ピンポーン。3月のある日、都内にある筆者の自宅のインターフォンが鳴った。人の良さそうな若者が笑顔でモニター越しに話しかける。「お宅の屋根材が剥がれそうで浮いているので、お知らせしようと思って…」。

怪しい…ただ、話を聞くだけ聞いてみようと思い、外に出てみた。

「屋根材って軽いんです」

作業着姿の青年は30歳くらいか。笑顔で饒舌に話しかけてきた。「先日近くで高所作業をしていたんですが、お宅の屋根材がパカパカ浮いていて凄く気になったので、お節介かもしれないですがお伝えしなきゃと思ってきました」という。

下から見上げても屋根全体は見えないので、本当のことを言っているのか、すぐには分からない。パカパカ浮いているのを見つけたならその日にうちに伝えれば良いし、『先日』作業したというなら、なぜ今わざわざ伝えに来たのか?疑問だらけあり、はっきり言って不自然な点は多いが、とりあえず「そうですか」と応じてみる。

青年は、「先日もかなり雨が降りましたし、春一番で風が強い日もありましたよね。屋根材って子どもでも持てるくらい軽いので、早く直さないと危ないと思います」と、相変わらず饒舌に我が家の屋根が危機に陥っていると話す。我が家の屋根材は一般的な鋼板で、確かに軽い。だが、そう簡単に剥がれるとも思えない。

私が乗り気ではないのが顔に出ていたと思うが、青年は全くめげない。青年は、「こういう工事とかしてくれる業者ご存じですか?心当たりあります?」と聞いてきた。「やはりそう来たか…」と、思いながら「この家を建てた工務店と付き合いがあるので大丈夫ですよ」と返答すると、割とあっさり「そうですか」と引き下がった。

もう一人同僚?が

青年との話を終え、物陰から様子を見ていると、同じような作業着姿のもう一人の男性が青年に近づいてきた。青年と何やら言葉を交わしている。態度からして「先輩」のようだ。この青年と「先輩」、2人で何やら話をした後に、また分かれて別々の方向に歩いて行った。

たまたま「先日の高所作業中」に「屋根がパカパカ」しているのを見て、「お節介」から伝えに来たというが、なぜ仲間も一緒に来ているのか?なぜ直前までピンポンして住人と話をするときは別行動なのか。不審な行動が目立った。

別の家の屋根も壊れていた?

後日、近所の知り合いに話を聞いてみると、その人の家にも「高所作業中にたまたま屋根が壊れているのを見つけたのでお伝えに来た」と話す業者が来たのだという。何という偶然!と驚くことはなく、感想は「やっぱり…」。

案の定、隣近所の家の屋上から我が家の屋根を見たが、何の問題も無かった。屋根材はしっかりくっついていて、パカパカしてなどいなかったのだ。

断定はできないが、青年は悪徳業者だった可能性が高い。別のご近所さんが警察に通報していたので、今後注意喚起がなされるかもしれない。

増加する点検商法

国民生活センターは2023年10月、屋根工事をめぐる「点検商法」のトラブル相談は増加しているとして注意喚起した。

2018年度には相談件数は923件だったが、2019年度1157件、2020年度1824件、2021年度2352件、2022年度2885件と5年で約3倍になっているという。

ここで言う「点検商法」とは、「近所で行う工事の挨拶に来た」などと言って突然訪問し、「屋根瓦がずれているため点検してあげる」などと言って点検した後、「このままだと瓦が飛んでご近所に迷惑がかかる」といった言葉で不安をあおって工事の契約をする手口だ。

「屋根瓦がずれている」も典型的な点検商法のトーク 映像はイメージ
「屋根瓦がずれている」も典型的な点検商法のトーク 映像はイメージ
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国民生活センターによると、「屋根瓦がずれているのが見えた」と来訪してきたり、「近所で工事している」と言うので点検を依頼したが、近所の工事はうそだったという事例のほか、ドローンで撮影したという写真を見せられ契約した事例もあるという。

まずは訪問や点検のきっかけとなるトーク(たまたま近くで工事など)→不安をあおるトーク(瓦が飛ぶ、屋根材が飛ぶなど)→消費者の負担が軽くなると思わせるトーク(すぐに点検できますよなど)で消費者を揺さぶり、高額の契約を結ばせる手口だ。

国民生活センターは「突然訪問してきた業者には安易に点検させないようにしましょう」などと注意をよびかけている。

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。