難病「ALS」患者の女性の依頼で薬物を投与し、殺害した罪などに問われている医師の男の裁判員裁判。男は起訴内容を認めた一方で、「女性の願いをかなえるために行った」と述べ、弁護側は無罪を主張した。
大久保愉一被告:
私は林さんの願いをかなえるために行ったことです。
裁判冒頭、自身の行為を“正当化”するような発言をした、医師の大久保愉一被告(45)。注目の裁判が11日、京都地方裁判所で始まった。
■「安楽死肯定」の医師がALS患者の女性とSNSで連絡を取り犯行計画立てたか

大久保被告は2019年、元医師の山本直樹被告(46)と共謀し、京都市内のマンションで林優里さん(当時51)の依頼を受け、薬物を投与し殺害した「嘱託殺人」の罪などに問われている。

林さんは、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「ALS=筋萎縮性側索硬化症」を患い、SNSで安楽死を望む投稿をしていた。
林さんのSNSより:
屈辱的で惨めな毎日がずっと続く。ひとときも耐えられない。安楽死させてください
そこに近づいたのが、「安楽死」を肯定するような投稿をしていた大久保被告だった。
大久保被告のSNSより:
たしかに作業はシンプルです。訴追されないならお手伝いしたいのですが
林さんのSNSより:
『お手伝いしたいのですが』という言葉がうれしくて泣けてきました
林さんとSNSで連絡を重ね、犯行計画を立てた大久保被告。事件の前には、捜査機関に発覚しないで人を殺害する方法「医療に紛れて殺害マニュアル」と題する文章を作成し、山本被告と共有していたことが明らかになっている。 その後、林さんはヘルパーに依頼し、大久保被告が指定した山本被告の口座に130万円を振り込んでいる。

先立って行われた山本被告の裁判で、京都地裁は去年12月に、「大久保被告が犯行を主導・立案し、山本被告はその指示に従った」と2人の共謀を認定。山本被告に懲役2年6カ月の実刑判決を言い渡した。
そして11日に行われた、「首謀者」とされる大久保被告の初公判。これまで、認否が明らかにされておらず、裁判所には傍聴券を求める列ができた。林さんと同じALS患者の増田英明さんや、一連の裁判を見つめてきた林さんを担当していたヘルパーも傍聴に訪れた。
林さんの担当ヘルパー:
(裁判が)どうなるのかなって、すごく複雑な心境です。でもやっぱり許せへん。それにつきるかな
■「起訴状の通り間違いない。ただ、林さんの願いを叶えるために行ったこと」

注目の裁判員裁判。紺色のスーツ姿で法廷に立った大久保被告は冒頭…
大久保愉一被告:
起訴状の通り間違いありません。ただ、私は林さんの願いをかなえるために行ったことです
はっきりとした声で起訴内容を認めた一方で、あくまで「林さんのために行った」と主張した。弁護側は、嘱託殺人罪を適用するのは、望まない生を強いることになり憲法に反すると話し、無罪を主張した。弁護側の陳述の間、大久保被告は目に涙を浮かべ、時折ハンカチで目頭を押さえた。
一方で検察側は、「報酬が支払われる前提で殺人の依頼を受け、医師にも関わらず何の検査もせずに短期間で犯行に及んでいて、正当な行為に当たらない」と主張。
裁判を傍聴していた林さんのヘルパーは…
林さんの担当ヘルパー:
やっぱりつらい。今でもつらいもん。生きててほしかったっていうのは思うし。(大久保被告の)涙は、正当化して、正義感を振りかざしてやった結果、捕まって自分の人生がなくなって悔しくて泣いてるのか。涙が優里さんにとっての涙ではないなっていうふうにはすごく強く感じた
判決は3月5日に言い渡される予定だ。
■「決して他人事ではない問題」と菊地幸夫弁護士

11日の裁判について、「newsランナー」コメンテーターの菊地幸夫弁護士に聞いた。
菊地幸夫弁護士:
日本の法律では、自ら死を選ぶということは違法ではないとされています。ただ、それに関与する他人の行為、自殺のほう助とか、今回問題になっている嘱託殺人は処罰するという前提に立っています。
ただ、非常に重い問題です。中には真剣に死を望んでおられる方というのもいらっしゃるわけですね。その方の願いというのは、究極の自己決定権の問題で、それを認めるのか否定するのか、本当にこれは難しい問題なんだと思います。特に重い病気で自ら死を選べない方に対して、その死に関与するような行為を禁止するということになると、その方は死を選べないことになります。弁護側が提起している重い問題は確かにあるんだと思います。
ただ、検察側が指摘しているとおり、少なくない金額が動いていて、医療行為ではない。医療行為は人を助ける行為ですから、人を死なせることは医療行為ではありません。いくら医師の資格があるからといって、医療行為でない行為に関して、多額の金銭を受け取って、人の死に関与するという、今回のケースでいえば、無罪ということには私は疑問があります。
例えば「老々介護」の現場など、多くの方が直面している問題でもあります。どなたにとっても決して他人事ではない問題だと思います。

改めて11日の裁判について整理する。大久保被告は起訴内容を認め、行為を正当化。「林さんの願いをかなえるために行った」とした。
これに対し、検察側は正当な行為ではなく、刑事責任に問えるとしている。
それに対して弁護側の主張は、嘱託殺人罪の適用は望まない生を強いられ憲法に反するとして、無罪を主張した。
これから大久保被告の行為が嘱託殺人罪にあたるのか争点になる。判決は3月に言い渡されるが、これから続く裁判の内容に注目だ。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月11日放送)