雑穀をただ畑で育てるだけではなく、山の再生をしていく。焼く面積が小規模で、ヒエやアワといった雑穀を育てる宮崎県椎葉村の「焼き畑」は、気候変動など、世界の食糧問題の解決に向けたヒントになると考えられている。

「このヤボに火を入れ申す。ヘビ、ワクドウ(カエル)、虫ケラども、早々に立ち退きたまえ。山の神様、火の神様、どうぞ火の余らぬよう、また焼き残りのないよう、お守りやってたもうれ申せ」
神様への唱え言から始まる椎葉村の焼き畑。標高約900メートルの尾向地区で、焼畑蕎麦苦楽部のメンバーが毎年8月に行っている。山の斜面への火入れが一斉に始まり、炎に近づくと顔が焼けるような熱さが伝わってくる。耳を澄ますと竹が爆ぜる音、バチバチといったような音が聞こえてくる。

2024年の焼き畑には、福岡や京都、そしてカナダから51人が訪れた。この日は1週間以上、晴天が続いた絶好の焼き畑日和で、火は1時間足らずで30アールの斜面全体に燃え広がった。

佐賀県から初めて参加した人:
圧巻です。昔ながらの農法を守っているってすごく大変だと思う。それを次の世代、次の世代って続けていくことはすごく大事。それに貢献できたらいいなっていう気持ちが少し芽生えている。
唱え言
これより空き方に向かって撒く種は、根太く、葉太く、虫けらも食わぬよう…
火入れが終わった後に撒くのは、この地で代々育てられてきたソバの実。炎が土壌を殺菌し、農薬や肥料を使わずに育てることができる。焼き畑は、ソバやヒエなどの作物を4年間、輪作した後、20年以上かけて森林に戻して伐採。再び焼き畑を行う循環的な農法だ。
カナダの大学で世界の雑穀栽培について研究している小倉沙央里さん。焼く面積が小規模で、ヒエやアワといった雑穀を育てる椎葉の焼き畑は、気候変動など世界の食糧問題の解決に向けたヒントになると考えている。
ブリティッシュコロンビア大学・小倉沙央里さん:
雑穀をただ畑で育てるだけじゃなくて、雑穀を育てながら、山の再生をしていく。持続可能性とか言われている中で、椎葉の焼き畑はこれから色々な問題解決の鍵になってくると思う。

国連の食糧農業機関は、2023年を「国際雑穀年」と位置づけ、過酷な環境でも育ち、栄養価の高い雑穀の重要性を再評価した。雑穀の魅力を伝える活動は世界中で行われ、小倉さんも椎葉の焼き畑をWEBサイトで発信、カナダで写真展も開いた。
ブリティッシュコロンビア大学・小倉沙央里さん:
椎葉は世界的に見ても、ものすごく希少で貴重な取り組みであり、生き方・場所だと思う。
2025年、高千穂郷・椎葉山地域は、世界農業遺産の認定から10年を迎える。節目を前に焼畑蕎麦苦楽部では、焼き畑に関心のある人が集える交流施設の整備を進めている。
焼畑蕎麦苦楽部 代表 椎葉勝さん:
イベント広場、海山の交流の広場ですね。物々交換であったり。農業遺産と認められた以上、みんなで狼煙を上げて、山間地域をもっと元気づけられたら良いのかなと。限界集落や消滅集落という言葉を出さないように、もっと出来たら良い。
山の斜面を包む炎と先人の知恵に魅せられ、椎葉の山奥に集う人々…そして、その伝統を守る人。雑穀の価値が再評価されたことで、「焼き畑」は、日本の山を守るだけではなく、世界の手本として注目される機会を得ようとしている。
(テレビ宮崎)