2日間の金融政策決定会合を終え、19日、発表された歴史的な政策転換。8年続いたマイナス金利の解除と、17年ぶりの金利の引き上げだ。

https://youtu.be/cB8y5m1uzTU

日本銀行 植田和男総裁:マイナス金利政策といった、大規模な金融緩和政策は、その役割を果たしたと考えています。

■長いデフレから「賃金と物価の好循環を見通せる状況」に

この記事の画像(6枚)

物価が下がり、給料も下がる、長いデフレに苦しんだ日本で2016年に導入された「マイナス金利」とは、銀行が日銀にお金を預けると、逆に金利を取られるという異例の政策で、銀行が日銀にお金を預けず、企業や家計へ貸すことで、経済を活性化させるための対策だ。

それから8年がたち、ことしの春闘の集中回答日には、高い水準の回答が相次ぐ中…

日本銀行 植田和男総裁:賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価安定の目標が、持続的、安定的に実現していくことが、見通せる状況に至ったと判断しました。

日銀は金融機関が日銀に預ける当座預金の短期金利の誘導目標を、これまでのマイナス0.1%から、0~0.1%程度に変更し、マイナス金利政策を解除することを決めた。

ただ、当面は緩和的な金融環境がつづくとの認識を示した。

(Q.日銀の見通しが崩れたら、今回やめることを決めた金融緩和策を、復活させる考えは?)
日本銀行 植田和男総裁:見通しが大きく下方向にずれて、追加的な緩和手段が必要になれば、これまで使用したさまざまな手段も含めて幅広く検討したい。

マイナス金利の解除は私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか、大阪大学大学院教授で経済学者の安田洋祐さんが解説する。

■金利引き上げで「円」の価値が上がり円高方向に

日銀が実に17年ぶりに金利を引き上げることを決定した。
植田総裁は会見で「大規模な金融緩和は、その役割を果たした」と言うが、今回の見直しで私たちの暮らしが、どのように変わるのか、メリット、デメリットで考えていきたいと思う。

まずは日銀が金利を引き上げていくと、金利のつく「円」の価値が上がり、円高方向に動く可能性が出てくる。そうすると、海外旅行に行きやすくなり、スーパーなどの輸入品も安くなることが考えられる。

これは嬉しいと感じている人も多いと思うが、メリットが大きいと考えてよいだろうか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:海外旅行だけではなく、国内旅行、それこそゴールデンウィークとか夏休みに計画されている方もいらっしゃると思います。インバウンドでくる方は円安なので、ホテル代が円では結構高くても、平気で払えるのです。結果的に国内のホテルもそれに引きずられて、値上がりしているので、円高になると国内ホテルも安くなる可能性が出てきます。

■うまくいった場合のシナリオでも「他の先進国と比べると随分と安い」

そしてもう1つメリットとしてあるのが、銀行預金の金利アップだ。

今は銀行に預金をしていても利息は、スズメの涙くらいだが、今後、利息も増えていく可能性がある。

これはあくまで景気が順調に上向いて、日銀がさらに利上げを進めていったケースでの試算だが、2023年度に普通預金の金利が0.001%だったものが、2026年度には0.4%に。10年定期金利は0.4%だったものが、2.4%にまで上がる可能性がある。そうなると、10年定期の場合、10万円を預けると、税引き前の利子収入が、400円から2400円まで増えるということになる。

これは理想の試算だが、現実的にこうなる可能性は高いのだろうか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:植田総裁が『賃金と物価の好循環確認できた』と、『安定した2%の物価上昇が続く』のであれば、2年後、このような形になっていても、そんなにおかしな数字ではないと思います。アメリカだと普通預金は4~5%の金利が付くようになってきているので、それから比べれば、仮に試算したシナリオでもやっぱり、他の先進国と比べると、随分と安いと。ただ、日本は(低金利が)この2、30年の当たり前だったので、そこから比較すると、ものすごく上がっているように見えてしまいます。数字のマジックみたいなところもあるので気をつけないと。それぐらい低かったということです。

■利上げで住宅ローンの金利も上がっていく可能性も

ただ今回の日銀の決定でデメリットもある。

これもあくまで景気が良くて、日銀が利上げを続けていった場合での試算だが、住宅ローンの金利も上がってしまう可能性がある。

まず固定金利の場合、2023年度、1.8%だったものが、2026年度には4.5%にまで上がり、一方、変動金利の場合、2023年度、0.4%だったものが、2026年度には2.9%まで上がる可能性がある。

例えば、5000万円を借り入れて変動金利で、35年の住宅ローンを組んだ場合、毎月の返済は約12万5000円だったものが、2026年度の毎月の返済額は、約18万6000円となり、金利が2.5%上がることで、6万円増えることになる。

住宅ローンだけ見ると、かなり負担が増えるが、給料は上がっていくのだろうか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:いま試算している金利は、安定した賃金と物価の好循環が実現して、初めて金利がこれだけ上がっていくという、シナリオです。そう考えると、大多数の人の賃金が上がっていると。今回の例のように5000万円のローンを組んで直後、比較的短期間で金利が上がってしまうと、月々の支払を全部カバーできるほど賃金が上がっているかは分からない。ただ、経済全体としてみると、賃上げや他にいいことがたくさん起きているので、トータルで見ればプラスの可能性が、すごく高いと思います。

■住宅ローン金利の上昇で、住宅価格の高騰の歯止めになる可能性も

住宅ローンが増えたとしても、トータルで見た時、どのような良さがあるのだろうか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:例えば、住宅価格は数年、特に都市部でかなり値上がりしてきました。その1つはローンの返済が安かったからなのです。金利が上がって、ローン金利がある意味、正常化されてくると、行き過ぎた不動産価格上昇がストップするかもしれません。いま大多数の人は、ローンを組んで不動産購入するので、ローンの負担が増えていったら、そんな高い金額出せなくなります。そうすると、住宅需要自体が一段落して、値上げが落ち着くかもしれません。不動産市場自体が、ある程度、正常化するきっかけになる可能性はあると思います。

やはり重要になってくる賃上げの可能性についてはどうだろうか?

大阪大学大学院教授 安田洋祐さん:今年に関しては、春闘で大企業を中心に非常に賃金が上がったことは間違いないので、これが植田総裁のいう好循環につながっていくかです。賃金が上がったけど、結局消費に回らずに、また日本がデフレに戻ってくることになってしまえば、おそらく金利も上がらずにすえ置きになっていく。『今までやってきた金融政策も含めて、幅広い選択肢を』と総裁が言いましたが、そっちの世界に逆戻りかもしれないし、好循環が生まれれば、賃金も上がり続けるかもしれない。やはり今年通じて見ていかないと、分からないと思います。

日銀が17年ぶりに下した決断でどう経済、生活が変化するのか注目される。

(関西テレビ「newsランナー」2024年3月19日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。