

ショー終了後にインタビューに答える藤崎真夕さん
ショー終了後にインタビューに答える藤崎真夕さん

藤崎さんはある思いが芽生えたようだ。

藤崎真夕さん:
やっぱりちょっとパリに行ってみたいという気になります。(Q. その時はどこを拠点に?)もちろん広島です。私は広島好きなので!

ファッションショーという文化を広島に

広島ではあまり馴染みのない“ファッションショー”。ショーを終え、由梨佳さんはどのように感じたのだろうか。

ショーの終了後インタビューに答える渡辺由梨佳さん
ショーの終了後インタビューに答える渡辺由梨佳さん

渡辺由梨佳さん:
ファッションショーという文化を広島に根付かせていきたいと思います。また来年も再来年も100年と続くファッションショーにしていきます!

モデルたちが歩いたランウェイ。その先は、彼女たちの未来に続いている。本当に広島からパリへ飛び出していく人が出てくるのかもしれない。

(テレビ新広島)