福岡・大野城市の南福岡自動車学校。S字カーブやクランクなど、コースや設備は通常と変わらないが、この学校が導入しているAI教習が、今、全国の注目を集めている。
この記事の画像(10枚)AI教習は、その名のとおり人工知能のAIがドライバーの目の動きや道路状況に応じての適切な判断、運転技術などを総合的に判断し問題点を指摘。ドライバーに改善してもらおうというもの。AI教習車に取り付けられた高性能センサーを活用して、周囲の道路状況と自分の車の位置や動きを把握するほか、車内に搭載されているカメラで運転時のドライバーの目の動きを追うなどして、周囲の安全を十分に確認できているかAIが細かく判断する。
全国の自動車教習所が抱える問題
全国の自動車教習所が抱える大きな問題は、指導員の高齢化や採用難による人材不足。こうした業界の問題を背景に、自動車学校と自動運転のスタートアップ企業が合弁会社「AI教習所」を2021年に設立。技術の力で、より安全な交通社会を作ることを目的に、質の高い運転教育を実現するAI教習システムを開発した。このAIを活用した運転教育サービスを導入する自動車教習所は、福岡から全国に広がり、現在、大阪や千葉、埼玉など11カ所に増えているのだ。
AI教習所で取締役を務める等々力広太さんは「運転を得点化できるので、改善できれば点数で見える。自分がどう上達したのか分かりやすい」とそのメリットを強調する。ただ、現時点では免許取得時の教習の中では利用できないので、ペーパードライバー講習や企業研修などの安全運転教育に活用しているとのことだ。
自信満々のアナ AI運転教習に挑戦
最先端のAIによる運転教習とはどういうものなのか、取材班が実際に体験してみた。ちなみに運転歴17年に及ぶ松尾アナウンサーは、ゴールド免許を保持していて運転には自信があるという。
「では、行きます」。ちょっと松尾アナも緊張気味だ。するといきなり「発進前に左後方の確認が不十分です」とAIから注意を受ける。左後方が確認不十分だというのだ。「そんなの教わったっかな…」と訝しげにハンドルを握りなおす松尾アナ。すると「ピッピッ」と鳴る注意音。どこをどう走るのか? AIの音声で指示が入る。「ピッピッ、ピッピッ」とさらに注意音が続く。
注意音を耳にし続けた記者は、「厳しいな、今のところ僕の中で運転は完璧なんですけど」と苦虫をかみ潰す。実際、リアルタイムで運転の問題点をAIが次々と指摘。どんどん減点されていた。
相次ぐ減点!まさかのマイナス185点
続いて記者が黄色信号で交差点に入ると、車は緊急停止! 「これ厳しくないですか?今のタイミングは…」と大きな溜息をつく記者。最初は自信満々だったが、相次ぐ減点と緊急停止に、松尾アナは運転歴17年の自信を打ち砕かれ、なんとかコース1周を走り終えるのが精一杯だった。
そしていよいよAIによる採点の結果発表だ。100点満点からの減点式で70点以上が合格というが…。
松尾アナの成績は…不合格!しかも、まさかの「マイナス185点」という厳しい判定だった。
減点されたポイントを確認して復習
AIがチェックする項目は60以上。実際に松尾アナの運転にどんな問題があったのか、記録された減点ポイントについて復習する。
最初の減点について「発進前の停まっているところから子どもが飛び出したりするなど死角が多いので、発進時にしっかり周囲の安全確認、左後方の確認が必要でした」と等々力さんが解説。またタブレットでは、実際に車が走ったルートを俯瞰した目線でおさらいしたり、自分の目線の動きなども映像で確認できたりするので、AIからの指摘を理解しやすいのも特徴だ。
等々力さんは、一番大きな減点、マイナス40点となった「信号が黄色の途中で赤になった場面」について、「交差点に入った瞬間に黄色になっています。あらかじめ交差点に入るときには減速する準備をしておくことが大事です」と注意を促した。
気を取り直して…再度AI教習に挑戦 判定結果は?
減点項目を頭に入れて再度挑戦。1回目に大きく減点された交差点の信号だ。進むか、止まるか、迷う記者。思い切って進んだのだが「ピッピッ」と非情な注意音。残念ながらまたも不合格。しかし1回目からは200点も改善されていた。
「繰り返し運転することで上達していく、ひとつのツールとして使えるかなと思います」と等々力さんもこれまで行ってきた教習と比べて、AI教習がドライバーの役に立つと自信を示した。
現在はまだ通常の免許取得の際にはAI教習は制度上認められていないが、将来的には可能になるよう導入に向けた議論が進められているという。
(テレビ西日本)