大阪府富田林市で2歳の孫を監禁し死亡させた罪などに問われている祖母に懲役9年の判決が言い渡された。
裁判長:主文、被告人を懲役9年に処する。
裁判長から判決を言い渡された被告は、目をつむりじっと下を向いていた。
■優陽ちゃんの手足を縛ったのは「自身の生い立ちが関係」と主張

小野真由美被告(47)は2022年6月、内縁関係にあった桃田貴徳被告(52)と共謀し、孫の優陽ちゃん(当時2歳)を板をはり、ふたをつけたベビーサークルに監禁。そのまま、2泊3日でユニバーサル・スタジオ・ジャパンに出かけ、優陽ちゃんを熱中症で死亡させた罪などに問われている。
小野被告は、自身の三男である優陽ちゃんの父親が離婚し養育できなくなったため、優陽ちゃんを引き取っていた。
小野被告は、優陽ちゃんを放置して死亡させたことは認めているが、事件当日に手足を縛ったことなどは否認している。
一方で、事件以前から優陽ちゃんの手足を縛るようになったのは、「自慰行為をするのをやめさせたかったから」と説明。
裁判では、その背景に自身の生い立ちが関係していたと主張した。
小野真由美被告:自分と優陽を重ねている部分もあり、(自慰行為を)やめさせたい、見たくない気持ちがありました。
小学6年から中学にかけて、自身の母親の交際相手から自慰行為の要求を含む性的虐待を受けていたという小野被告。その母親は小野被告ら子どもたちを家に残したまま交際相手のところに行き、帰らないこともあったという。
■見過ごされたSOS

また、事件の背景からは行政の対応の問題点も。
事件の2カ月ほど前、小野被告は市の担当者に養育の相談をしていた。
小野真由美被告:私の中で限界だったので、施設に入所させたいと訴えましたが、『親権者の同意がないと無理』と言われました。
弁護側はこれらを考慮すると懲役5年6カ月が適切と主張。
一方、検察は「長期間繰り返された虐待の結果で、旅行を楽しむために放置した、身勝手な動機であることは言うまでもない」として懲役9年を求刑した。

そして迎えた、16日の判決。
大阪地裁堺支部はまず、「同居していた4男の供述内容などから、被告が事件当日に優陽ちゃんの手足を縛っていた」と認定。
また、「被害者の自慰行為などをやめさせたかったというが、公的機関への相談など対処をしていなかった」と指摘した。
そのうえで…
裁判長:被害者は衰弱しながら死に至っていて、苦痛や絶望感は察するに余りある。被告人は自ら中心となり養育する立場だったにもかかわらず、ベビーサークルに閉じ込め、緊縛、置き去りを主導しているから、桃田被告より罪は重い。
大阪地裁堺支部は求刑通り懲役9年を言い渡した。
■小野被告の「性的虐待の過去」「行政への求め」は量刑に反映せず

この事件の裁判を傍聴し続けてきた、菊谷雅美記者が解説する。
まずは今回の裁判を見ていく上でのポイントは、どんなところなのだろうか?
関西テレビ菊谷雅美記者:今回の裁判は、量刑がポイントとなりました。つまり、小野被告は、自分がしたことの事実自体は概ね認めていまして、『ただ、私にもこんな辛い事情があった』、具体的には、性的虐待を受けた過去や、行政に助けを求めていながら支援が得られなかったということをアピールして、刑を減らしてもらう情状酌量を求める裁判だったが、まったく認められずに、求刑どおりの懲役9年の判決となりました。
改めて、小野被告の具体的な主張と、今回の判決内容を詳しく見ていく。

最初のポイントは、小野被告が性的虐待を受けた過去があると主張している点だ。
小野被告の主張
・(優陽ちゃんの手足を緊縛したのは)優陽が床に陰部をこすりつける行為をやめさせたかった
・(自分が性的虐待を受けた)トラウマから自分と優陽を重ねている部分があった
このように主張したが、大阪地裁堺支部は「公的機関に相談するなど、手段を検討しなかった」このように指摘した。

2つ目のポイントは、助けてくれなかった行政だ。
小野被告の主張
・市に相談に行ったときに、もう無理だって伝えたつもりだった
・その都度『様子を見てください』という流れだったので、諦めた
このように主張していたが、大阪地裁堺支部は、ここには言及がなかった。

