静岡工区の着工の遅れにより、開業目標が「2027年」から「2027年以降」へと変更されたリニア中央新幹線。しかし国土交通省やJR東海と静岡県との見解の相違は著しく、今のところ局面が大きく変わる一手は見えていない。

国と県で異なる“47項目”への認識

いまだ着工が見通せないリニア中央新幹線・静岡工区をめぐっては、JR東海がトンネル掘削によって湧き出た水を全量戻すと表明したことから、静岡県は2018年11月に対話の場として地質構造・水資源部会専門部会と生物多様性部会専門部会の2つを立ち上げた。

ところがJR東海との議論が思うように進まなかったこともあり、翌2019年9月には大井川に水を戻す方法や中下流域の地下水への影響などに関わる懸念点を列記した“引き続き対話を要する事項”を県がJR東海に送付。これが、いわゆる“47項目”と呼ばれるものだ。

県が送付した”引き続き対話を要する事項”
県が送付した”引き続き対話を要する事項”
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こうした状況を打開するため、国土交通省は“47項目”について専門的見地からJR東海に指導や助言を行う有識者会議を設置。そして、有識者会議は水資源に関わる部分について2021年12月に、生物に関わる部分については2023年12月に報告書をまとめた。

川勝知事と面会した国交省・村田鉄道局長(2月7日)
川勝知事と面会した国交省・村田鉄道局長(2月7日)

このため、2月7日に静岡県庁を訪れた国交省の村田茂樹 鉄道局長は、“47項目”についてすべて議論を尽くしたとの認識を示している。

県の現状認識を公表した森副知事(2月5日)
県の現状認識を公表した森副知事(2月5日)

これに対し、県は中央新幹線対策本部長を務める森貴志 副知事が5日に会見を開き、いまだ17項目しか解決していないとの考えを表明。両者の受け止めの違いは明らかだ。

自らの正当性を主張 流域市町をけん制

この点について14日の定例記者会で問われた川勝平太 知事は、有識者会議と専門部会の立ち位置について「これまで地質・水資源と生物多様性と2つの有識者会議があったが、そこで出された見解は県として尊重する。それを持ち帰って専門部会で、もう一度、JR東海とすり合わせをするという立て付けになっている」と主張し、「この件について(村田)局長が『全部終わった』と言われたということだが、それは正確ではない」と反論。

川勝知事による定例記者会見(2月14日)
川勝知事による定例記者会見(2月14日)

生物に関わる有識者会議の最後に、中村太士 座長が「現状のデータ等に基づき検討し、大枠として示した方向は妥当と考えているが、個別の議論において足りないことが無いとは言っていない。県の部会でも建設的な議論をしてほしい」と発言したことに触れ、「今後もJR東海においても具体的な内容を検討する必要があるという認識は国と一致していると考えている」と強調した。

国交相に報告書を提出する中村座長(2023年12月)
国交相に報告書を提出する中村座長(2023年12月)

また、大井川流域に位置する島田市の染谷絹代 市長が県に対して「後戻りがないよう現実的な進捗を図っていくことが大事」と発言したことを念頭に、「(有識者会議の)報告と副知事が言っている中身を照らし合わせると、なぜこういう項目がこれからまだJR東海と議論しなければならないのかよくわかるはず。読み比べれば『もう終わった』という乱暴な総括にはならない」とけん制している。

国交省の提案も“曲解”して自説論じる

一方、7日の面会では村田局長が川勝知事に対して、有識者会議の報告書を踏まえた対策をJR東海が着実に実行しているか確認・監視するための第三者委員会を設置する考えも伝えているが、川勝知事は終了後の取材で「工事の進捗について第三者的な委員会がモニターするということは大変重要。工事の実施計画の進捗をモニターする委員会と受け取っている」と自説を展開。こちらも両者の話に食い違いが生じている。

村田局長との面会後に自説を述べた川勝知事(2月7日)
村田局長との面会後に自説を述べた川勝知事(2月7日)

川勝知事は14日の会見でも自らの見解を曲げることなく「国家的事業なので、従ってモニタリングをするのは個別の論点も必要だろうが、リニア新幹線全体のルートに関わることなので、議論はそこに留まらないだろうと思っている」と口にし、委員の選定についても「JR東海の事業計画、事業の実施についてモニタリングするということなので、公正中立と言うのは極めて重要だと思っている。そういう人物が委員になるのが望ましい、特に座長においてはそうだという考えでいる」と、国交省の認識との違いもどこ吹く風だ。

そして、重ねて「専門性は言うまでもないが、国家的な見地からモニタリングできる人が望ましい。今までの(有識者会議の)座長とは違うレベル、より器の大きな人が求められるのではないか」と述べた。

“静岡悪者論”に反論するが…

ここ最近、川勝知事はリニア中央新幹線をめぐる問題について持論や自説を論じる機会が目立つ。それと同時に「静岡県が工事を遅らせているわけではない」とまくし立てる場面も多い。

なかなか開かれることのない専門部会(2023年8月)
なかなか開かれることのない専門部会(2023年8月)

だが、その言葉とは裏腹に地質構造・水資源部会専門部会は2023年8月を最後に、生物多様性部会専門部会は2023年10月を最後に開かれておらず、県によれば次回の開催日程もまだ決まっていないという。

JR東海との対話のペースは上がるどころか、明らかに落ちている。

(テレビ静岡)

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