1月4日、石川県輪島市。地震発生から66時間後、奇跡的に倒壊した家屋から助け出されたのは、プードルのミックス犬「ムーム」。震災は人も、動物も、多くの命の“日常”に深刻なダメージを与えた。

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【動画】被災地に取り残された犬や猫 がれきの下から救出された愛犬 被災地で野生化するペットも

1月に発生した能登半島地震では、241人が死亡、約7万6000軒もの家屋が被害を受けた。(※内閣府発表2月22日時点)その被災地で取り残された犬や猫を救助している団体がある。

チームうーにゃん 代表 うささん:すぐに行かなきゃと思ったので、今行かないと助けられない命があると思ったんです。行くことに対する戸惑いはなかったです。

■震災で家族を失ったペットも

2月11日。能登半島地震が起きてから1カ月以上がたち、石川県輪島市河井町では倒壊した家屋も多く、いまだ傷跡が残っている。

被災地に取り残されたペットたちは、今どうなっているのだろうか。

チームうーにゃん 代表 うささん:これ全部足跡。おうちの中を行き来しているんですよ。

飼い主と離れ離れになったペットたち。特に猫の場合は野生化し始め、なかなか捕まえることができない。倒壊した家の周りや目撃情報を頼りに、えさを入れた捕獲器を設置。猫がかかっていないか、1日に何度も点検していく。

チームうーにゃん 代表 うささん:(猫が)帰ってきているかどうか分からなくて、とりあえずまだ家の周辺にいるんじゃないかと思って、家の近くに捕獲器を設置して一応カメラも回しているんですけど、まだ何も映ってないですね。

能登半島地震が発生した直後から被災地に入り、ボランティアでペットの捜索を続けている、うささん(56歳)。本業は絵本作家だ。2011年の東日本大震災で、多くのペットたちが犠牲になっていたことを知り、そのエピソードを絵にする活動を開始した。

その後、2016年の熊本地震の時に1匹の犬を助けたことがきっかけで、行方不明になったペットの捜索や救助をする「チームうーにゃん」を立ち上げた。

輪島市河井町から、東へ車で2時間ほど離れた町野町。粟倉さんは実家へ帰省中に被災し、飼い猫の捜索を「チームうーにゃん」に依頼している。

粟倉尚弥さん:1月1日の震災の時に金沢から嫁と子供と猫3匹で、年末年始を(実家で)過ごしていた時に震災にあって、実家が見ての通り倒壊しました。子供も嫁も母親も重症の大けがで、骨折してドクターヘリで金沢に運ばれて。

その時に行方が分からなくなってしまったのが、愛猫のツナ(7歳)、なな(7歳)、ふな(7歳)の3匹。子猫の時に息子さんが拾ってきてから7年間、ずっと一緒に暮らしてきた。

粟倉尚弥さん:みんなもう亡くなってしまったなって思ったんです。そしたら『猫はなかなか死なないよ』って、うささんに言われて。諦めていたけど『ご飯だけはやり続けて』って言われて、ずっとえさやりしていたんです。朝と夜に通って。そしたら、1月22日だったかな、1匹だけ見つけることができて。

半分諦めていた時、なんとツナを見つけることができたのだ。

励まされた粟倉さんは、金沢市内で入院する家族を看病しながら、うささんと協力して、残る2匹の猫を探し続けていた。

‐Q.3匹はどういう存在ですか?
粟倉尚弥さん:家族ですし、家族って仲いい時とか、仲悪い時って人間でもあるじゃないですか。やっぱりその時にうちの3匹がいるだけで会話になったりとか。必ず生きて金沢に帰してあげたいと思っているので。

■帰ってこないおじいちゃん・おばあちゃんを待ち続ける「ハナ」

一時道路が寸断され、孤立状態だった町野町では、すでに多くの人が避難した。町に人の姿はほとんどない。

そんな中、家に取り残されてしまったペットがいる。犬のハナ(12歳)は、80代の高齢夫婦のもとで暮らしていたが、妻は避難生活で体調を崩し、今は横浜にいる娘のもとに避難している。ハナを一番かわいがっていたという夫は、二次避難先で1月に亡くなった。

何も分からないまま1カ月以上、戻ることのない飼い主の帰りを待ち続けるハナ。うささんは定期的に訪れて、えさをあげながら保護を続けている。

チームうーにゃん 代表 うささん:さみしいと思います。(他人だから)やっぱり怖くって。すごく近くに来るのに(ハナに)触れないんですよね。さみしいと思いますよ。ここに住んでいたおじいちゃん、おばあちゃんもいなくなって、一人ぼっちになっちゃって。

横浜に住む娘は、ハナを引き取ることができず、この後、別のボランティア団体の元に行くことになった。

地震は、ペットたちからも大切な家族を奪ったのだ。

■ペットの遺骨を捜索することも

東日本大震災以降、国は災害時にペットを連れた避難を推奨している。金沢市にある体育館を利用した避難所でも、10匹ほどのペットのスペースが設けられていた。もちろん飼い主の出入りも自由だ。

