自民党の浅尾慶一郎前政調会長代理(参院議院運営委員長)は18日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、中小企業が物価上昇率を超える賃上げを実現するには、事業統合を進め、価格競争力を持つようにしていくことが大事だとして、政治としてその後押しをしていきたいと強調した。

経済ジャーナリストの後藤達也氏は、日本の世帯あたり可処分所得がG7(主要7カ国)で最低となっていることに関し、「人手不足やAI(人工知能)で働き方がどんどん変わっていく中で、政府頼み、企業頼みではなく、国民一人一人がどうやって稼ぐ力を高めていくか意識改革がものすごく大切だ」と指摘した。

一方、少子化対策の財源として公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」について、岸田政権は「加入者1人あたりの月平均負担額は2028年度段階で500円弱」との試算を打ち出し、「賃上げと歳出改革により国民の実質負担は増えない」としている。

これに関し、浅尾氏は、年金保険料では年金受給者など保険料を払わなくていい人がおり「全世代が負担する」ことにならないとして、医療保険料への上乗せについて理解を求めた。

以下、番組での主なやりとり。

安宅晃樹キャスター(フジテレビアナウンサー):
日経平均株価はバブル期の1989年12月に付けた3万8,915円に迫る勢いを見せている。いまの日経平均の伸びはバブルなのか本物なのか。

後藤達也氏(経済ジャーナリスト):
確かに89年の頃の景色を覚えている人は、この水準は大丈夫かなと不安になる面もあるかと思う。しかし、企業の稼ぐ力に着目すると、89年の頃は期待中心でまさにバブルになっていた。いまは稼ぐ力もついてきていて、それほどむちゃくちゃな株価がついているというわけではない。ただ、年明けから日経平均は5,000円ぐらい上昇しているので短期的にはちょっとスピード違反かなというところはある。

安宅キャスター:
なぜここまで急激に伸びているのか。1月から新NISAが始まったが、株式の投資信託にどのくらいの資金が入ってきているのかというと、約1兆2,800億円。では、この新NISAが株価を押し上げているのか。内訳を見ると、日本株に投資する商品への流入額は約1,300億円。一方、海外の株式に投資する商品への流入額は約1兆500億円で8割を超えている。つまり新NISAの資金が日経平均株価を押し上げているというわけではなさそう。では、日本株を押し上げているのは一体誰か。1月の日本株の売り買いのデータを見ると、日本の個人と企業は売り越しになっている。一方、海外投資家は約2兆693億円の買い越しになっている。なぜ今、海外の投資家は日本株をこぞって買うのか。

後藤氏:
いくつか理由がある。1つは今、中国の景気、株価も落ち込んできているので、欧米の投資家からすると、アジアのどこかに資金を振り向けようとなった時に、相対的に日本の方が魅力的ではないか、というのがある。それから、日本経済が変わっていくのではないかという期待が結構強まっている。賃上げの機運が高まってきているし、上場企業の経営の姿勢も結構いい形で改善が進んでいくという期待もある。2月も含めると3兆円ぐらいと、記録的な買いになっている。

安宅キャスター:
ただ、この実態はわれわれの生活には届いていないと感じる。15日に内閣府が国内総生産(GDP)を発表した。名目GDPは、2009年にはアメリカに次いで第2位だったが、翌年に中国に追い越されて3位に転落。今回はドイツに抜かれて4位となった。さらに2026年にはインドにも追い越される見通しだ。なぜここまで次々と抜かされていくのか。

後藤氏:
2023年に関してはかなり円安で、為替換算で順位が変わったところもある。ドイツもちょっと(成長力は)弱いので、そこは割り引いてみた方がいい。日本はかつて輸出主導だった。いまも自動車は強いが、エレキやカメラなどいろいろなものが売れていた。いまは売る力が弱くなってきてしまっている。日本のモノ、サービスを買ってもらう力がだんだん弱くなってきている。

安宅キャスター:
実質GDPはどうか。昨年10月から12月期は伸び率マイナス0.1%。2期連続でマイナスとなったことを受けて、多くの海外メディアが報じている。イギリスのBBCは「日本、予想外の景気後退入り」、アメリカのCNBCも「日本経済、予想外の景気後退に陥る。内需低迷が痛手」と、景気後退入り、リセッションに入ったと報じている。景気後退というと過去の例では、バブル崩壊やリーマンショックなどたびたび起こっている。特にリーマンショック時には落ち幅が大きく、13カ月間続いた。海外メディアが報じる通りなら、今回の景気後退のインパクト、期間はどのくらいになりそうか。

後藤氏:
景気後退、リセッションという表現は2四半期連続でマイナス成長になると使われる慣例がある。それに引っかかったというだけで、2023年も前半は結構経済成長していた。1年間で見ると、そこまで悪い状況ではないというところは見ておいたほうがいい。ただ、やはり値上げがどんどん続いて、値上げのニュースが増えてからもう2年ぐらいたっている。買い物疲れが結構出てきたりしていて、個人消費が減速しているので、方向感としてはやはりちょっと暗くなってきているなというところは意識した方がいい。

