一般ドライバーが自家用車を使って、有料で客を運ぶ「ライドシェア」を、2024年4月から大幅に解禁する方針を固めた。 「ライドシェア」の安全性そして料金について、交通事情に詳しい、流通経済大学の板谷和也教授に解説してもらう。

https://youtu.be/qxHDaEMM7EI

■「ライドシェア」の政府案

まずは政府が発表したライドシェアの中身を見ていく。

12月20日、発表された政府の方針では、2024年4月から、タクシーが不足している地域や時間帯を限定し、地域のドライバー・自家用車を活用して行い、配車はアプリで行うものと想定。そして、運行管理はタクシー会社が行うということだ。

この政府の方針について、板谷教授は「タクシー会社に配慮しドライバーを確保する策」になりえると考えている。

Q.これで本当にドライバーの確保につながるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
もともとタクシー会社は2種免許を持っていない方も、ドライバーとして採用するということをやっていました。そういう方を採用した時には、2種免許の取得を会社側が金銭を負担して、研修を施して、タクシーの運転手として働いてもらうということをやっていたのですが、今回その部分が要らなくなるので、採用したらすぐタクシーの運転手として働いてもらうことができるようになります。タクシーの事業者側からすると、この部分が軽減されますので、今までよりも少し人手不足の解消につながる可能性があると思っています

■安全性はタクシー会社基準で安心?

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私たち、利用者側として気になるのは安全についてだ。これに対して政府は、タクシー会社が運行を管理するとしている。ただ取材したタクシー会社からは「保険は運転手なのかタクシー会社、どちらが負担するのか?」「ライドシェアで扱う自家用車がどんな状態の車か分からない」という不安の声があがった。

Q.このようにタクシー会社からはこのような不安の声が聞かれますが、自家用車を使うライドシェアですが、タクシー会社はどこまで運行管理ができるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
車両のことについては、今回の政府案で詳しく触れられていないので、よくわからないですね。実際にいろんな人たちが持ってる、普通の車でタクシーなどの業務をしようとすると、例えばメーターはどうするなどの問題があって、実際問題、自家用車をすぐにタクシーとして使うことは、難しいのではないかと思っています。保険については、タクシー会社側でおそらく負担できるだろうと思いますが、自家用車についてはそういうわけで、あまり現実的でないので、例えばタクシー事業者の方で、人がいないだけで車両が余っているというところはありますので、そういう車両を使って運転者だけライドシェアの型を使うとうことも想定しているかもしれません

Q.どのような状態の車かわからないということで、例えば軽トラックなどでもライドシェアとして使われる可能性があるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
運行管理をタクシー事業者に任せるということをいっていますので、おそらく、タクシー事業者側でタクシーとして使えそうな車両かどうかの審査をすることになるだろうと思います。たださっき申し上げたように、メーターが乗らない場合は、アプリで全部決済しないといけませんが、それが今の日本で十分に体制が整っていませんので、そもそもそこまで行くかどうかもよく分かりません。特に軽トラのように、1人しか乗せられないし、荷物を置く場所もないような車をタクシーとして認めるかというと、タクシー事業者が一般的には認めるとは思えませんので、そのあたりについては変な車両が来るというようなことは考えなくてよいと思います

■ライドシェアは場所によっては稼げる可能性も

今回のライドシェアについてはいくつかの疑問を板谷教授に聞いた。

Q.免許があれば、初心者やペーパードライバー、高齢者の方でもなれるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
制度上、誰でもいいということになっているわけですけど、それを実際に審査するのがタクシー事業者ということだと思います。これまでもタクシー事業者ではドライバーとしてふさわしい人かどうかの審査はかなりきっちりやってきたところが多いと思います。そうしますと、タクシードライバーとして、ふさわしくない人はライドシェアの運転手としては採用しない方がいいと、おそらく想定して人選をしてくださるのではないかなと。それはちょっと私が期待しているところです

Q.ドライバーはどれくらい稼げるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
制度がはっきりしてないので、何とも言えないのですが、たくさんのお客さんが乗ってくださるのであれば、そこそこ稼げる可能性はあります。しかしお客さんがいるかどうかっていうのは状況と地域に左右されます。さらに、特に山間部や、あるいは地方で全然お客さんが、今いないようなところでライドシェアをやってもおそらくそんなに稼げないのではないかと思います。そうすると、そもそもライドシェアをやりたいという人が出てくるかどうかもわからないかもしれないです

■これから利便性は向上していく

一方で、利用者側の疑問は…

Q.支払いは先払いなのか、メーターなのか?

