京都アニメーション放火殺人事件の裁判で、殺人などの罪に問われた青葉真司被告に対し、京都地方裁判所は25日、死刑を言い渡した。

全身に大やけどを負った青葉被告の主治医を務めた、医師の上田敬博教授は、「命の重み尊さを逆に実感したんじゃないか」と語った。

自らが放った火で全身の93%に火傷を負い、意識不明だった青葉被告は、わずかに残った皮膚を培養して移植する手術を繰り返し受けた。事件の直後からおよそ4カ月にわたって青葉被告の治療を担当したのが当時、近畿大学病院で勤務していた上田教授だ。

■救命されたとき、あるいはそれ以上に命の重み尊さを実感したのでは

25日、青葉被告の裁判が始まったとき、上田教授は午後に予定されていた記者会見のため、現在の勤務先の病院がある鳥取県米子市から京都に移動していた。裁判開始直後、進行状況をニュースで確認し、車中で次のように語った。

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:主文を述べず理由から読み上げ…ほぼほぼ死刑判決ですね。

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治療中、上田教授は青葉被告に対し「罪と向き合い、償うべきだ」「命の大切さを理解してほしい」そう何度も伝えていたという。

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:死刑という言葉を受けた時に、救命されたときと、あるいはそれ以上に命の重み尊さを逆に実感したんじゃないか。今この時が一番自分の命というので初めて命の尊さを感じてるのではないかと思います。今回のこういう判決が出た、出るっていうところまでこれたっていうのは、ここでやっと僕らが治療した意味があったっていうのを感じるときだと思う。その判決内容はどうであれ、判決が出るっていうところまで、こぎつけることができたっていうのは、大事だと思います。

■まったく同情するつもりはない

午後1時半過ぎ、死刑判決が言い渡されたことがニュースで伝えられると、上田教授はあらためて次のように述べた。

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:救命して裁判の場に立たせるというところまで来れたことについて、意味があったというか。申し訳ないんですけど、まったく同情するつもりはないし、犯してしまった罪の重さを思い知ってほしいなと思います。

瀕死の重傷を負った青葉被告。その命を救った医師の口から出たのは、判決を冷静に受け止めた、厳しい言葉だった。

■伝えようと思ったことはあったのでは

25日午後6時から、京都市内で開かれた記者会見で、上田教授は以下のように述べた。

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:判決そのものには関心を持っていませんでした。司法が決めるもので、それを冷静に受け止めました。驚きもなく、死刑判決が出たんだなと受け止めました。
 実際に裁判を聞いたわけではありませんが、一番気になっていたのは遺族や被害者の気持ちを逆なでするというか、二度目の被害というか、心を痛めてしまうような裁判になる可能性があるということです。その中で、裁判の記録を見ただけの感想ですが、彼をかばったり擁護したりする気はありませんが、言葉の使い方、表現の仕方は上手ではない人間だと治療をしているときは感じていました。なので、彼の発言で不快に思った人がたくさんいるとは思いますが、その中に彼なりの伝えようと思ったことはあったのではないかと思いました。

■危惧したのは「黙秘」

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:最初に気にしていたのは、裁判の初日に黙秘というか発言をしない、そういう裁判を続けるのではと危惧していました。不適切かもしれないけど、彼の言葉で、答弁をしたというか、答えた。それが最後まで、結審まで行ったということに関しては最低限、彼の中の最低限やらなければならないことはやったのではないか。
 結審の直前くらいに、弁護団の方に、さえぎられそうになった場面もあったと聞いていますが、自分で謝罪、お詫びを、少しでも出そうとしているのではないかと感じました。
 僕ら医療チームの思い上がりかもしれないけど、我々が損得なしに彼に正面からぶつかっていった姿勢を、どこかで受け止めて、結果的にああいう発言をしたのではないかと思いたいです。

■「なんで助けるんだ」と何度も尋ねた

たくさんの犠牲者や被害者を出した加害者・容疑者をどうして治療するんだという声が一部であることについて上田教授は、以下のように述べた。

鳥取大学医学部附属病院 上田敬博教授:目の前で絶命しかけている人がいたら救うのが私の職種です。とどめをさすなんてもってのほか。彼を救命するのは当たり前だと思っていました。いろんな声があるかもしれませんが、一番大切なのは犠牲になった方、遺族、被害にあった方、家族にとって、死に逃げさせてはいけない、司法の場に立たせるということ。自分らの手を離れるまでは一貫して変わらりませんでした。
 なんで自分を助けるんだ、存在する価値も生きてる価値もない自分をなぜ救命するのか分からないと何度も尋ねていました。何度も尋ねること自体から、かれの孤独・孤立、絶望している彼自身が見えてきて、そういう気持ちでこういう犯罪を犯すのはやってはいけないということ、きょうの判決が出ようが出まいが、それを気づかせるのは、治療を通して伝える必要があることだと、治療を通してそういう向き合いをしました。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月25日放送)

関西テレビ
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