読売ジャイアンツの坂本勇人内野手(35)と元ソフトボール日本代表監督の宇津木妙子さん(70)が対談した。

その内容は、『一人前の大人になった時、”叱ってくれる人”があなたにはいますか?』。

そんな疑問を投げかけるやり取りとなった。

今年1月の自主トレ中、沖縄・那覇市内で行われた2人の食事会に、フジテレビのスポーツ番組「S-PARK」のカメラが特別に入った。

「お母さんのような存在」と対面

先に到着したのは宇津木妙子さん。御年70歳。

ソフトボール日本代表初の女性監督として、2000年シドニーオリンピック銀メダル、2004年アテネオリンピック銅メダル。2大会連続のメダル獲得に貢献。

先にお店に到着 宇津木妙子さん(70)
先にお店に到着 宇津木妙子さん(70)
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のちの日本代表の2大会連続オリンピック金メダル(2008年北京、2021年東京)の礎を築いたレジェンドだ。

「(坂本は)まだ?私(の席)奥?」

そして、少し遅れて登場したのが、“叱られたい人”、巨人・坂本勇人。

遅れて到着 坂本勇人(35)
遅れて到着 坂本勇人(35)

坂本:
お疲れさまです。

宇津木:
30分前に来たよ。

坂本:
嘘でしょ。絶対嘘だ。

宇津木:
嘘じゃない、本当だって。

坂本:
結構早めに出たんですけど…なんかデートみたいですね。

宇津木:
孫とデートだわ。

年の差は、実に35歳。2人の交流は10年以上。

坂本勇人公式インスタグラムより(2023年11月投稿)
坂本勇人公式インスタグラムより(2023年11月投稿)

もともと大の巨人ファンの宇津木さん。取材やプライベートで坂本を度々訪問してきた。

坂本のSNSには「いつも叱ってくれてありがとうございます」というコメントも。坂本にとって宇津木さんは「お母さんのような存在」、と慕う。

「35歳、あと何年やれば?」「まだまだだと思う」

こうして始まった、2人の対話。

宇津木さんは坂本に手加減しない。白球を追い続ける互いの情熱が言霊となり、ぶつかる。

坂本:
なんか新鮮ですね。

宇津木:
いい年のおばちゃんと食事だもんね。

坂本:
デートっすね。

宇津木:
うんデート。

坂本:
光栄です。宇津木さんとまさか、2人でカメラの前に立つ日が来るなんて思っていなかった。

宇津木:
そうだね。嬉しいよ。でも私は個人的にはすごく嬉しいし。

坂本:
そうですか。

宇津木:
頑張ってほしいなって気持ちの方が強いし。

坂本:
あと何年…あと何年頑張ればいいですかね。

宇津木:
でもやれるまでやったらいいよ。

坂本:
本当ですか。

宇津木:
と思う。私も去年70になって、ある程度節目があるじゃん。まだできるかな?と思うじゃん。まだできるんだったら、じゃあ75にしようかなとか。でも、75とかやるのではなくて、1年1年、また1日1日を。今日大事にすればいいし。先のこと考えても分からないよ。勇人だってそうだよ。

坂本:
先のことね。

宇津木:
35年、人生やってきて、ヤンチャばっかりやってきたじゃん。

坂本:
そうですね(苦笑)。

宇津木:
でもやっぱり人生だからいいと思うんだよ。ただ、そういう成功もあり失敗もあり、その繰り返しの中でどう自分を育てるかとか。まだまだだと思うよ。だって(歳が)倍いってるんだから。

2人の共通点は、「巧打の内野手」ということ。

現役時代の宇津木さん
現役時代の宇津木さん

宇津木さんは現役時代、サードやショートを守っていた。21歳の時には、当時の日本代表としては最年少で世界選手権に出場した。

現役引退後44歳で日本代表監督になった。そしてその頃、ソフトボールがオリンピック競技になった。最強にして盤石、世界選手権7連覇中のアメリカを越えることが日本の悲願だった。

ソフトボール日本代表監督時代の宇津木さん
ソフトボール日本代表監督時代の宇津木さん

厳しくも愛がある、選手との向き合い方。それが宇津木流だ。

坂本は少年時代、金メダルに挑み続ける宇津木さんの姿をテレビで見ていた。

「誰も言わないから勘違いしている」

沖縄の海鮮料理をつまみながら、2人の会話は弾む。

宇津木さんの刺身を取り分ける
宇津木さんの刺身を取り分ける

宇津木:
ソフトボールに対しては真面目だったな。

坂本:
それは僕も野球に対しては。

宇津木:
だから、最初はすごく変な話、“女番長”みたいな感じでさ。

坂本:
そうなんですね。

宇津木:
なんか「ついて来い」みたいな感じで。ただやっぱり孤独だったよね。いつも1人だったから。あんまり友達作るのも嫌だし。そういうのない?