小野被告の主張は認められなかったが、こうした結果になることは、ある程度、予想されたことなのだろうか?
関西テレビ菊谷雅美記者:私自身は、大幅に減刑されることは無いだろうとは思っていましたが、一方で求刑通りの9年という判決は、裁判官と裁判員が全く小野被告に同情しなかったということで、厳しいなと感じました。というのも、小野被告は、公判の中でたびたび優陽ちゃんの話になると涙を流していました。求刑の日には、泣きながら何度も「ごめんなさい」と繰り返し、「二度とこんな悲しい思いはしたくないし、誰にもしてほしくない」と話していて、心から後悔している、罪を悔いているようには見えたので、同情もあるかと思いました。
ただ、裁判を思い返すと、裁判員や裁判官からの質問で『虐待の認識はあったんですか』とか、『優陽ちゃんをサークルに閉じ込める一方、家で飼っている猫は自由に家の中を歩き回っていたんですか』など厳しい質問がありました。
この時点で、ある程度、裁判員たちの心証は固まっていたのだろうなということが垣間見えていた裁判でした。小野被告側の目線から見ると、裁判員・裁判官を「同情」をかうことはできなかったということだと思います。
小野被告の後悔も垣間見える裁判だったということだ。
■小野被告は養育拒否するも、行政は養育を求めた

裁判官・裁判員としては、小野被告の主張を認めなかったが、ただ、小野被告の責任とはまた別の問題として、行政にも責任があったのではないかという点についてみていく。
2020年1月、小野被告は、優陽ちゃんの養育を断るが、結局、行政からの求めに応じるカタチで、養育することになる。
2020年6月、優陽ちゃんが入浴中に溺れて、一時、心肺停止で救急搬送された。ただ、児相は家庭訪問したものの一時保護はしなかった。
2021年の6月には、保育所を退所。
2022年の4月、小野被告が富田林市に「発達のことで養育負担が大きい。施設入所も検討している」と2回相談したが、市は「施設入所は親権者(3男)の同意が必要」と回答。

親権者の3男というのは、小野被告の息子で、優陽ちゃんにとっては父親だが、別居をして優陽ちゃんの養育は、小野被告に任せる形になっていた。
2022年6月、児童発達支援センターの見学を希望し、見学予約をしたが、キャンセルとなり、その後、事件が起こってしまった。
■行政の対応は不適切、知識不足だったと言わざるを得ない
改めて、どこかで誰かが救う手立てはなかったのかという気持ちになるが、具体的には、どのような問題があったのか?専門家に取材した。
東京都の児童相談所で19年間、児童心理司として働いていた山脇由貴子さんは「まず、そもそも、『育てたくない』と言っている人物に、子供を養育させるという選択を取ったこと自体が危険。そして、事故とは言え、一時心肺停止・命の危機に陥ったという事実は重く見るべきで、少なくともここで、一時保護をするべきだったのではないか。加えて、施設への入所について、小野被告から相談を受けた際に、市の担当者は、『親権が3男にあること』を理由に、事実上、断ったわけですが、これは、児相が家庭裁判所に申し立てるという手続きで、実は施設に入所することは不可能ではない。いずれにしても、小野被告が『育てたい』と言って施設の入所を拒否しているのではなく、自ら助けを求めているので、職員たちの対応は不適切、知識不足だったと言わざるを得ない」と指摘している。
■同じことを繰り返さないためには、より一層の行政の介入などが必要

小野被告がやったことは許されることではない。
「newsランナー」のコメンテーターのジャーナリストである浜田敬子さんは「本当に何度も同じことを繰り返している。必ずどこかに救えるチャンスがあるのに、なぜそれが起きるのかというと、児童相談所とか行政も現場のマンパワーが足りない、人手不足や予算不足、知識不足がある。知識が少ないのは研修がされてなかったり、人が入れ替わっていたり。岸田首相は異次元の少子化対策というのであれば、こういうところに予算をきちんと割いて、人手をかけて、研修をしてほしい。家庭に一層深く介入して行く。なぜこれが起きたのか、一つ一つの事件を、行政は検証することが必要」と述べた。
関西テレビ菊谷記者:何の罪もない2歳の子が、たったひとりでサークルの中で亡くなっていったというのは、本当に悲劇だったと思います。だからこそ、その背景にある問題、行政の支援などを社会全体で考えないといけないと感じました。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月16日放送)