壮大な渓谷が美しい宮崎県・高千穂峡の人気アトラクション、トロッコ列車。高さ105mの日本一高い鉄橋を走り、年間11万人もの観光客を乗せる。その燃料に使用されているのは、なんと福岡名物の豚骨スープから作られた世界初のバイオ燃料なのだ。なぜ豚骨スープなのか?次世代のためにCO2削減を願う開発者を取材した。

飲み残し豚骨スープでバイオ燃料

福岡市の人気ラーメン店「博多一幸舎」。きめ細やかに泡立つスープが特徴の「泡系ラーメン」発祥の店として知られる。

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トロッコ列車の燃料となるのは、客が飲み残した豚骨スープ。厨房に設置された専用の機械に流し込むだけで油と水分が分離される。その後、回収された豚の油が、環境に優しい「バイオディーゼル燃料」に生まれ変わるのだ。

世界も注目するその技術を編み出したのは、福岡・新宮町に本社を置く運送会社「西田商運」会長の西田眞壽美さん。170台のトラックを保有し、全国に食品や日用品を届ける仕事を請け負っているが、周りからは‶福岡のエジソン”と呼ばれているという。本職の傍らCO2削減に繋がるバイオ燃料の開発に取り組んでいるのだ。

「トラックを走らせて排気ガスをまき散らかしてきたけん、自分で償いをしないといけないというのが最初の発想やった」とバイオ燃料開発の動機を語る。

中学卒業後、16歳から運送業界一筋の西田さんに化学の専門知識は一切なかったが、これまで独学で開発を進めてきたというから驚きだ。

「夢のお告げ」でバイオ燃料開発

「独学というよりも夢を見て作った。バイオ燃料を作っている夢」と笑う西田さん。実は、自分がバイオ燃料を開発する不思議な夢を見て製造のヒントを得たと言うのだ。しかも驚くべきことに、その夢には作り方も出てきたという。「神様のお告げ的な夢」だったと西田さんは笑うが、その夢のことは今でもをはっきり覚えていると話す。

燃料開発の知識も経験もない運送会社の挑戦に、はじめは『なんでバカなことをするの?』と周囲からバカにされていたという。そこでついたあだ名は「油バカ」。それでも西田さんに迷いはなかった。「ぶれるわけないやん。環境を孫やひ孫の時代まで自分たちでやれることは、やらないといけない」と決意は固かった。

‶豚骨”は安定的な原料確保のため

一般的に植物由来の油から作られることが多いバイオ燃料だが、西田さんは、原料の安定的な確保などを考え、福岡を代表する食文化、豚骨ラーメンのスープに着目した。

「ラーメンのスープのラードです。これを溶かして苛性カリ(水酸化カリウム)とメタノールを入れれば、バイオ燃料になる」と西田さんは実際の製造工程を説明した。世界で初めて豚骨スープから作られたバイオ燃料が誕生したのだ。

豚骨と聞いて、まず気になるのは独特の臭いだが、‶豚骨バイオ燃料”を入れたトラックの排気ガスの臭いを嗅いでみても、いわゆる豚骨臭は一切しなかった。「粒子が綺麗な踊りをする。あれ見たら楽しい。ああ、きょうは喜んどるな、とかね」と西田さんは表情を崩す。

‶原料”提供店にも経費削減メリット

現在はラーメン店のほか、居酒屋などの飲食店約2800店舗から豚骨スープの油や天ぷら油を回収しているという西田さん。油の再利用は環境だけでなく、協力する飲食店側にもメリットがある。「博多一幸舎」の土田翔太副店長は「一番はコストの削減」だと話す。

飲食店では通常、油を処分する際、産業廃棄物として業者に費用を支払っているが、西田商運は無料で回収しているからだ。土田さんは、「環境づくりに貢献できると思いますし、日本に留まらず世界にも広がっていけばいい」と期待を寄せている。

今、西田さんが建設しているのは、バイオ燃料専用工場だ。これまでにかけた設備投資の費用は4億円。「コストがかかっても、とにかく環境を次世代にっていう夢を持ってやってきたから」と話し、今後、他社から‶豚骨バイオ燃料”のノウハウを聞かれても「特許の考えはなく、教える」と西田さんは断言した。「バイオ燃料で誰でもみんながCO2削減に取り組んで欲しい」というのだ。

「夢のお告げ」で開発した‶豚骨バイオ燃料”。西田さんの環境を守るという強い願いはお告げのような夢を見た日から全くぶれていない。

(テレビ西日本)

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