愛媛・松山市を中心に展開するフィットネスジムが、店舗数、会員数ともに着々と伸ばしている。その人気の裏側には、トレーニングだけではない多様なサービスがあった。フィットネスジムなのにビールが安く飲める?温泉にも入り放題?月額約5500円からの「多様なサービスで利用客をつかむ」事業拡大の裏側に迫る。
24時間営業のジムから始まった サービス拡充への道
24時間営業のフィットネスジム「P・SPO24」を運営するのは松山市に本社を置く三福グループだ。不動産を中心に飲食や観光など様々な事業を手掛けている同グループが、2016年にフィットネス事業に参入した。

その理由を、P・SPOカンパニーの村上晃平社長は「地元を盛り上げたい、元気にしたいという思いが一番の大きな理由なんですけど、健康増進というところを最大の目的としてフィットネスジムを立ち上げた」と語る。

店舗数は年々増加。他社の参入も進み競争が激化する中、2023年は1カ月に1店舗以上のペースで出店するなどその数を伸ばし、現在は愛媛県内に45店舗を展開している。この急成長の裏には、フィットネスジムの枠を超えた工夫があった。

2024年8月に松山市北条辻にオープンしたこちらの施設は、1階のジムのスペース出て2階に上がると広々とした子供がのびのびと遊べるスペースがある。そして、さらに奥に行くとおしゃれなカフェスペースも広がっている。

ジムを軸に店舗で様々なサービスが受けられる「P・SPO24」ではドリンクが飲み放題のカフェスペース、静かな空間で勉強や仕事に集中できる自習室、さらには、サウナまで完備されている。休憩する外気浴エリアもあって、かなり本格的な造りだ。

利用者の声を聞いてみると、女性は「24時間いつでも来られるし。岩盤浴が女性は使えるんですよ。それがいいかなと思って。友達と毎回会うわけじゃないけど、会った時は一緒に2階でランチしたりするので楽しみです」と語り、子どもがいる男性は「子供とかを連れてこられるのもいいなと。子供が行きたいって言ったら行かないといけなくなっちゃうんで、そしたら行こうかっていう感じになりますね」と子ども連れでもジムにいける魅力を語った。
退会率60%の壁を突破せよ!多様なサービスで会員をつなぎとめる
サービスを広げる裏には、フィットネスジムを運営する上でのある「課題」があったという。

村上社長は「24時間フィットネスは平均的なデータで言うと毎月5%以上がやめていくようなデータが出ているんです。入っても続かない。もうこれがフィットネス業界の課題なんです」と説明した。
毎月5%以上、年間にして60%の人が辞めるという厳しい現実。それに加え、日本は海外と比べフィットネスへの参加率が低いという課題もあった。

会員数を増やし、且つ利用を継続してもらおうと取り組んだのが「サービスの拡充」だった。コワーキングスペース、コインランドリーにセルフエステ、さらにはカラオケボックスも。
無料または格安で利用できる会員専用サービスを広げていった結果、事業開始当初350人だった会員数は順調に増加し、2024年に入って1万6000人を突破した。課題となっていた「退会率」も下がり、現在は若い世代や女性の会員が増えているという。
温泉無料、ビール200円 常識破りのサービスで地域に貢献
ユニークなサービスは他にもある。

砥部町が運営していたある温泉施設は赤字経営や燃料費の高騰などを理由に2024年3月に閉館したものの、4月からは三福グループが運営を引き継いだ。その結果、会員(※スパプラン)は「無料」で「何度でも」入浴することができるようになった。
ある男性利用者は「家が近くなんで毎日こさせてもらっています。温泉も入れてすごく気分も良くなりますし、ここから仕事だったり筋トレだったり頑張ろうという気になりますね」と喜びを隠せない様子だ。
さらに驚きのサービスがある。

松山市大街道に2023年10月にオープンした、その名も「P・SPO酒場」。驚くべきは、その価格だ。生ビールは一杯なんと200円!(※17時以降は250円)店内に常時10種類ほど並ぶオードブルは650円で皿に盛り放題と「ほぼ原価」で提供されている。

この日来店したある男性は、たくさん盛ってお皿からこぼれそうなほどだ。「ちょっと欲張りすぎました」と笑いながら、「お友達と飲む前の1軒目で軽く飲んだりとか含めると2週に1回くらいは今のところ来ています」と語る。
フィットネスとは対極にあるようにも思える酒場だが、ここにも退会させないための「狙い」があった。

村上社長は「会員という1つの共通点プラス、アルコールが入ると仲良くなるんじゃないかと。そこのコミュニティーのところをもっともっと構築したいという思いで。仲間が増えると行く回数、利用する回数が増えますよね。利用回数が増えればそこも継続するっていうところがあって」と説明する。
1人で来た利用客同士が交流を深めたり、「酒場」が入会のきっかけになったりしているようだ。ある男性会員は「(ジムに)入ってみたいなっていうのがあったんですけど安く飲めるのがちらつきながら入りました。懐事情に大変ありがたいので会員になって良かったなと思っています」と語る。

フィットネスジムを含むサービスの会費は月額で通常プラン5478円のほか、温泉やサウナに入れるプランが6578円。
この価格でサービスを提供できる理由について、村上社長は「不動産の情報とかが早く、かつ交渉もしやすいというところがありますし。あとは内装自体もグループの各社でお願いしているような状況なんです。内装のコストとかもなんとか抑えながら、工夫しながら展開してる」と説明する。
今後もさまざまな工夫を凝らしながら地域に密着したビジネス展開を目指す「P・SPO24」。

今後の展望について「100店舗の会員数5万人っていうのを1つ目指してます。やはり小さなお子様からご高齢の方まで気軽に通えて楽しい店舗を作っていきたい」と語った。
フィットネスの概念を覆す多様なサービス、地域密着型の経営戦略、そして驚きの低価格。「P・SPO24」の挑戦は、単なるフィットネスジムの枠を超え、地域の健康と活力を支える新たなコミュニティの創造へと向かっている。
今後、彼らの戦略がどのような形で実を結び、愛媛の街にどんな変化をもたらすのか。その行方から目が離せない。
(テレビ愛媛)