静岡県牧之原市にある認定こども園で、通園バスに3歳の女児が置き去りにされ死亡した事件の裁判は、7月4日に業務上過失致死の罪に問われ起訴された当時の園長とクラス担任に対する判決が言い渡される。
杜撰な管理体制で3歳児が…
事件が起きたのは今から1年10カ月前の2022年9月5日。
この日は最高気温が30.5℃を記録する残暑厳しき1日だった。
認定こども園「川崎幼稚園」に通っていた河本千奈ちゃんは午前8時40分過ぎ、いつも通り通園バスに乗車。しかし、運転を担当していたのは普段とは違い、園を運営する学校法人榛原学園の当時の理事長 兼 園長だった。
バスは午前8時50分頃、園に到着。
ところが、園長と補助員として同乗していた派遣社員はいずれも園児が降車する際に取り残された子供がいないか確認していなかったほか、降車した園児の名前と人数を照合していなかった。
この記事の画像(6枚)また、この園ではアプリを使って午前9時までに保護者が出欠席を入力することになっていたものの、千奈ちゃんを担当するクラスの職員が出欠簿を確認したのは午前9時よりも前。
さらにクラス担任や担任補助は千奈ちゃんが教室にいないことを認識していたにも関わらず、保護者や別の職員に確認することすらしなかった。
そして、バスが到着してから5時間あまりが経過した午後2時10分頃。職員が園児の降園に向け準備をしていたところ、バスの中で倒れている千奈ちゃんを見つけた。
千奈ちゃんは病院に救急搬送されたものの、約1時間後に死亡を確認。警察の実験では車内温度が40℃を超えていたと見られることがわかっていて、死因は重度の熱中症「熱射病」だった。
批判が殺到した事件2日後の謝罪会見
事件から2日後の9月7日。川崎幼稚園は園長などによる会見を開いた。
園長は事前に用意した原稿を読み上げながら安全管理に不備があったことを認めた一方、「あの暑い中、よくあの中にいて、本当に可哀想だったなという風に感じている」と、どこか他人事のような発言を連発。
さらに千奈ちゃんの名前を何度も間違えたほか、いらだちを見せる場面もあった。
廃園の約束めぐり園と遺族に深い溝
千奈ちゃんの父親によれば、園長などは事件の翌日に「川崎幼稚園を廃園にすること」と「主要な管理職が辞職すること」の2点を約束したという。
しかし、川崎幼稚園の運営は今も続いている。
それどころか、運営法人の理事長には前理事長(園長)の息子であり、事件当時は園の事務長を務めていた人物が就いていて「約束を反故にされた」と憤る。
これに対して、現理事長は「遺族の悲痛な思いというものは十分理解している一方、希望者がいる以上は園の継続はしていかなければいけないと考えている」と主張し、両者の間には埋めがたい溝が出来ている。
検察が元園長と元クラス担任を起訴
この事件をめぐっては、警察がバスを運転していた当時の理事長 兼 園長など4人を書類送検し、検察はこのうち園長とクラス担任(いずれも当時)を業務上過失致死罪で起訴。
2024年4月23日に行われた初公判では、ともに起訴内容を認めた。
ただ、元園長は被告人質問で、事件の前年に福岡県中間市で同種の事件が起きて国から通知が発出されたにも関わらず安全計画を作らなかった理由について「入院していて、いずれ作ればいいかなと思っていた」と口にしたり、「乗務員(補助員)がシャッター(スライドドア)を閉めたので、(園児は)もういないと思った」と述べたりするなど、責任感に欠ける言い訳を繰り返す。
また、廃園の約束については何度尋ねられても「そのことは口にすることは出来ない」と口をつぐんだ。
遺族は実刑を求める中…
こうした中、6月13日に行われた公判では、千奈ちゃんの母親が「千奈を返して欲しいと毎日、毎日思っている。すべてを奪った加害者を絶対に許すことは出来ない」と現在の心境を吐露したのに続いて、父親も「強烈な怒りと恨みで両被告を殺してやりたいと考える日も少なくない」と悔しさをにじませ、検察側は「何の落ち度もない被害者が3歳で命を落とした結果は取り返しのつかない重大なもの」などと指摘し、元園長に対して禁錮2年6カ月、元クラス担任に対して禁錮1年を求刑。
一方、元園長の弁護人は一貫して自分の責任と罪を認め反省もしていることを理由に寛大な判決を求め、元クラス担任の弁護人も「罪を認め『自分が連絡していれば』と反省している」などとして執行猶予付きの判決を主張した。
判決は7月4日午前11時から静岡地裁で言い渡される。
(テレビ静岡)