プールの音楽イベントに人が密集・・・大丈夫?

中国・武漢のプール施設の音楽イベントで、人が密集する様子が報じられ話題になった。激しい音楽に合わせて踊る人達はほとんどマスクをしておらず、感染の不安など感じさせない様子だ。施設は6月にオープン、7月から毎晩、夜の音楽イベントをやっているという。人数は通常の半分までに制限するが、女性は入場料が半額とあって、多くの人が訪れているという。

夜のプールに集った人達が音楽に熱狂(ウェイボより)
夜のプールに集った人達が音楽に熱狂(ウェイボより)
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日本では、こんなに密集して大丈夫かという反応があったが、中国国営テレビの英語チャンネルCGTNは「プールを埋めつくした人たちがパフォーマンスを楽しんだ。かつて感染の中心だった武漢は正常に戻った」と報じた。外国メディアが報じたことについて中国のネットでは「外国人はこの様子を羨み嫉妬している」「国の感染対策が素晴らしいのだ」との声があがった。一方で「この人だかりはちょっと怖いな」という声もある。

中国メディアは“感染の中心だった武漢は正常に戻った”と報じる(ウェイボより)
中国メディアは“感染の中心だった武漢は正常に戻った”と報じる(ウェイボより)

中国メディアは他にもビール祭りの屋台や、水族館などがあるテーマパークなど、武漢の行楽地や観光地に多くの人が集まる様子を伝え武漢の正常化をアピールしている。

主要な観光地は年内無料に~経済回復に必死の中国政府

観光地の人出が増えたのには理由がある。武漢がある湖北省政府は8月8日から、中国国内(感染の低リスク地区)からの旅行客に省内の主要な観光地400カ所を今年いっぱい無料にすると発表した。受け入れ人数は通常の半分までとしているが、これを受け武漢の有名観光地には行列も出来た。その一つ、史跡の黄鶴楼も賑わう。

人気の史跡・黄鶴楼には他の省からの観光客も戻りつつある
人気の史跡・黄鶴楼には他の省からの観光客も戻りつつある

無料化発表前の8月初めに訪れた際は、武漢市内の人が中心だったが、すでに市外のほか浙江省や江西省など他の地域からの観光客もいた。誰もが「武漢は中国で一番安全だから」「不安はない」と話していた。7月下旬から省外からの団体ツアーも来るようになり、中国メディアは“英雄の街・武漢への旅”などと報じた。

省政府は他にも、旅行客がホテルなどで使える割引券5万枚も発行し、人を呼び戻そうと躍起だ。現地メディアは、観光地無料化の効果で市内中心部の星付きホテルの稼働率は前年80-90%まで回復したと伝える。いわば“中国版Go Toトラベルキャンペーン”がうまく回っているようだ。

全国から来る人向けの割引券5万枚を配布して観光客誘致に躍起(ウェイボより)
全国から来る人向けの割引券5万枚を配布して観光客誘致に躍起(ウェイボより)

表面的には日常を取り戻している武漢だが、、、不満も溜まり続ける

観光地無料化についてネット上では「是非行きたい」と歓迎する一方、「子供と行きたいがまだ心配」と不安の声や、「無料で誘い、目的は金を使わせることだ」との指摘もある。湖北省政府は、無料化は“新型コロナウイルス流行時の全国からの支援に対するお礼”としているが、一刻も早く他地域からの観光客を呼び戻し、経済の回復を急ぎたい狙いがあるだろう。

都市封鎖の影響で武漢の上半期のGDPはマイナス19.5%と落ち込んでいる。街を歩くと、閉まった店などがあちこちで見られた。繁華街で観光客も相手にする飲食店の店主は「観光客はまだまだ少ないし、地元の人もまだ外出したがらない」「みんな金を使わない」「政府の補償など一般の私達にはない」などと不満を口にする。

街には閉まった店や会社などがあちらこちらに
街には閉まった店や会社などがあちらこちらに

初期に感染者が多く出た海鮮市場で商売をしていた男性は、今は市内の別の市場に移転した。設備などを新たに買いそろえて商売を続けているが売り上げは回復せず「移転費用で大損したが誰も補償してくれない。政府は底辺の人間に金は出さないから期待しない」と憤った。市民の不満は確実に溜まる。

まだ観光客が戻らず売り上げは以前に比べ激減した店が多いという
まだ観光客が戻らず売り上げは以前に比べ激減した店が多いという

都市封鎖解除から4ヶ月~武漢は安心感に満ちていたが・・・

8月初めに武漢の街を歩いたが市民生活は通常に戻っている印象を受けた。スーパーは家族連れで賑わい、カフェでは若者が談笑、おばちゃんたちは中国名物・広場ダンスをマスクせず楽しんでいた。街ではマスクをして、施設に入る際は健康コードを確認するなどの対策は続くが、都市封鎖した街というイメージはなかった。

武漢は5月に市民およそ1000万人のPCR検査を行って無症状感染者300人を発見し、その後、市内での新たな感染者はいないとしている。この全員検査で市民に安心感が広がり、街ではマスクをしない人の姿も目立った。市民は「武漢は中国一安全です。全員が検査をしました」「市民はこれまで何度も検査してますから」と胸を張った。

この安心感の強さは、中国国内でも比較的安心感が強い上海の人々と変わらないか、それ以上に思えた。繁華街を行きかう人は、多少“密”でも気にしない様子だった。人気の夜市では“1.5mの感覚を開けましょう”という看板はあったが、細い道の両側に店が並ぶ場所を人が密集して歩いていた。全員検査による安心感とはこういうことかと納得するところはあった。

人気の夜市では、かなり密集した状態でも誰も気にしていなかった
人気の夜市では、かなり密集した状態でも誰も気にしていなかった
広場ダンスも復活しおばちゃん達がマスクせずに踊る
広場ダンスも復活しおばちゃん達がマスクせずに踊る

もちろん中国政府発表の感染者数など信用出来ないだろ!という見方もある。ただ、他の地域から観光客を呼ぶためにも、地元政府は徹底的な対策で安全をアピールしたいはずだ。

北京や大連、ウルムチのように再び感染者が出て拡大の兆候が見られたら、一気に対象地域を封鎖し、市民の行動を規制して感染を封じ込めようとするだろう。武漢も、もし不安があればプールで人が密集するイベントなど許可しないのでは、とも感じる。

ゲームセンターも賑わっている
ゲームセンターも賑わっている

感染対策の観点では武漢はもう他の都市と同じ扱いだ。武漢から上海に来ても、隔離もウイルス検査も求められない。毎日多くの人が仕事や観光で行き来する。

一方で、中国人には武漢は感染の街というイメージが根強いことも感じる。上海の中国人にも、今も武漢には行きたくない、武漢から来た人とは検査で陰性が確認出来なければ接触したくない、という人はいる。武漢市民にも「他地域に行き、武漢出身と言うと少し嫌がられた」と話す人もいた。

武漢は、消費が回復に向かいプールで密集しても大丈夫な街なのか、まだ感染拡大の危険が残り経済回復にも程遠い街なのか。日本などのように感染が再拡大しないのかという不安が完全に解消されないまま、表面的にはどんどん正常化に向かっている。

大賑わいのビール祭りの屋台で盛り上がる人達(ウェイボより)
大賑わいのビール祭りの屋台で盛り上がる人達(ウェイボより)

【執筆:FNN上海支局 城戸隆宏】
【表紙画像:ウェイボより】

城戸隆宏
城戸隆宏

FNN上海支局長