54年前の1970年にオープンした東京・五反田の「TOCビル」が、建て替え計画を9年間延期し、リニューアルして再開すると発表した。その理由については、「昨今の建築費高騰およびビル賃貸市況に鑑み、より高収益化を目指し計画の見直しを行うこととした」とコメントしているが、建て替えのために退去を強いられた業者には困惑が広がっている。
コロナ後の建築費の状況について不動産コンサルタントの長嶋修氏に聞いた。
数年間のうちに瞬く間に高騰
ーー建て替えを延期した理由についてどう思う?
2020年のコロナ禍以降、この3年間で資材価格はインフレの影響で大幅に上昇し、建築費は全体で概ね3割ほどアップしました。加えて、今、圧倒的な人材不足で人件費も徐々に上がっていて、今後さらに上がることが見込まれています。
コロナが明けて仕事が忙しくなったことに加えて物流不足の影響で資材価格が大幅に高騰したということです。そのため、建て替え、あるいはリニューアルを計画していた人や企業は計画を根本的に見直す必要があり、大きな工事ほど影響を受けやすくなっています。
ーー6か月でリニューアルできるもの?
一定の規模のリニューアルであれば、耐震工事も含めて半年もあれば不可能ではないと思いますが、そもそも工事が延期になった理由はおそらく当初の収益計画に見合わなくなってきたということだと思います。
計画を立てる前は、人件費も工事費もそれほど上昇していなかったため「この計画でやろう」と思っていたところが、数年間のうちに瞬く間に工事費、さらには人件費が上昇したことで、計画自体を見直さざるを得ないことになったのだと思います。
戦後量産されたビルは建て替え期
長嶋氏は、工事費の上昇と人手不足で建て替えを延期するビルやマンションは今後増えるのではないかと指摘する。
ーー職人の確保は?
職人は人数的には足りていますが、優秀な職人、あるいは仕事ができる職人を集めようと思うと足りないという構造です。優秀な職人集めには時間がかかるため、工期が遅れたり伸びたりする傾向はますます進むと見ています。
ーーTOCと同じような状況のビルは他にもある?
多くのビルは主に戦後の高度経済成長期、要は1960年代から量産されてきたものなので、築年数で言うと40~50年以上経っています。そのため、これからはしばらく立て替えやリニューアル、リノベーションが必要になる時代です。
しかし、人件費や工事費の高騰、圧倒的な職人不足といった状況なので、今は簡単に工事ができる時期ではないと思います。日本全国大都市部のビルやマンションが一斉に修繕、あるいは、建て替えの時期に入っているためです。
ーー今後、どういった工夫が必要?
工事費全般はさらにもう一段上昇する可能性があるということを踏まえた金銭的な計画を立てる必要があります。特にマンションの場合は、皆さんで積み立てている修繕積立金が潤沢にたまっているかどうかを確認する必要があると思います。