坂本:
僕はだからあれなんです。ここと仲良くて、こっちとは仲良くない、というのがないですね。若い時から。別にみんなと別に“一匹狼”じゃないんですけど、みんなと平等に付き合いするんで。

宇津木:
でも、1年生の時、ルーキーの時見たけど、細かったね。

坂本:
本当にガリガリ。 本当ですよ。体重も10kgぐらい違うんじゃないですかね。

宇津木:
細い。中日戦か何かの映像見たけど。

宇津木:
ずっと私巨人ファンだから。うちの家族が。それこそ長嶋さん、王さんの時代からずっとじゃん。本当に特に母親なんかすごかったわね。原さんが選手の時、(原さんが)打てなかったら、テレビ壊したことがある。それぐらい巨人ファンだから、ずっとドームに行ったり。

坂本:
いつも声かけてくれる。

宇津木:
そうなんですよね。すごく気になるタイプっていうかね。

坂本:
いつも言われるんです。「ちゃんとしなさい」って。もう叱咤激励で、「ちゃんとしなさい、あんた」って。野球の結果をちゃんともっと出しなさいって。

宇津木:
ただ一番私が気になったのは、どこかで誰も言わないから勘違いしちゃっている自分がいるんじゃないかなって。だからそれが心配だったの最初は。だからやっぱり勇人の場合は言ってあげた方がいいのかなって。

今、35歳の坂本選手。“やんちゃな季節”は終わり、後輩たちを引っ張る立場になった。

その反面、全てが自分次第になった。

自主トレで後輩に指導する
自主トレで後輩に指導する

坂本:
基本的にはもう何にも言われないので。まあでも若い時から本当に球場で顔を合わすたびにいつも「ちゃんとしなさい」って言われていたので、もうめちゃくちゃ若い時からですよね。

宇津木:
本当に若い時から何か言いたくなっちゃう。

坂本:
フラフラ…。

宇津木:
フラフラしている訳じゃないけど、何か、なぜか言いたくなるような、そういう風なタイプっていうか。言っても変な態度をとらないし、普通「なんだよ、このおばさんは」と思うじゃないですか。いや思われますよ。

坂本:
そんな態度を取る人いました?今まで。

宇津木:
まあ私は怖いから。そういう風に作られてるじゃん。

坂本:
だって僕ちっちゃい時からテレビで宇津木さん知っていましたけど…。

宇津木:
作られてるもんね。

坂本:
怖い…。

宇津木:
優しいもんね。

坂本:
優しいです。愛があります。

愛があるから歯に衣着せぬ苦言もあった。

宇津木さんだからこそ言える、坂本選手へのエール。

「変える自分も必要」

宇津木:
結果が出ればいいんだけど、結果が出なかったらいろいろな方法ってあるじゃん。ただ取り入れるとかじゃなくて、ちょっと変える自分も必要になるんだよ。これはプレーでも何でもそうだけども、やっぱり最後までもう行くところは自分のバッティングであったり、守り方はあるかもしれないけど。でもちょっと壁に当たった時に、そういう時のいろいろな方法。私なんかはこう、基本に返るね。変な話、ボールを見るとかさ。簡単な。

坂本:
シンプルに。

宇津木:
うん、シンプルに。その方が、自分を戻せるんじゃないかなと思う。どう?

坂本:
変える勇気がないとやっていけないな、というのはめちゃくちゃ思いますね。何か自分の今までの結果にとらわれて、その感覚が正しいと思ってやっていると、絶対長く続かないなと思いますね。

宇津木:
でも、自分の中でいろいろやってみてるんだ。

坂本:
結構変えてやってますね、僕は。結構やっぱり気付かないですよね、自分で。なんかいろいろビデオを見たりもしますけれど。

宇津木:
私なんかすぐわかるよ。変化に。今こうなってるなって。ちょっと腕が太くなったり、ちょっと体ができてきたり。ちょっと太すぎる、腕が太過ぎるんじゃないかなって、だから脇がたためないのかなとか。

坂本:
だからベンチプレスとかも、一時ちゃんとやってたんですけど、できるだけやらないようにしています。最低限にして。難しいです。でも自分で(筋肉が)硬くなっているのはもろに分かるので。若い時に比べると。それは結構意識的に動かすんですけど、難しいですね。

宇津木:
みんな最近体幹大事だからって言うけど、やり過ぎると硬くなるし。ランニング一つにしても、こう(体に)力が入るじゃん、そうすると硬くなるからもっとリラックスして。本当にダラダラ。どっちかっていうと 勇人の走りはダラダラダラダラ、かったるそうに。

坂本:
それよく言われます。かったるそうにって。

宇津木:
あれがいいんだよね。

坂本:
いいですかね。

宇津木:
あれがいい。

坂本:
あれがいいって言ってくれる人なかなかいないですよ。たぶん宇津木さんぐらいですよ。あれがいいって言ってくれるの。

宇津木:
いやそう。あれは力をすごく抜いた走り方だから良いんだよ。

坂本:
だから長くショートやれてたんですかね。

宇津木:
かもしれない。

坂本:
抜けてるから。

宇津木:
抜けてるから。

プロ18年目の”曲がり角”

