井戸水をろ過した“しょっぱい水”しかなかった離島が、本土から水を送る海底送水管の設置で海洋リゾートに変身した。約半世紀が経ち、”2代目”の送水管の設置工事が2024年6月から行われている。延長6707m、最も深いところは103mの大事業を取材した。

新送水管に離島の小学生も期待

観光客は熱海港などから定期船で初島へ
観光客は熱海港などから定期船で初島へ
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初島は熱海市の中心部から南東に約10km、定期船に乗れば30分ほどで到着する静岡県で唯一の有人離島だ。

東京から熱海まで新幹線を利用すれば1時間半ほどで島に渡ることができ、首都圏からも近い。周囲4kmほどの小さな島だが大型リゾートホテルがあり、釣りやダイビングなどマリンレジャーが楽しめる。人口は150世帯209人だ(2024年6月末)。

送水管設置工事を見学する初島の小学生
送水管設置工事を見学する初島の小学生

その初島の沖合で2024年6月から海底送水管の設置工事が進んでいる。

見学に来た初島の小学生たちは、大きな船やクレーンが動く姿に「思ったより大きい」「迫力がある。あそこに1つ島ができたと思うくらい大きい」と興奮気味の様子だ。

送水管布設工事
送水管布設工事

この工事は今から44年前の1980年に設置された送水管が老朽化したため、新たに送水管を設置するもので、給水力を向上させ災害に強くすることが目的となっている。

水が貴重で41世帯しか住めない

初島では水が非常に貴重なため、江戸時代から昭和に至るまで島の世帯数は41世帯に限られてきた。

送水管が設置される1980年までは島には井戸水を水源とした水道しかなく、しかもその水には多くの塩分が含まれていたため、塩分をろ過する「脱塩施設」を作って飲料水として利用していたという。

熱海市初島区の宮下泉 区長は「小学生の頃はまだ脱塩施設を使った水を飲んで育ったのですが、ここ(初島)にいると普段から飲んでいる水だから気にならない。だけど、来島者が飲むと『しょっぱい』と言っていたのは覚えている」と、当時を振り返る。

観光客増加で本土からの送水管整備

離島ブームで初島も観光地に
離島ブームで初島も観光地に

しかし、離島ブームによる観光需要の高まりで、脱塩施設による供給ではまかなえなくなった。

このため熱海市は1980年7月、2年間にわたる工事の末、本土と初島を結ぶ海底送水管を整備した。

「送水に感謝して」小学生の作文
「送水に感謝して」小学生の作文

当時の小学生の作文には、完成を喜ぶ様子が記されている。

~きれいなおいしい水を飲みたいと心から願ってきました。しかし、ついにこの願いがかなう時がきました。
熱海から深い海底を通って、私たちのこところへ水が運ばれてきました。これからは、給水船や井戸をたよらなくても水が使えるようになるのです。
初島のみんながおいしい水を飲め、自由に使えるようになりました。私たちは本当にうれしく思っています~
(当時の小学生の作文より)

新送水管は継ぎ目なしの6707m

あれから44年。

送水管の耐用年数が過ぎ、老朽化による破損も心配されるため、熱海市は国の補助金を活用し、2本目の海底送水管の設置工事に着手した。

熱海市網代側の布設場所(左上が初島)
熱海市網代側の布設場所(左上が初島)

網代から初島まで6707mを継ぎ目のない1本の管で結ぶ。熱海市の担当者が初島から延びる管路の熱海市側の連結場所で説明してくれた。

熱海市水道温泉課・野中慎也 課長:
(向こうに見える)初島から熱海市網代の端の方までつなぎます。網代の港の方にブルーシートがかかっていますが、最終的にはそこに接続して管路がつながります

海底送水管は直径20cm、延長6707m
海底送水管は直径20cm、延長6707m

初島で始まった工事。設置される水道管は直径約20cmだ。最も深いところでは水深が103mにも及ぶ。

給水量は最大で現在の5倍となり、1日の最大給水量は1070立方メートル。1200人に給水できる計画だ。

高まる観光需要に対応できるほか、災害に強い水道設備の完成を目指している。

バックアップで島民も安心

熱海市水道温泉課・野中慎也 課長は「災害に強い耐震性のある管や施設に更新することによって、市民の安心・安全、また強靭な災害にも強い水道として市民の期待に応えたい」と話す。

また、4年前に設置された送水管も残す予定だ。

熱海市初島区・宮下泉 区長:
1本だけだと、いつ何があってもし使えなくなったらすぐに水が引けるわけではないので、2本通ってバックアップできるのはすごく心強い

初島の水
初島の水

初島には「親の恩は返せても、水の恩は返せない」という言葉が残されている。

水が不足していた頃に残された言葉だが、離島に限らず生きるために必要な水の大切さについて改めて考えてみてもよいかもしれない。

2本目の海底送水管は2025年3月に完成予定となっている。。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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