安宅キャスター:
ずばりどれくらいの期間続きそうか。

後藤氏:
来年は賃上げも広がってきて、経済対策もあれば、それなりのプラス成長にはなると思う。なので、リーマンショックやコロナ禍の時のようなものすごくシャープな落ち込みになるリスクまでは今のところ心配しなくていい。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
現在の株高だが、バブル崩壊以降の「失われた30年」を取り返す最大のチャンスとも言われている。そうした中で、岸田政権が主要なテーマとして掲げている賃上げができるかどうか、これが最大の注目点だ。賃上げに向けてはどのような方策が取られると見ているか。

浅尾慶一郎氏(参院議院運営委員長、自民党前政調会長代理):
いま人手不足が顕著だ。基本的には人を採るために賃上げをしないといけないというのが大前提としてある。賃上げができる会社、どちらかというと大企業中心だが、今年のベースアップは去年以上になるだろう。今回は物価上昇率を超える賃上げに、大企業は間違いなくなると思う。問題は、多くの人が働いている中小企業が、果たして本当に賃上げができるのかどうかだ。基本は粗利を上げないと難しい。要するに日本の経済の根本体質、過当競争のところがあるので、特に中小企業の統合を進めていく。そういう形で粗利率を上げられるようにしていくことが大事ではないか。長い目で見れば、もちろん今ないものを作っていくことが大事だが、短期的にできるのは粗利率を上げる話だ。

要は価格競争力がなぜないか。それは過当競争で「いいよ、お宅に頼まなくても、こっちでできるから」というところがある。日本の場合はもう少し中小企業も含めて事業統合をして価格競争力を持つようにする。要するにそこに頼まなかったら、仕事をやってもらえなかったら、値上げを認めざるを得ない。その後押しを政治がやっていく。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
中小企業も統合していく、淘汰(とうた)を促していくということか。

浅尾氏:
淘汰というより統合だ。そうすることで価格競争力が出てくる。跡継ぎがいないから(事業を)やめるというところが出てきて、そういうところは事業を売るようになってきている。それに対して税を使って統合を促していくことが大事なのかなと思う。もう一つは、例えば、M&Aをやっていく。地域の金融機関は中小企業の情報をいっぱい持っているから、それを全国的にうまくつなげるような形に引きとっていくことが必要なのではないか。

松山キャスター:
株式市場の活況ぶりとは対照的に、日本の世帯あたりの可処分所得はG7(主要7カ国)で最下位という現状がある。消費を喚起させるためには、可処分所得、つまり手取り収入を上げなければいけない。

後藤氏:
それは当然、企業の努力も必要だが、国民一人ひとりの意識改革もすごく大切だ。政府なんとかしてくれ、企業賃上げしてくれ、と文句を言うだけではなく、自分自身でどういうところで活躍できるのか、場合によっては転職していくという手段もある。人手不足、AI(人口知能)で働き方がどんどん変わってくる中で、意外な転職先が広がってくると思う。いま実際(転職する)20代、30代の人は増えている。政府頼み、企業頼みではなく、一人一人がどうやって稼ぐ力を高めていくかという意識、他人頼みではなく考えていくことは結構大事だ。ちょっと言い方は悪いかもしれないが、そういう時代に変わってきている。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
可処分所得は、2002年時点と比べてここ数年増加はしているが、それにも増して社会保険料や税負担が増え続けている。結果、家計の負担が、ワニの口に例えられるように、どんどん膨らんでいることが(図から)わかる。こうした中、少子化対策の財源として医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」について、加入者一人当たりの月平均負担額が2028年度段階で500円弱になるとの試算が明らかになった。

松山キャスター:
1人あたり負担額は月500円弱という答弁がいきなり国会で岸田首相の口から出てきて驚いた人も多いと思う。賃上げと歳出改革で「実質負担は増えない」との説明をしているが、国民はなかなか納得できないのではないか。

浅尾氏:
健康保険料でやるというところをきちんと説明しないといけない。なぜ健康保険料なのか。年金保険料ではないのか。年金だと保険料を払わない人がいる。60歳や65歳以上になって年金受給を始めたら保険料を払わなくていい。そうすると、「全世代が負担する」ということにならないので健康保険でやる。「実質負担なし」ということは、医療費、介護費の支払いを2兆円ほど減らそうというのがまずある。半分は税金だから、税金を入れるのが1兆円減る。残りの1兆円は保険料なので、2028年から(加入者1人あたり)だいたい500円という計算となるが、すごくわかりづらい。

橋下氏:
すごくわかりづらい。

浅尾氏:
健康保険というのは、もともと継ぎ足し、継ぎ足しで行っているから実は大企業に勤めている人の方が、中小企業の人よりも同じ月収30万円でも払う保険料は少なくて済む制度になっている。大企業と中小企業で多分違ってくる。

橋下氏:
「全世代」と言うが、実際には高齢者は、働いている人の保険とは違うので、総額で言うと、75歳以上は19%ぐらいの負担で、80%くらいは74歳以下、現役世代(の負担)だ。働いている人がほとんど負担している。そういうこともしっかり説明せずに、平均値でなんとなく500円と。実際、個別で見ると500円どころか、働いてる人はもっと負担しなければいけない。これはごまかしだ。

しかし、実は年金保険料を拠出金ということで児童手当に使っている前例がある。そうした悪例を僕らは許してしまった。「増税」と言うと、国民が負担を感じるので「保険料で取る」というのは一番こすい政治行政のやり方だ。こういうのは許せない。

保険料は年金と医療に使うのであって、子育て(支援)に使うのは、また別だ。

日曜報道THE PRIME
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