東日本大震災の津波の衝撃から学ぼうと、南海トラフ地震が心配される静岡県で津波避難訓練が行われた。南海トラフ地震は想定震源域が陸地にかかり、発災から2分で津波の襲来が想定されるところもある。津波の到達時間も意識したり、暗い夜に避難したりする訓練が行われた。

東日本大震災の津波の衝撃

東日本大震災の震度と震央(気象庁)
東日本大震災の震度と震央(気象庁)
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13年前の東日本大震災。地震は2011年3月11日午後2時46分頃に発生、震央は宮城県沖 約130kmの太平洋だった。津波の第一波は地震から15分後の午後3時1分に岩手県宮古市で、22分後の午後3時8分には福島県いわき市小名浜で観測された。

2011年3月11日 岩手県宮古市
2011年3月11日 岩手県宮古市

そして発災32分後の午後3時18分には岩手県大船渡市に8.0m以上の津波が押し寄せ、40分後の午後3時26分には宮古市や宮城県石巻市を8.5m以上の津波が襲った。マグニチュード9.0は日本国内観測史上最大規模で、犠牲者は2万2000人を超えた。

2024年1月1日 石川県珠洲市
2024年1月1日 石川県珠洲市

その東日本大震災以来となる大津波警報が、2024年元日の能登半島地震で発令された。震源が陸地に近く、「発災後1分たらずで津波が来ていた」という証言もある。

南海トラフ地震の津波は数分で到達

南海トラフ地震の想定震源域と震度予想(静岡県)
南海トラフ地震の想定震源域と震度予想(静岡県)

南海トラフ巨大地震が心配される静岡県民にとって、決して他人事ではない。南海トラフ巨大地震は、駿河湾から宮崎県日向灘沖にかけての南海トラフに沿って起こるプレート境界型の地震だ。東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震と同規模かやや大きな地震(M9.0~9.1)になると考えられている。しかし東日本大震災の時とは違い、南海トラフ巨大地震の震源域は、住民が多く住んでいる陸域までかかっている。このため広い範囲で震度7の揺れが予想され、津波は早いところでは数分で襲ってくるとみられる。

静岡県の第4次被害想定によると、静岡市清水区や焼津市では発災後2分、沼津市・富士市・磐田市などは3分で海岸に津波が押し寄せると予想されている。跳ね上がるプレート境界が駿河湾内にあるからだ。最大の津波の高さが10m以上になる所もあり、最悪の場合、県内の犠牲者は約10万5000人と想定されている。

15分で避難できるか

避難所となる病院(静岡市駿河区)
避難所となる病院(静岡市駿河区)

防災意識が高まる中、2024年3月 静岡県内では各地で津波を想定した避難訓練が行われた。
津波警報発令からどのくらいの早さで避難できるのか、時間を測る訓練が行われた地区がある。静岡市駿河区の広野地区だ。南海トラフの地震では、発生後15分以内に津波が襲うと予想されている。

2024年3月3日午前10時、大津波警報(訓練)発令を知った住民たちが一斉に避難を始める。
避難所となる病院では、開始から10分以内に140人が集まった。お年寄りは「やっとたどりついた、足が大変」と、疲れた様子だ。

階段の横にエレベーター
階段の横にエレベーター

足早に避難してきた住民たちはここから階段で5階へ。足腰が弱い人たちはエレベーターを使ったが、実際に地震が起きた時は停電で使えないおそれもある。

一方で、大勢の人がせまい階段に集中してしまったら、登れるのか心配だ。また飼い主と一緒に避難してきたペットをどこで世話をするか、課題も見えてきた。

静岡市広野地区の避難訓練
静岡市広野地区の避難訓練

病院に避難した175人のうち9割以上が15分以内に到着、13人は15分に間に合わなかった。比較的迅速に避難できたが、住民は改めて津波到達までの時間の短さを感じていた。
参加者は「(実際に地震が起きたら)あわててしまい来られるかわからない。訓練してもらって助かった」「(津波が)来たら死に物狂いで逃げる」などと話していた。

能登半島地震の被災地
能登半島地震の被災地

一方で、能登半島地震では倒壊した家屋や火災が避難を妨げたことが大きな教訓となった。
避難所までの道路でどんな被害が起こりそうか、「もしも」を想定しておくことが重要だ。
静岡市の防災担当者は「夜間になると暗くなるし、避難経路でも地震でブロック塀や自動販売機が倒れるおそれがある。本当にこの経路で避難所まで行けるか、狭い道を通り危険なことはないのかなど、事前に確認してもらえたら」と、訓練の目的を話す。

初の夜間避難訓練

掛川市では初の夜間避難訓練
掛川市では初の夜間避難訓練

元日の家族団らんを襲った能登半島地震のように、地震はいつ起きるかわからない。
南海トラフ地震で最大13mの津波が予想される掛川市では、3月2日 初めて夜間の津波避難訓練が行われた。

住民は避難タワーに避難
住民は避難タワーに避難

午後7時 沿岸部の今沢地区では大津波警報(訓練)を発令、懐中電灯を持った住民たちが津波避難タワーへと向かう。街灯が停電し、地割れやがれきに気づけない危険もあるのが夜の避難だ。
参加者は「この辺は街灯があまりなく、真っ暗で怖かった」「どの時間帯でもしっかり避難できるように準備をしておかなければいけないと思った」と話す。

津波避難タワーの備蓄品
津波避難タワーの備蓄品

避難タワーに上った参加者たちは、市の防災担当者からタワーに備蓄してある飲料水や熱を逃がさないシートなどの説明を受けた。

掛川市の久保田崇市長も参加し「津波は何回も来る可能性があり、警報が解除されない限り、津波避難タワーに留まる時間が長くなることも考えられます。いざという時にすぐに外に出られるよう(防災リュックなどの)準備も必要です」と呼びかけていた。

訓練の後の反省会
訓練の後の反省会

訓練の後、市や自治会の役員たちは参加者へのアンケートをもとに反省会を行い、「避難タワーの照明が暗い」「高齢者など要配慮者のためのリヤカーをどこに保管し、誰が助けにいくのか」といった意見が出ていた。
掛川市の防災担当者は「実際(夜間に発生すれば)真っ暗な状態なので、住民も不安でパニックになると思う。市としては能登半島地震もしっかりと検証していろいろな対策をもう一度総点検していきたい」と話す。

3月11日の黙とう
3月11日の黙とう

東日本大震災から13年。
震災で得た津波の教訓に立ち返るとともに能登半島地震も踏まえ、備えや訓練を見直し続けることが求められる。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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