しかし、ケージの中での飼育を前提としているため、受け入れが難しい場合もある。

浜田さんの飼い犬・ジェットは中型犬のため、車内で過ごしている。

浜田栄八さん:小型犬なら入るけど、この子はちょっと大きいから無理。強制的に入れても、夜吠えたりしたら人の迷惑になる。それでここに我慢させているんだけど。

浜田きくゑさん:普段は、うちでは一緒に寝ていたんです。この子と一つの布団で。(Q.車内にいさせることについては?)つらいよ。つらいけど仕方ないから。(ジェットが)鳴いてきたから。泣いた泣いた、私。一緒にいたいから。でも何回かここ(避難所)の人に言ったら『そういう部屋がないからごめんなさい』って言われて。

長引く避難生活に、浜田さん夫婦はジェットを連れて、被災した家に戻ることに決めた。自分たちの安全よりもペットとの生活を優先する、浜田さんのようなケースは少なくない。

朝から休む間もなくペットの捜索を続けるうささん。気づけばあたりは真っ暗に。活動が終わるのは、深夜0時頃だ。車で寝泊まりする生活を続けている。

この日、うささんは大規模な火災があった輪島市の朝市通りに入った。家が焼けて残っていないこの地域に、犬や猫はいないはずだが…

チームうーにゃん 代表 うささん:探している子はワンちゃん2匹と、猫ちゃん1匹なの。おそらく遺体や遺骨があるんだったら、そんなにバラバラになってないと思う。

捜索しているのは、ペットたちの“遺骨”だ。

チームうーにゃん 代表 うささん:ここに室外機があって、この焼けた木よりも向こうの壁側に中庭とかがあって、あそこに多分猫ちゃんがいる可能性がある。

ペットたちがいたと思われる場所を重点的に探す。依頼主は火の手が迫る中、小さい子供を連れて逃げるのに精いっぱいだった。

「たとえ死んでしまっていても、大切な家族を見つけてほしい」。そんな飼い主の思いを受け取り、慎重に遺骨を探す。

チームうーにゃん 代表 うささん:自分の足の下にあるかもしれないと思ってやってね。

■1カ月ぶり発見 飼い主のもとに帰ることができた猫の「しゅん」

これまでうささんは約20匹の犬や猫の命を救っている。この日は、そのうちの1匹の猫を飼い主のもとに引き渡す日だ。

普段は神戸市で暮らしている神谷さん一家。飼い猫・しゅん(5歳・アメリカンカール)を連れて、家族みんなで輪島市の妻の実家に帰省していた。

神谷健一さん:初日の夜も氷点下やったから、だめだろうなと思って。こっち(輪島市)に1月4日までいて。暇をみてはうろうろ、名前を呼びながら歩き回ったんだけど。

実家は住めない状態に。神谷さんは、行方不明になっていたしゅんを4日間探したが見つからず、神戸に帰らざるを得なかった。

しかし2月5日、うささんが偶然しゅんを見つけ、保護したのだ。

チームうーにゃん 代表 うささん:しゅんちゃんです。

もう会うことはできないと思っていたしゅんと1カ月ぶりの対面だ。

神谷健一さん:しゅん!しゅん!分かっているのかな。半分以上諦めていたから。絶対に生きていられないだろうなって。えさを自分で取ることもできないし、この気温を経験したこともないから、多分もう無理やろうなと。うれしかったですよ。まさか生きていると思わなかったから。かけがえのない。ペット飼ってはる人はみんな一緒やと思うけど。

■「助けられる命があるから行かなければいけない」

チームうーにゃん 代表 うささん:このために(被災地に)来ているので、これ以上うれしいことはないですよね。家族がバラバラだったのがやっと一つになれたので。

うささんのレスキュー活動は、飼い主からの依頼がある限り、これからも続く。

‐Q:どうしてここまでできるのですか?
チームうーにゃん 代表 うささん:やっぱり助けを求める命もあるし。私たちが動けば助けられる命があるから、それがある以上、やっぱり行かなければいけないと思いますし。もう一回家族のもとに帰したいっていう気持ちが強いので。

家族同然のペットたち。震災で突然日常を奪われたのは、人も動物も同じだ。

今回取材した中には、ペットを連れた避難生活でつらい思いをしている方もいた。阪神・淡路大震災で被災動物の支援を行った、公益財団法人Knots 冨永佳与子代表理事は、「行政が具体的な避難計画を」と話す。

マイクロチップなどでペットの数が把握できるようになってきている。高齢者や乳幼児を連れている人と同様に、ペットを連れている人の数も把握し、多様なニーズに合わせた避難計画を立てることが重要だ。

(関西テレビ「newsランナー」2024年2月26日放送)

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