民主党の副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員の指名が事実上決まった。父親はジャマイカ、母親はインド出身の移民2世。「初の黒人女性副大統領候補」として注目を集めている。

お披露目となった8月12日の“副大統領候補”としての初演説の反応は上々だった。現地メディアの中には“今までで一番良かった”と解説した記者もいたほど、好調なデビュー戦となったようだ。

“副大統領候補”としての初演説 8月12日
“副大統領候補”としての初演説 8月12日
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「両親は1960年代の公民権運動で知り合った。今も続くような、社会正義を訴える運動よ。母親は、幼い私を乗せた乳母車を押してデモに連れて行ったものよ」

今も続く人種差別への抗議デモ。

アメリカメディアは、大統領候補であるバイデン前副大統領の決断の背景に、「ジョージ・フロイドさん死亡事件に端を発した一連の『Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)』デモがあったことで流れが変わった」と指摘する。

全米に拡大した人種差別への抗議デモ
全米に拡大した人種差別への抗議デモ

ハリス氏は演説の中で、全米各地に大きなうねりとなって広がった抗議活動に触れ、自身がマイノリティであるだけでなく、幼い頃から社会正義を訴える活動に接してきたことを巧みにアピールした。

フロイドさん死亡から2カ月以上が経ったが、今もほぼ毎日、ニューヨークの街のどこかで、「BLMデモ」は行われている。

あらゆるところで目にする「Black Lives Matter」の文字 デモは終わっていない
あらゆるところで目にする「Black Lives Matter」の文字 デモは終わっていない

マンハッタンの公園では以前ほどの規模ではないが40~50人が集い、右拳を上げて「無言の抗議」をしていた。警察の暴力的行為によって亡くなった(とされる)黒人の人々への追悼デモだ。

マンハッタンの公園で行われていた「無言の抗議」
マンハッタンの公園で行われていた「無言の抗議」

ハリス氏がこの国のナンバー2になれば、人種差別という深い闇に光は射すのか?「今も続くデモ」の参加者たちは、ハリス氏にどんな期待を寄せているのだろうか。

BLMデモ参加女性の支持は?

デモの中心にいた50歳代のサンドレアさん。

サンドレアさん:
「副大統領候補って聞いたときは、家でジャンプしたわよ!最初の黒人女性でしょ。私は、カマラが大統領に立候補したときから、一番推していた候補だったの。とってもワクワクしているわ」

「ワクワクしているわ」と語るサンドレアさん
「ワクワクしているわ」と語るサンドレアさん

ーーなぜ、「一押し候補」だったんですか?

サンドレアさん:
「黒人候補、女性候補ってことも、もちろんある。黒人コミュニティが変わるかどうかは、カマラだけでなくみんなが責任を負っているけど、彼女もやってくれると希望をもっているわ。それに、カマラの夫は白人。人種を越えた結婚をしているでしょ。そういうのもクールだよね」

やはり黒人女性の支持は得ていた。さらに、サンドレアさんが「人種を越えた結婚」というライフスタイルに共感している、と話したのは新鮮だった。

12日の演説でも夫とツーショットを披露し、「子供にママラ(カマラとママを合わせた意味)と呼ばれている。これは副大統領の肩書きより、意味のある肩書きよ」と、家庭を大切にする姿もアピールしていたが、ハリス氏のライフスタイルに共感する女性は多いのかもしれない。

夫ダグラス・エムホフさんと共に
夫ダグラス・エムホフさんと共に

辛らつ意見「黒人に対したくさん間違いを犯した」

しかし、絶賛の声ばかりではなかった。デモに参加していた29歳のエリザベスさんは、ハリス氏の母親と同じインド系。歓迎するかとおもいきや、予想に反して辛らつだった。

エリザベスさん:
「ハリス氏は、検事や司法長官時代に何度も過ちを犯している。黒人や黒人コミュニティを不正に投獄していたと思う」

ハリス氏に対し批判の言葉を口にしたエリザベスさん
ハリス氏に対し批判の言葉を口にしたエリザベスさん

たしかにハリス氏が党の大統領候補指名争いに出馬していた間、こういった批判はあった。黒人死刑囚について、追加のDNA鑑定を行わなかったとか、市民を死亡させた警察官を起訴することが少なかった、などが報じられている。エリザベスさんのように、「黒人の味方なのか」と批判的に見る人が一定程度いるのも事実だ。

(この点において、前述の「ハリス氏一推し」のサンドレアさんは、「誰にでも過去はある。彼女は法律家だから自分の仕事をした」と擁護した)

エリザベスさんは、そうした冷ややかな視線を持ちながら、こう続ける。

エリザベスさん:
「黒人女性の候補なら、ほかにも適任者がいたと思う。私にとっては最高の候補ではないけど、今は、トランプじゃなければ誰でもいいわ(笑)今は歴史の転換点にいるから、ハリスも、何か変えてくれるといいなと希望しているわ」

「差別は現実。私たちの代表者は必要」

さらに、さほどハリス氏のことを知らない、という女性も多かった印象だ。

抗議活動の看板を作成した、アーティストのブリオナさん(25歳)に聞いた。

ブリオナさん:
「実は彼女のこと、よく知らないの・・・でも、黒人の女性が候補になったということは素晴らしいことよね」

ーーハリス氏が副大統領になったら、人種差別や黒人をめぐる状況は変わると思いますか?

ブリオナさん:
「変わらないね。副大統領一人では変わらない。政治だけではダメだし、地域、コミュニティが変わらないと何も変わらない。だって、オバマ前大統領でさえ、黒人社会は変えられなかったんだから!肌の色で変化が起きるとは思わない。」

それでも、黒人女性であるハリス氏を支持していきたいと話す。

ブリオナさん:
「彼女の信条がどうあれ、私たちを代表してくれる人は必要。ハリス氏が成し遂げようとしていることをみると、私たち黒人女性も、何かを成し遂げられるって気がするから」

インタビュー終盤、ブリオナさんが、ぽろっと言った言葉が胸に突き刺さる。

ブリオナさん:
「人種差別は現実よ。毎日起きているのを目撃している。だから、黒人の歴史をもっと教育していかないといけないよね」

「人種差別は現実」と語るブリオナさん
「人種差別は現実」と語るブリオナさん

初の黒人女性副大統領候補、ハリス氏。黒人であることが強みにもなれば、黒人であるがゆえに過去の対応について批判を受けもする。鮮烈な印象を残した、「お披露目演説」。残り80日あまりの選挙戦で、切れ味鋭い舌鋒を誇る「ファイター」がどのような戦い方をするか、注目したい。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。