“ゼロ”の地・岩手を支える感染症対策のプロ

櫻井滋さん、64歳。岩手医科大学の教授として学生を指導するかたわら、呼吸器内科医として週に数回診療をしている。

この記事の画像(13枚)

岩手医科大学 櫻井滋教授:
本県はゼロですから、これから感染者が増えるフェーズに入っていく。流入してくることも当然のことだし、このままゼロが続くことの方が不自然

その櫻井さんは、感染症対策のプロ。岩手の新型コロナ対策専門委員会委員長を務め、県の施策をサポートしてきた。

岩手県 達増拓也知事:
櫻井先生の考え方や発言内容は、私にも報告があがってきていて、的確なものなので大いに参考にしています

2020年2月、櫻井さんは、ある大きな任務を引き受けた。
国の依頼で、集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船したのだ。
どんなウイルスなのかもまだよく分かっていない中、2日間、船内の状況を調査した。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
ひょっとすると、致死率の高いコロナウイルスである可能性があるということは、ある程度覚悟して行った

船内では、「エッセンシャルクルー」と呼ばれる人たちの間で感染が拡大していることを確認し、国に対策を提言した。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
食事を運んだり、掃除したりという、病院でいうと医療従事者みたいな方々が次々にかかっていった。国にお願いしたのは、できるだけ早い時期に船から全員降ろした方がいいと。その後1週間くらいかかって、私どもが申し上げたことが実現していった

危険な任務担った教授 胸に秘める津波犠牲者への思い

危険と隣り合わせの中、任務にあたった櫻井さん。
船に残る人を助けたい、それは“あの日”に通ずる思いだった。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
(年齢的に)“最後にやる仕事”だなと思っている。船に乗るのも嫌ではあった。実際、怖いという雰囲気はあったが、でも、なんだろう…、やっぱり津波で流された人たちの声が聞こえるという感じですよね

住田町生まれの櫻井さん。父親の実家がある、現在の大船渡市三陸町で幼少期を過ごし、4歳の時にはチリ地震津波を体験した。

東日本大震災では発生の3日後、被災地に出向いた。
多くの人が犠牲となった現実に衝撃を受け、何をすべきなのかを自問自答したという。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
チリ地震津波の時と同じ風景なんです。同じ場所に船が乗り上げていたり、まさにやりきれない。「今生きている人を1人でも生かせ」って言って死んでいくようなもの。残った方々が、できるだけ健康でいつも通り暮らしていただければ一番いい

避難所の感染症対策が契機 全国初の感染制御支援チーム設立

感染症対策に取り組むことを決意した櫻井さん。直後から、県立病院の医師・看護師らとともに避難所を回った。
そして、各地から感染症の発生状況を報告してもらうシステムを構築。インフルエンザなどの拡大防止に役立てた。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
当時タブレット端末は出たばかりだったが、ほぼ無償で避難所に設置して回った。盛岡にいながら、どの避難所が危険かある程度分かるようになった

そうした取り組みを非常時だけではなく日頃から進めようと、県と連携して立ち上げたのが、全国初となる常設の感染制御支援チーム「ICAT」だった。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
避難所が設置されたことが初動のきっかけになる

専門知識を持った医師や看護師らが、災害対応の訓練や他県の被災地支援などの活動を続けている。

「その日は必ず来る 津波から立ち上がったように」

岩手医科大学 櫻井滋教授:
まさに3.11の時に通った道です。山の中の出身なので、新幹線が通っている場所だけが岩手ではない。ほとんどがこういう山地ですので

ICATは新型コロナ対策でも活躍している。この日、櫻井さんは大船渡市を訪れた。

ICAT所属の看護師:
すき間がないように、手袋の中に(防護服の)袖を入れるように

開かれたのは、気仙地域のPCR検査センターで従事する医師や看護師対象の講習会。
ICATのメンバーが、防護具の適切な使い方を指導する。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
唾液検体の容器が汚れる問題が非常に大きくなっています。つまり患者に渡して採取するので、患者は手袋も何もしていない。だからどこまで行っても手を消毒したり、洗うということはものすごく大切

講習会は、県内各地で開催されている。
こうしたICATの取り組みが岩手の“感染者ゼロ”を支えてきた。

受講した看護師:
私たちも不安の中でやっているので、(ICATが)身近にいることで私たちも安心してやれるのでとてもありがたいし、助かる

東京などで感染が拡大する中、櫻井さんは手洗いやマスク、3密を避けるなど、基本に忠実な予防策を続けてほしいと語る。
予断を許さない状況だが、これからも岩手を思いながらコロナと向き合い続ける。

岩手医科大学 櫻井滋教授:
(岩手県民は)生き方、考え方、価値観が変わる体験を一度していることが、今度の難局に向かっても生きているのではないか。「岩手県はワクチンが間に合った」と言われれば最高ですね。不可能ではないと思います。そして、その日は必ず来る。津波から立ち上がったように、必ず来ると信じてやっています

(岩手めんこいテレビ)

※7月23日に岩手めんこいテレビで放送された内容を記事化したものです。