今もたくさんの人が避難生活を送る石川県珠洲市で撮影を続ける映像作家がいる。その目で見た、避難者の現実とは。

この記事の画像(8枚)

地震の発生から約2週間がたった珠洲市・蛸島(たこじま)地区。避難所の運営は、日常を奪われた被災者自らの手によって行われていた。

(Q避難所運営は有志で?)
有馬尚史さん:
これは全員避難者の中で手分けしてやっています。全員被災者ですね。おうちに帰れない方。

■去年の地震から復興の矢先 さらに大きな地震が発生

映像作家で、自らも被災した有馬尚史さん。避難所の運営を担っています。運営スタッフの仕事は多岐にわたる。

有馬尚史さん:
おはようございます。9時になりましたので、スタッフの方は職員室にお集まりください。

避難所スタッフ:
2次避難の件について、けさ再度確認したことがあります。途中で『私戻りたい』と言っても、帰りの便とかそういうものは想定していない。

千葉県出身の有馬さんは、去年5月に珠洲市を襲った震度6強の地震をきっかけに、復興を描くドキュメンタリー映画を撮影するため、蛸島に来た。そして、住民たちの正月の暮らしの撮影を終えたあと、被災した。

有馬尚史さん:
本当に今年の年末年始は復興の匂いがして、笑顔が戻ってきたというか、ずっとうれしい気分で見てた中で、去年の地震の比じゃないものがきて、街が全部ぺしゃんこになっている状態。言葉にならない。

■助かった支援は「電気」 2次避難できない人も

地震直後は、最大で約800人が、この場所で避難生活を送っていた。

避難者:
1日2食みたい。朝昼兼用1回、夜1回。(Q物資は足りていない?)足りない。水はない。精米器が壊れているから自宅のやつを持ち寄りして

約2週間がたち、電気も通り、支援物資も届くように。簡易シャワーも到着し、11日ぶりにお湯で頭を洗うことができた。

避難者:
すごい気持ちよくて、震災前の普通の日常、幸せやったなって感じて。早く戻りたいなって思いました。

有馬さんは、こうした状況の変化を見守ってきた。
有馬尚史さん:
物資が来ないっていうのが、1月3日とか4日くらい。ずっと来ないっていうのがあって。おにぎりとか、そういったものが底を尽きたら終わりみたいな状況でした。道路整備が早急に行われたのか、道が通れるようになって、結構情報が広がっていったのか、物資が来て。一番助かった支援はやっぱり電気ですかね。本当に真っ暗な中で、階段とかも夜すぐ暗くなっちゃうので。

それでも断水は続き、珠洲市長が「市内の9割の住宅が、全壊またはほぼ全壊」と話すなど、多くの人が家には戻れない状況だ。

親戚などを頼って珠洲市外に出ていく人も多く、最大800人ほどいた避難者は4分の1にまで減りった。元の生活が戻るめどは立たず、珠洲市を離れる人はさらに増えているが、そうできない人もいる。

避難者:
(あと)1週間でここにおらん。子供たちの段取りで金沢へ。もう帰ってこん。

避難者:
どうしようかねってしゃべっている。(Q2次避難はしない?)一人やからね、知らんところ行っても夜寝られんから

 中には、珠洲市を離れることができるにも関わらず、あえてとどまっている人もいる。
避難所スタッフ:
地区の区長もしているので、自分だけ逃げるというか、2次避難するというのも心苦しい面もあるので。しばらくはこっちにいようかなと思ってます。

■映像作家が取材してきた夫婦 それぞれの思いを抱いて珠洲市で生活続ける

有馬さんが取材していた室谷忠夫さんと、その妻・美恵子さんも、珠洲市に残り続けていた。

室谷美恵子さん:名古屋のボランティアの方がけんちん汁(作ってくれた)。
室谷忠夫さん:そりゃおいしいやん。

有馬尚史さん:芋焼いている間にインタビューは?
室谷忠夫さん:インタビュー?答えることないわ

 夫の忠夫さんは一人でいたいと家で暮らしているが、妻の美恵子さんは避難所でスタッフを務めている。美恵子さんは「長年ともに暮らしてきた地域の人たちと支えあって乗り越えたい」と考え、避難所生活を選んだ。

室谷美恵子さん:みんな自分で家に住めるわけない。だから避難所におるやろ。地震で今までの生活と全く変わってしまった。今までのことを思っててもだめ
避難者:七尾から水きとらんの?
室谷美恵子さん:七尾からこっちはだめ。もうちょっと待っといて。自衛隊の人ががんばってるから、そのうちお風呂もできる。もうちょっとがんばって。

美恵子さんは、有馬さんとともに、被災して以降初めて実家の様子を見に行った。地震が起きる前、有馬さんはこの家で撮影を行っていた。

室谷美恵子さん:私も今初めて入った。なんか悲しくなりますね。築き上げたものが…
有馬尚史さん:あそこで雑煮食べましたね。

ほんの数時間前まで、そこにあった日常は、なくなった。
室谷美恵子さん:
行事があるたびに(家族で)ここに集まって。(Q思い出の場所?)そうそう。(散らかった家の中を見て)一個一個買い求めたものが全部なんか…胸にしまってありますけど。見えるものがなくなってしまった。

街からは人が減り、建物は崩れたまま。いつもどおりの街並みが戻る日が来るのかは、分からない。

室谷美恵子さん:
とにかく助かった命やから、みんなで気強くがんばって生きていこうというところですね。これがいつまで続くのかなあ。

有馬尚史さん:
前の街の雰囲気とか、街並みがすごい好きで。正直復興したところで、街にとって良いものになっていくとは思えない。そこは悲しいですね。

地震発生から2週間。それぞれの思いを抱えながら、被災地の生活は続いている。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月15日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。