2023年シーズン終盤、坂本選手に訪れた転機。

中学時代からの定位置ショートを離れ、野球人生で初めてのサードへ転向した。

ショートからサードへ
ショートからサードへ

激務とされるショート。プロ17年間のツケが坂本千選手を襲っていた。ここ2年でケガのため4度の戦線離脱。

守備範囲の狭いサードへの転向は、心身の負担を軽減させるためだ。

そしてもうひとつ、チーム事情にもあった。

巨人2年目の門脇誠(23)
巨人2年目の門脇誠(23)

プロ2年目、23歳の門脇誠選手が昨シーズンブレイク。ショートのレギュラーに定着したのだ。若手の台頭も、サード転向の理由の一つ。

35歳になっての“新たな挑戦”に宇津木さんは。

宇津木:
私はいいと思う。私は社会人の時に2年ごとにポジションを変わって、サードからショート、ショートからセカンド、セカンドからまたサードに戻ってって感じで。だから13年間できたというのがあったんですよ。でも逆に、いろいろなポジションをこなせるということが大事だし。でもやっぱり勇人のショートは見たいなというのはある。まだね。やっぱりね、何かこう安心して見ていられる。サードだったらもっと今度はいけるとは思うけど。自分のポジションで精一杯というのはないと思うけれども、でも多少はバントであったり、三遊間もショートとは違う。楽だからね。 前の(ボール)を止めれば良いんだから。

坂本:
確かに。

宇津木:
で、ちょっと(ボールを取りに)行こうかなと思って、ショートがこれ行けるよなと思ったら、引いちゃえば良いんだから。

坂本 :
そこが分かんないです、まだ。

宇津木:
まあそうだね、そこら辺の三遊間の。

坂本:
引くのか、行くのか。

宇津木:
だから、前にショートが(取りに)こられるようなら。門脇さんは大丈夫だね。

坂本:
門脇は大丈夫ですね。全部任せます。良い子ですね。

宇津木:
真面目だよね。

坂本:
僕とはまた違いますね。真面目な。

宇津木:
全然違う、真面目。努力。努力、努力って感じね。

坂本:
いやいや、努力は僕も。

宇津木:
やっている。やっている。でも、損するタイプだよね。どっちかというと。やっぱり何となくこなしている部分もあるけれども、やはりちょっとね。いろんな意味でそういう見られ方をしているところはあるから。でもすごくやっているのを見て、本当に最近はすごく感心している。

坂本:
最近は 。

宇津木:
いや、ここ何年かね。ずっと見ていてすごいなって。何かちょっとストイックなところあるよね。トレーニングひとつにしても。

坂本:
今までやったら外にご飯を食べに行って、お酒飲んでって、していましたけど、一切ほぼほぼしなくなったので、それはやはりケガとか、次の日できるだけ同じコンディション、いいコンディション。100で行くことはほぼないですけど、できるだけ80、90に近い状態で試合に臨みたいなというのは、この2、3年はずっと思っているんで」

2022・23シーズンでケガによる戦線離脱は4回を数えた
2022・23シーズンでケガによる戦線離脱は4回を数えた

「でもそれでもケガしちゃっているんで。そこはやはりもうアスリートとして何か、一番難しいところなのかなって。若い時は何かそんなに気にしなくてもケガなんかせずにできていたのが、簡単にケガしちゃうようになっているから、そこは難しいですね。

宇津木:
若い時の不摂生が出るんだよ 。

坂本:
今来ているんですかね。

宇津木:
ある。

坂本:
確かにそうですね。

「野球人として、坂本勇人として責任を持て」

1時間にも及んだ2人の対話。最後に宇津木さんは、坂本にこんな言葉を投げた。

宇津木:
野球選手としてもそうだし、坂本勇人という人間として、やはり責任を持って、野球かもしれないけど、1人の人として責任を持って生活なり、行動を取ってほしいなって 。

坂本:
はい、ありがとうございます。いつも、厳しいお言葉を。

宇津木:
そりゃそうだよ。

翌日。沖縄で行われた自主トレーニング。

2人は、言葉ではなくボールで“会話”していた。

内野を一周する宇津木流ノック。

対談の翌日はグラウンドでノック
対談の翌日はグラウンドでノック

坂本:
ヘイ!

宇津木:
ノーバンだぞ!

響き合った、ふたつの鼓動。
白球という名の絆を胸に。

坂本勇人、18年目のシーズンが始まる。

『S-PARK』スポーツ情報をどこよりも詳しく!
2月24日(土)24時35分から
2月25日(日)23時15分から
フジテレビ系列で放送

24日(土)は、日本リーグ時代から日本のサッカー界の礎を築いた2つの名門クラブ、東京ヴェルディと横浜F・マリノスを特集。1993年に誕生したJリーグのオープニングマッチを飾った両チームが、31年の時を経て再び開幕戦で激突する。今回はその2チームにおける、それぞれに受け継がれる魂の物語をお届けします。

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