「いたぞ!」2024年5月下旬、雪解けの水を含んで流れの激しい北海道奈井江町内の石狩川で発見されたのは17歳の女子高校生の遺体。北海道警が捜査員計約200人を投入し1か月以上の捜索を経てようやく発見した。ある捜査関係者は「容疑者の目星はついていたからあとは遺体が見つかるかどうかだった。ギリギリだった」と振り返る。
約60キロ離れた橋の上から女子高校生を極限まで追いつめて川へ突き落とし殺害したのは女とその舎弟。捜査が進むに連れて人の命を軽んじる残虐な行動が続々と明らかになっていった。
■引き金は“ラーメンの画像”「どう落とし前つけんの。誰にけんかうってんの」

事件の引き金とされる出来事は女子高校生が発見される1か月以上前にさかのぼる。女子高校生が、後に殺人罪などで逮捕・起訴される旭川市の無職・内田梨瑚被告(当時21)がラーメンを食べる様子の画像をSNSに無断で使用した。
事態を知り、腹を立てた事件の主導的立場だったとされる内田被告。『舎弟』の1人である小西優花被告(当時19)らと共謀し面識のない女子高校生に対して2024年4月18日夜、電話で脅した。
「どう落とし前つけんの。誰にけんかうってんの」(内田梨瑚被告ら)
慰謝料としての名目か、女子高校生は電子マネー10万円分を内田被告へ送ろうとするもうまくいかず、同日午後11時30分ごろ、女子高校生の住む留萌市の「道の駅るもい」まで呼び出された。内田被告らは初めて女子高校生と対面。謝罪を受けるも軽乗用車に無理やり乗せて監禁した。その後4時間近く女子高校生を自己の支配下に置いた内田被告は警察の調べに当時を振り返りこう語った。
「謝罪された時の言葉遣いが気に入らなかった。失礼な態度を取られた」(内田被告)
■悲痛の『SOS』も…阻んだ内田被告ら「取り合わなくていい」
内田被告はほかの『舎弟』たちも車に乗せて地元旭川市へと向かう。その道中で一行が市内のコンビニエンスストアに立ち寄った際、女子高校生が動く。勇気を出して内田被告らから逃げ出し大声で周囲へ助けを求め脱出を図った。しかし、無情にもそのSOSのサインを阻んだのは内田被告らだった。
「この子はおかしくなっているので取り合わなくていい」(内田被告ら)
コンビニ店員にこのように取り繕うと、その後、表情は豹変。店舗の外で女子高校生に馬乗りになって顔を殴打。再び車に押し込み『最後の現場』へと走り出した。こうして女子高校生の叫びは内田被告らにさえぎられ、誰にも届くことなく最悪の結果へと進むことになる。
■目の前には激流…橋の欄干に座らせ「落ちろ」「死ねや」

午前3時30分、旭川市の景勝地「神居古潭」に着いた軽乗用車。街灯も少なく周囲が真っ暗な中に止められた車内は、内田被告と一番の『舎弟』小西被告、さらに心身ともに傷を負って恐怖に震える女子高校生の3人だけになっていた。
「橋の周りに防犯カメラがなく、人目につかない場所だと知っていて連れて行った」(内田被告)
このように現場を選んだ理由を語った内田被告。小西被告と共に女子高校生を外へと引きずり出して向かったのは高さ約10mの吊り橋「神居大橋」。目下には水深12メートル以上で水温10度を下回る石狩川が流れる。
2人はその場で女子高校生に対して服を脱ぐよう指示。全裸にした上で土下座と謝罪をさせ、女子高校生を蹴るなど暴行した。
さらに足がすくむような高さにある橋の欄干に座らせ、再び謝罪させたが、内田被告は冷酷な犯行の様子を女子高校生から奪い取ったスマートフォンを使って動画撮影までしていた。小西被告が女子高校生の脚を押して川に落とそうとするような場面もあったという。落ちないように女子高校生が小西被告の腕にしがみつく様子も残されていた。
「落ちろ」「死ねや」(内田被告ら)
橋の欄干に座らせた女子高校生に浴びせた2人の罵声の連続。一晩で内田被告らに極限まで追い詰められた女子高校生はその後、深い闇の中で激流へと転落し命を落とした。
■女子高校生は約60キロ先で発見…2人逮捕も容疑「否認」