流通経済大学 板谷和也教授:
アプリの導入がどうなるかにもよると思います。現状ですと先払いができるアプリを実際に導入して使えているところが、ほとんどありませんので、現実的にはメーターがないと、おそらくタクシー事業的なことはできないわけです。そうすると自家用車でやる場合には、メーターをつけなればいけないのですが、これは結構お金がかかりますので、ここをどうするかはこれから調整になると思います。アプリがちゃんと普及して、先払いあるいはアプリを通じた決済が一般的になってくるのであれば、そういうやり方でできるようになります

Q.料金はタクシーよりも安いのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
制度上タクシーと区別をすることになると、ややこしくなりますので、原則タクシーと同じになるんだろうと思います。アプリで配車をする時に、ライドシェアですよってわかった時に割引するという方法などであれば、ライドシェアを使う方は増えると思います。それに既存のタクシードライバーの方々が賛成するかっていうと、そうではないでしょうから、運賃の設定の仕方も地域ごと、あるいはタクシー事業者ごとに設定して行く必要があります。ですので、この政府案だけでは何も決められないっていうか、分からないです

Q.今アプリが使えない地域でも今後使えるようになるのでしょうか?

流通経済大学 板谷和也教授:
逆にそういう状態を作っていくために今回の案を出しているのだと思います。要するに今の段階ではメーターで普通に乗るタクシーしかないところでも、アプリを使って配車ができるようになれば、便利になるんじゃないかと、そういうふうになってほしいという政府の期待なのではないかなと思いました

■タクシー業界の改革を

タクシー不足問題で重要なのは、ライドシェア導入の前にタクシー業界の改革が必要、ドライバーが安心して稼げる環境だ。 ちなみにタクシードライバーの一番の稼ぎ時が深夜という時間帯であることや、平均年収が361万円であるという現実がある。

番組コメンテーターでジャーナリストの鈴木哲夫さんは「タクシー業界の中でも労働条件の改善を行うことや、個人タクシーになるための条件緩和などの、業界全体の改革もライドシェアの検討と同時に進めていかなければならない」と指摘している。

流通経済大学 板谷和也教授:
タクシー事業者にもいろいろな会社があって、会社側の取り分が多くて、タクシードライバーの方々が一生懸命働いても、なかなか稼ぎが増えていかないような会社もたくさんあります。一方で個人タクシーについてはすごく制限がきつく、制限がきつい理由は、全部車両の管理から運行管理まで、一人でやらないといけないということがあります。ハードルが高くなるのはやむを得ないのですが、この時代ですので、もう少し個人タクシーになるための規制を緩めていくというのは、方法の一つとしてあるのではないかと思います。私も本来、ライドシェアの前にそちらを議論すべきではなかったのかなという気はしています。一方で、それをやったところで、稼ぎが増えるのかというと、必ずしもそうではなくて、それは運賃に制限がかかっているからです。ある決まった金額以上をタクシーで払ってもらうということが、今はできないような仕組みになっています。これにはいろいろ経緯がありそういう風になっていますので、しょうがありません。ここを少し緩和して、例えば状況によって、いつもは2000円で行けるような行き先でも、たくさんの人が待っている場合には3000円、4000円の高い金額に設定し、あまり人がいない時には1000円で行けるとか、そういう幅運賃のようなものを導入できるようになると、稼ぎは全体としては増えるのではないかと思います。ただ一方でそういう運賃を導入すると、損をする得をするといったようなこともありますし、高い運賃しかない時間帯には貧乏な人が移動できないというようなことも問題として出てきますので、この辺りの問題は2カ月や3カ月の政府の議論だけで、全部解決できると私もとても思えません。今後の課題になるのではないかと思います

■タクシーが足りないところにライドシェアを

視聴者から、LINEに「ライドシェアが増えるとタクシーが減ってしまいませんか? 」と質問。

流通経済大学 板谷和也教授:
実際にライドシェアが増えた場合にタクシーが減ることは可能性としてあります。ただ今の段階で、それをあまり気にする必要はないと思います。私の見込みでは、いまの政府案ではライドシェアで働く方々が、たくさん稼げる状態になっていないので、そこまで増えないような気がします。そのためタクシーがすぐに減るということはないと思います

Q.繁華街ではタクシーの空車も目立ち本当に不足していますか?

流通経済大学 板谷和也教授:
場所と時間によってタクシーの需要って全く違います。今この時にはすごくタクシーが足りないけど、別の時間帯には余って困っているというようなことがよくあります。どこで不足しているかというのは、データを使ってきちんと把握しないといけません。今回の政府案では、本当に不足しているところでライドシェアを導入してはどうかということをやっていますので、足りないところを見定めて、実験的に取り組んでいくということであれば、こういう取り組み自体は積極的に行っていくべきではないかと私は思っています

まだまだ課題が山積のライドシェアだが、ドライバー、乗客の双方が快適で安心して乗れるような仕組みにする必要がある。

(関西テレビ「newsランナー」2023年12月20日放送)

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