困難から立ち上がろうとこの新年を迎えた人がいる。
2024年、北海道旭川市で人気のレストランが火事で全焼。

店の再開を目指し、レストランの代表が、仲間たちと最初の一歩を踏み出した。
旭川市の「エスペリオ」。イタリアンのレストランだ。

北海道産にこだわったハンバーグに…石窯で一枚一枚丁寧に焼いたピザが人気。ソフトクリームには根強いファンがいる。
「(Q:明けましておめでとうございます)おめでとうございます。年末年始はふるさと納税などの受注がたまっていて、それがきょう出荷になります」(エスペリオ代表 矢野竜二郎さん)

エスペリオの代表・矢野竜二郎さん49歳。
「いいことと悪いことが色々あった年でした。9月、事故が大きな去年の出来事だったと思います」(矢野さん)

2024年9月。営業前の午前6時ごろだった。エスペリオから火が出ていると近くの住民から通報。火は1時間半後に消し止められたが、店の内部が全焼した。火元は厨房付近で、ガス漏れがあったとみられている。
「近所の方もスタッフも含めて誰一人ケガ人が出なかったことが唯一の救い。それがあるからこそ再起に向かえる」(エスペリオ代表 矢野竜二郎さん)
ガス漏れの場所は特定できていないが、商品を並べている冷蔵ショーケースのヒューズに引火したとみられている。

「1番です。ソフトクリームがエスペリオ。色々な所でおいしいって食べるけど、エスペリオが1番かなって」
「非常にきれいで混んでました。いい店でした」(いずれも近くの住民)
店の入り口に取り付けられたエスペリオのロゴ看板は焼けることなく残っていた。
「石窯と看板が残っている。この2つを"復活の象徴"にできるようやっていけたらいい」(矢野さん)
「復活の象徴」。矢野さんは店を再開するための最初の一歩を踏み出す。
2024年、全焼したレストラン「エスペリオ」。火事から約2週間、矢野さんは私たちを店の中に入れてくれた。

「復活の象徴」は真っ黒になっていた。
「ピザ焼いてた石窯。煙突とか汚れはすごいですけど、煙突の業者にも来ていただいて『まだ使えるよ』っていうことで何とか磨いて、きれいにして、もう一回頑張ろうと言ってくれた」(矢野さん)

ソフトクリームを作る機械や名物のハンバーグを焼いたフライパンはもうその役目を負うことはない。エスペリオの紹介文は焼け焦げていた。
「思い出はよみがってきます」(矢野さん)
お店に様子を見に来る人はあとを絶たない。

「孫にライン、メールを送ったらガッカリしていた」
「開店しないまま店を閉じることが1番心配」(いずれも様子を見に来た人)

火事から約1か月、建物の解体が始まった。解体作業で傷つかないようにと石窯は作業員が守る。
「『今までありがとう』という感謝と、『これからまた頑張らないとな』という気持ちが強いです」(矢野さん)

そして、店名のロゴ看板も。
「いいですね。これだけ残ってるというのはメッセージを感じます。『もう1回、もう1回、頑張れよ』って言ってるような感じがします」
矢野さんは復活のためにはかつての仲間が必要だと考えていた。
「ずっと(私の)右腕。コロナがあってから退職して違う会社に働きに出てるんで」(矢野さん)
「壁はきのう拭いてくれた?」
「手の届く限りは。ここまでってことそうですね、あとこの裏と。だいぶきれいにはなるね」
レストラン裏の加工場は煙を浴びたものの火が燃え移ることはなかった。

「(Q:1回、2回じゃ落ちない?)全然落ちない。3、4回でとれるかなって。これでもう1回か2回くらいは拭いて」(従業員)
2024年11月。
「懐かしい感じしますよね」(矢野さん)

加工場でこの日再開した看板メニューのハンバーグ作り。道産牛肉100%で食品添加物を使わない、素朴な味が人気だ。
今は冷凍したハンバーグをほかの店で販売してもらうことしかできない。
「(Q:2か月ぶりの感触ですか)そうですね、でも当たり前にやってたので、やり始めたら淡々と」
「(Q:手が勝手に動く感じ?)ですね、しみついてます」(従業員)
「本当に良かったです。第一歩ですけど、少しずつ再開できてうれしい」(矢野さん)

さっそく商品を並べた地元のスーパー。ポップには、「おまちどうさま」とエスペリオのハンバーグが入荷されたことを知らせている。
「ちょうど(火事の)その日がエスペリオの商品が入る日だった。エスペリオから電話で『しばらく納品できません』と言われて、あぜんとしました。うちで販売することで、そろそろエスペリオ始まるかなって感じてもらえればいい」(小柳ストアー 3代目 寺井一志さん)

2024年12月。矢野さんは自宅でスタッフと再出発について話し合いをしていた。
最後にやってきたのは岩田英紀さん。エスペリオの復活に必要だと矢野さんが話していたかつての仲間だ。

「20何年だっけ?」(矢野さん)
「20年です」(岩田英紀さん)
「20年前からエスペリオで働いてくれていた。私もエスペリオに来た時には彼がいた。先輩にあたる」(矢野さん)
「『2人がいてエスペリオじゃないか』と言われて(復帰を決めた)。僕が辞める頃にいたメンバーも残っている。同じ思いを持って働いていると思うので、力を合わせて何とかそういう店ができるんじゃないか」(岩田さん)
「ここは何にするんですか?」(岩田さん)
「ここは考える、これから」(矢野さん)
「勝手にイベントコーナーかと思っていました」(岩田さん)

防災設備の話になると空気が一変した。
「ガス漏れの遮断器は付けるけどね、ガス漏れを検知したら自動的に弁が止まるのを付けようと思っている」(矢野さん)
「悲しくなる」(従業員)
「こんな悲しい思いはしないで済むようにしないと」(矢野さん)

地元で愛された料理を再びこの場所で。矢野さんの2025年の夢はエスペリオをこの夏にも復活させることだ。
「お店を続けていくってことが、皆さんへの恩返しになっていくかなと感じている。以前と同じように美味しい料理を作って皆さんに居心地の良い空間を提供していきたい」(矢野さん)