「賭博で1億ウォン(約1120万円)以上を失いました」―。
韓国に駐在する筆者の前でこう告白したのは、中学3年の少年(15)だった。

違法なのに青少年にも浸透 韓国政府が対策本腰

とはいえ、賭博場に行くのではない。スマートフォン上の仮想画面を通してプレーするカジノにハマったのだという。

オンライン賭博中毒の実態を語る15歳の少年(中央)
オンライン賭博中毒の実態を語る15歳の少年(中央)
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こうしたオンラインで行う賭博は、韓国でも日本でも違法だ。にもかかわらず両国とも利用者が急増し、日本では100万人~200万人に上るとの推計もある。

一方、韓国ではその手軽さから青少年にまで浸透し、深刻な問題となっているのだ。韓国政府は11月、青少年による賭博の根絶に向け、取締りや依存症の治療・リハビリなどを幅広く行う特別チームを立ち上げたが、賭博の舞台が“オンライン”であることが、その対策をより難しくしていた。

賭博中毒に陥った少年たちの証言

11月15日、筆者はソウル中心部から車で3時間ほど南にある茂朱(ムジュ)郡に向かった。その山あいに建つ青少年治療施設で、オンライン賭博依存に陥った中高生が共同生活を送っていた。韓国政府が今年始めた合宿形式の治療プログラムで、冒頭の少年も参加者の一人だ。

韓国南部・茂朱(ムジュ)の国立青少年治療施設「ドリーム村」
韓国南部・茂朱(ムジュ)の国立青少年治療施設「ドリーム村」

「クラスメートの半数以上が賭博をしていました。勧められてバカラやブラックジャックを始めましたが、1日に4000万ウォン(約448万円)損することもありました」。オンライン賭博はスマホさえあれば24時間どこでも参加でき、わずか数秒~数十秒で多額の金銭が動く。少年は友人から借金したり、逆にお金を貸して利子(50%)を集めたりして賭博の資金をやりくりしていたという。

実際のオンライン賭博の画面(青少年メディア環境保護センターの資料より)
実際のオンライン賭博の画面(青少年メディア環境保護センターの資料より)

17歳の別の少年は「本当のお金をいじる訳ではない」ため、感覚がまひしていたと振り返る。一般的にオンライン賭博のサイト内では、所持金が専用のコインやポイントで表示されるという。少年は「賭博に出会って、他のゲームなど全てがつまらなくなりました」とも明かした。
資金が底を付くと、ネット上の知人に本名や学校など個人情報を教えてまで借金した。ピーク時の借金は約900万ウォン(約100万円)。結局、その知人から返済を催促する連絡が学校に入り、見かねた担任が合宿に送り出したという。

一筋縄ではいかない治療 合宿から“脱落”相次ぐ

合宿は2週間に近い11泊12日。大学生の相談員らと生活しながら、専門家によるカウンセリングを受けるほか、金融・経済に関する授業、音楽・美術・体育の部活動なども行う。

指で弾いて音を鳴らす『カリンバ』を使った音楽の授業
指で弾いて音を鳴らす『カリンバ』を使った音楽の授業

期間中、テレビやスマホの使用は禁じられ、参加者17人中6人が途中離脱した。取材に訪れた日も、参加者1人が廊下に消火器を噴射し、警察が出動する騒ぎを起こした末に退所した。
先に述べた17歳の少年も「カウンセリングで自分の気持ちを理解してくれて良かった」と話す一方、退所後の不安を口にした。「賭博との縁を切りたいが、ふとネット上で見かけたら、やりたい気持ちが抑えられなくなるかもしれない」。

合宿の終盤「お金を失ったらお金を払うゲームで取り戻すのが一番早い」との問いに3人が「◯」と答えた
合宿の終盤「お金を失ったらお金を払うゲームで取り戻すのが一番早い」との問いに3人が「◯」と答えた

韓国の女性家族省が2023年4月に中学1年と高校1年の約88万人を対象に行った調査では、「オンライン賭博中毒の危険がある」生徒は約2万9千人に上った。また別の調査では小学生~高校生の4人に1人が、直近の3カ月で賭博をしたことがあると答え、初めて賭博をする年齢は平均で11.3歳だった。

合宿の参加者が共同生活を送る部屋
合宿の参加者が共同生活を送る部屋

合宿プログラムを開発したカトリック大学精神健康医学科のイ・ヘグク教授は「幼い頃に始めるほど中毒になりやすい。特に競争社会の韓国ではお金を重視する文化が強く、青少年が賭博にハマりやすい」と指摘した。

借金地獄で2次犯罪も…拠点の取締りは困難

さらに深刻なのは、オンライン賭博による青少年の“2次犯罪”だ。

2023年1月、韓国南部の済州島で、止まっていた車から数千万ウォン相当の金品を盗んで拘束された中学生3人は、賭博の借金を返済するため犯行に及んでいたという。韓国では未成年者が賭博の資金を得ようとして逮捕される事例が年間100件を超えている(現地メディア)。また、高校生が賭博による借金苦で自ら命を絶つケースも発生している。

青少年によるオンライン賭博問題を受け 特別チームの発足を指示する尹錫悦大統領(10月)
青少年によるオンライン賭博問題を受け 特別チームの発足を指示する尹錫悦大統領(10月)

事態を重く見た韓国政府は11月に省庁を横断した特別チームを発足させ、依存症の治療に加え、青少年向けの違法賭博サイトや広告の遮断、運営組織に対する取締りを行っている。
しかし、オンライン賭博の多くは海外に拠点を置き、現地ではライセンスを得て運営されている場合もあるなど、“大元”まで捜査は及びにくい。しかも賭博業者は、無料でドラマや映画を見られる合法のサイトなどから違法賭博サイトへ巧みに誘導するため、利用者とサイトとの接点を断つことは容易ではないという。

前述の茂朱郡にある施設のペ・ヨンテ委員長は「まずは親が子供のスマホの使用状況に関心を持たなければならない。もし子供の借金が発覚した場合は、親ではなく自分で返済する方法を一緒に考えるべきだ」と指摘する。

日本でも利用急増 “デマ野放し”で違法性の認識広がらず

韓国の現状は決して対岸の火事ではない。

日本では公営ギャンブル以外の賭博は刑法で禁止されていて、たとえ運営元が海外でも、日本からオンラインカジノに参加するのは、れっきとした犯罪だ。

しかしコロナ禍で在宅時間が増え、日本でもオンライン賭博の利用は急増した。オンラインカジノへの日本からのアクセス数は2021年には月に約1億2千万回と、コロナ前の2018年に比べ、100倍以上に伸びたとの調査結果もある。
こうした中、警察は2023年9月、利用者とカジノを金銭面で仲介する決済代行会社を立件するなど、取締りを強化。またオンライン賭博は犯罪であるとホームページ上で注意喚起を続けているが、ネット上は依然として、カジノがあまりに身近な状態だ。

“オンラインカジノ”と検索すると、日本語でカジノを紹介する“誘導サイト”が多数ヒットする。サイトでは「初心者でも安心」「他のギャンブルより確実に儲けやすい」といった文言が並び、あたかも違法性がないかのようにうたっている。

国際カジノ研究所(東京)が2023年に実施した調査によると、オンラインカジノを“違法”と認識している人は44%と半数以下にとどまった。

警察をはじめ、国は取締りだけでなく、犯罪行為であることを強く発信し、ネット上における誘導サイトなどの規制も検討すべきと考える。

仲村健太郎
仲村健太郎

FNNソウル支局特派員。
テレビ西日本報道部で福岡県警・行政担当 、北九州支局駐在。
2021年7月~現職。