生成AIの活用は様々な分野で進められている。そんな中で東京・世田谷区では職員自らが生成AIと対話できるチャットボットを開発し、庁内で使っているという。

チャットボット「Hideki」の画像(出典:世田谷区)
チャットボット「Hideki」の画像(出典:世田谷区)
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このチャットボットの名前は「Hideki」で、区職員が普段使っているツール「Microsoft Teams」から対話することができる。開発したのはエンジニアではない4人の区職員で、通常業務を兼務しながら様々なツールを活用して3カ月で完成させた。

開発については、情報システム部門のエンジニア集団「株式会社クラウドネイティブ」がサポートをしたものの、ノウハウの提供や疑問への対応までで、世田谷区のICT環境には一切触れていないという。

区職員の73%が生産性の向上を実感

なお「Hideki」は、世田谷区の生成AI活用プロジェクトの第一弾として2024年1月から稼働し、まずは庁内のデータや文書を参照させて質問に答える「QAチャットボット」としてテストを実施。「Hideki」を利用した区職員127人にアンケートをしたところ、パソコン操作の検索やアイデア出しなど様々な場面で役に立った事がわかり、73%が生産性の向上を実感したという。

「⽣成AIを使⽤する際、どのような場⾯で役⽴ちましたか?」への回答(出典:世田谷区)
「⽣成AIを使⽤する際、どのような場⾯で役⽴ちましたか?」への回答(出典:世田谷区)

また、通常業務では1日平均約34分、アイデアや企画の素案作成は1回の処理につき平均約77分の削減ができたとのことだ。チャットボットの活用は、今のところ区庁舎内に限られているが、今後は区民向けにサービスを提供する可能性も検討してくという。

ちなみに「Hideki」に使われているサングラス姿の男性画像は生成AIで作ったもので、親しみやすさを演出するため「明るくポジティプ」「自分を若いと思っている」「絵文字使いがち」という性格に設定されている。

(出典:世田谷区)
(出典:世田谷区)

生成AIを業務に活用する自治体は他にもあるが、なぜ世田谷区では職員が内製することになったのだろうか?また開発した人は非エンジニアとのことだったが、どのぐらいITに詳しいのか?

世田谷区DX推進担当部に聞いてみた。

生成AIの活用に可能性を感じつつ懸念も…

――なぜ、区でチャットボットを製作することになった?

生成AIの活用は業務効率の向上等に大きな可能性があると考えていましたが、ChatGPTを組織的に利用する上では、以下のような課題があると感じていました。

・情報漏洩に配慮した利用を徹底する必要があること
・組織としてのアカウントを作成する必要があること
・インターネット利用環境と事務環境が分断しており、利用するだけでも一定の手間がかかること
・多くの職員が利用する状況で利用状況の管理が困難であること

上記の課題から、安全かつ統制のとれた生成AIの利用環境を構築する必要があると考えました。

また、区の職員は日常的に多くの時間を電話対応に割いています。引き続き取り組んでいるQAボットを作ることにより、電話による問い合わせにかかっていた時間を、より本質的な業務に振り分けていくことができるのではないかと考えました。

加えて、これまでメールが主流であった庁内コミュニケーションをチャットに切り替えていくための仕掛けとして、Microsoft Teamsを活用したものとしてChatGPTの利用環境を整えたい狙いがありました。

DX推進担当課の一般職員4人で開発

――なぜ区職員で作ることにしたの?

生成AIへの理解の促進を深めることや、生成AI関連技術の進歩が急速な速さで進んでいく中で、チャットボットの見直しや、QAボットの対象となる事務の拡大等の修正作業に対して、その都度事業者に委託して費用を負担し続けるのではなく、職員自身の手で安価に、迅速に対応できるようにすることが必要であると考えました。

様々なサービスや機能が次々と発表される中、組織内の独自のナレッジを学習した生成AIの開発に必要なスキルがより手軽なものとなるようなサービスの登場などもあり、職員が作成することが実際に可能なものとなったのではないか、という感触もありました。

また、ChatGPTの機能を行政機関向けに提供するクラウドサービスが民間事業者から提供されていますが、世田谷区は職員数が多く、そのようなサービス利用では利用料が高額になりすぎてしまうと考えました。


――チャットボットを制作したのはどんな人なの?

DX推進担当課所属の一般事務職員4名で、いずれも現職の経験年数は2年以下であり、専門的な知識やスキルを保有している職員はいません。


――チャットボット開発に必要な知識はどのように学んだの?

本件開発に関しては、株式会社クラウドネイティブに支援業務を委託しています。同社から担当職員がレクチャーをうけ、ハンズオン形式の支援を通して内容の理解を深め、構築作業を実践しました。

また、DX人材育成の取組みとしてオンライン学習サービスのUdemy Businessを契約しており、ネットワークの知識などは同サービスも活用しながら学びました。

職員自身で開発したことで自信に

――開発で苦労したことは?

閉域化されたネットワークのセキュリティレベルを維持しながらの開発だった点です。セキュリティが守られた構成にするため、ネットワークの通信が影響をかなり受けました。

通信がうまくいかない時に三層分離のネットワークの影響なのか、Azureのリソース間の通信設定の問題なのか両面からの調査が必要なシーンが多々あり、苦慮しました。

一方で、株式会社クラウドネイティブからは、デバッグの手法についてもレクチャーしてもらっており、慣れてくると我々自身で原因を突き止められるようになり、開発スピードも上がっていきました。

苦労もありましたが、職員自身で開発するということを通して、技術的な原理原則も学ぶことができ、職員にも今後自走していく自信もつきました。事業継続性が向上したと実感しています。


――チャットボットないこれまでは、パソコン操作が分からない時はどうしていたの?

特別なサービスは利用しておらず、インターネットで検索して自分で調べる等の試行錯誤をする、職員同士のブレストをする、職員が目で確認する等で対応していました。


――「Hideki」にモデルはいるの?

プロトタイプ作成時にDX推進担当部長の名前から採用しました。生成AIについては「頼れるAI秘書」をイメージしていたので、偶然にも「Hideki」がそのイメージとぴったり合致していたことと、中途半端にキャラクター的なものとするよりも、人の名前にすることで一回聞くだけで覚えてもらって、職員間でも話題になって使われように、と期待しました。

真面目でロボット的に回答するより、明るくポジティブな回答をしてくれる方が、職員にとって親しみが持て、楽しく利用してもらえることで、更に積極的な利用が進むと考えました。

Hidekiに悩み相談をすると、真剣に回答してくれますが、かといって深刻になりすぎず、ちょっと笑えたりもするので、心が軽くなる感じがするような効果も狙っています。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

非エンジニアがチャットボットを作ったことに驚く人もいたことだろう。AIチャットボットは今後はますます普及していくと思うが、世田谷区のような取り組みも他の自治体や企業に広がっていくのかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。