『舎弟』と共に現場から立ち去った内田被告は事件後、周囲にこのようにメッセージを送っていたという。
「高校生に謝らせた」「高校生は帰っていった」
事件を隠ぺいしようとしたのか。しかし、逮捕後の警察の調べに内田被告が語ったのは「橋から落ちたかどうかは知らない。置いてきただけだ」と容疑を否認する内容だった。また小西被告も「川に突き落としていない」などと話したという。

その後、帰宅しないことを不審に思った女子高校生の親族が行方不明者届を提出し北海道警が捜索を開始。防犯カメラの映像などから内田被告・小西被告、さらには残る『舎弟』の当時16歳の男女2人を浮上させ、4~5月にかけて監禁などの容疑で逮捕した。
川での捜索が本格化し事件から約1か月半後、北海道警は現場から約60キロ離れた奈井江町内の石狩川で変わり果てた姿の女子高校生を発見。内田被告・小西被告を殺人容疑で再逮捕した。
■『殺人』『不同意わいせつ致死』罪で起訴 道内初の実名公表も…今後は
逮捕後、北海道警の捜査の中で事件の一部始終が明るみとなり、旭川地検は2024年7月3日に内田被告を「殺人」「不同意わいせつ致死」などの罪で起訴した。さらに小西被告についても内田被告と共謀し殺害に関わっていたとして8月に同罪で起訴。事件当時19歳で仮名で発表されていた小西被告は改正少年法で「特定少年」と位置付けられ、北海道で初めて起訴時に検察側が本名を公表した。
小西被告の裁判員裁判は2025年2月27日に初公判が開かれ、3月7日に判決が言い渡される見通しとなった。
こうしたなか、12月17日に小西被告の弁護側が取材に応じ、被告が起訴内容を認めていることを明かした。さらに、小西被告が語る、これまでの内田被告らの供述などとは全く異なる、女子高校生の最後の瞬間を明らかにした。

(以下、小西被告の弁護側の説明)
事件当日4月19日、現場の橋にいたのは内田被告と女子高校生の3人だけだった。
コンビニから神居古潭の橋に移動後、内田被告と一緒に女子高校生を暴行。内田被告が女子高校生に「服を脱げ」と命令。橋の欄干に座らせ、動画で謝っている様子を撮影している際、小西被告が軽く膝を押し上げたところ、「嫌だ」と言ってしがみつくように床に戻った。
その後もう一度内田被告に命じられる形で女子高校生が橋の欄干へ座ることに。当初は内側を向いていたが、内田被告の命令で外側の川に顔を向けて腰かけた。
そして、小西被告が女子高校生の二の腕と背中のあたりを、内田被告が背中を両手で押した結果、女子高校生が転落。女子高校生が橋をつっているロープにぶら下がるような形でつかまったため、小西被告がとっさに引っ張ろうと手を伸ばしたが届かず、川へ落ちていった。落下する音を聞いた。
2つ年上の内田被告は、上下関係でいえば上。従属的な立場だった。このことは口止めされていた。
小西被告は裁判で事実関係を大きく争うことはしないという。
さらに弁護士にあてた手紙で小西被告は、「本当に取り返しのつかないことをしてしまって、被害者のご家族の気持ちを考えると涙が止まらない。当時に戻れるなら私の命に代えてでも被害者の子を助けてあげたい。この先一生、責任と重い罪を背負っていきたい」などとつづっていることを明かした。
■初公判で『舎弟』小西被告は何を語るのか
逮捕後、内田被告は「橋から落ちたかどうかは知らない。置いてきただけだ」と容疑を否認していた。さらに小西被告も「川に突き落としていない」などと話し女子高校生の落下への直接的な関与を否定していた。
その小西被告にいったどのような心境の変化があったのだろうか。
SNSでのトラブルを発端に内田被告と『舎弟』らが結託し若い命を奪った凶行に司法はどう判断を下すのか。2025年2月27日の初公判で小西被告の発言に注目したい。